2003年6月はこの2公演

 


動物電気「集まれ!夏野菜」

下北沢駅前劇場 6/4〜6/11
6/6(土)観劇。最後列(招待)

作・演出 政岡泰志

 庭に小さな家庭菜園を作れるくらいの一軒家。主人はトラック運転手の蝶太郎(小林健一)。その妻・龍子(政岡泰志)は、日がなゴロゴロ暮らしていて昔の面影はない。いわゆる倦怠期の夫婦である。が、蝶太郎は妻に昔の様に綺麗になって欲しいと願っている(回想シーンでは、若い頃の蝶太郎を多田淳之介、若い頃の龍子を石川明子が演じている・・・)。一人息子の竹三(辻修)は奇行はなはだしく、近所迷惑この上ない。町会長(高橋拓自)からは苦情の毎日だが、息子を愛している龍子には“馬の耳に念仏”。芸人になりたい弟・学(森戸宏明)は定職につかず、金の無心ばかり。そんな折、蝶太郎は間が差したのか、近所の奥さん・ミツコさん(伊藤美穂)と真昼の情事・・・。そんなこんなな、しょーもないホームドラマ。

 ラストで、ちょっといい話に着地してしまい、動物電気らしさ(って何が“らしさ”なのか表現できないもどかしさ)の薄い芝居であった。が、意外と面白く満足している。肉体派劇団というラベルはそろそろ不要なのかも。

 今回の一番の見所は、名優・政岡泰志の素晴らしさ。いつもは脇役に徹しているのだが(記憶を辿ると登場シーンの多くは母親役だったような・・・)、今回はどーんと重要な役どころ。政岡泰志演じる龍子が、けらえいこの漫画『あたしンち』の“母”のごときで(半魚人のような顔や性格も似ているような気がする・・・)、むちゃくちゃおかしい。脇役なのに目立っているのも同じ。これを機会に動物電気版『あたしンち』を是非作って欲しいって願ったりして。実現したら絶対おかしいって。
 ただ、政岡泰志が活躍した分、小林健一、辻修が霞んでしまったは残念であった。でも、伊藤美穂の下着姿は政岡泰志の怪演に邪魔されず、しっかり目に焼付けました・・・うひひ。


“動物電気”自分が観た公演ベスト
1.NOは投げ飛ばす〜魂の鎖国よ開け〜
2.女傑おパンチさん
3.集まれ!夏野菜
4.えらいひとのはなし キック先生
5.人、人にパンチ(再演)
6.運べ 重い物を北へ
7.チョップが如く
8.キックで癒やす
9.人、人にパンチ

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庭劇団ペニノ「ダークマスター」

下北沢駅前劇場 6/27〜6/29
6/28(土)観劇。座席自由(6列目下手端:招待)

原作 狩撫麻礼/泉晴紀(「オトナの漫画」収録)
脚本・演出 タニノクロウ

 都心にある洋食屋『長嶋』。キッチンドランカーのマスター(戌井昭人【鉄割アルバトロスケット】)は、料理を作れば一流だが、接客に関しては三流以下でまったくやる気がない。そんな店に食事をしに訪れた男(野平久志【ポツドール】)。その男に対しマスターは、「自分の代わりに店に寝泊りし、月給50万円で料理を作らないか」と持ちかける。そして、男の意思などまるで関係なく、強制的に実行に移してしまう。マスターは、「モニターで様子を窺いFMラジオから指示を出すから、言われるままに料理を作ればいい」と告げたまま2階に籠もってしまう。男は、マスターの指示により料理を作り続ける。食事が終わった客はトイレに行ったまま戻って来ない。正体不明の外人(ドロレス・ヘンダーソン)は、客に水を出す作業を続ける。外人の正体は、マスターでさえ知らない。マスターは、食事もとらず籠もり続ける。マスターが酒が飲みたいと指示を出せば男が代わって飲む。それで満足するマスター。マスターと男は融合してしまったのか・・・。男は、疲労し苦悩を感じながら、どんどん精神的に崩壊していく・・・。そして今度は、性欲を満たす為、マスターの言われるがままに、出張サービスの風俗店から巨漢の女性(絹田良美)を呼び出す。そして、性欲を解消した上に、食欲までをも解消してしまうのであった・・・。

 観客もFMラジオを片耳に付け、マスターの声を聞きながら観劇するという一風変わった公演。観客も男と同じ状況に置かれるという試みだが、ラジオの調子が悪かったら、何も面白くないという危険を孕んだ公演でもあった。かくゆう私の席のラジオも調子が悪く、聞こえたり聞こえなかったり。途中から空き席のラジオと交換したからいいけど、危うい、危うい。公演自体も、6月に駅前劇場が空くという情報が4月に野平久志に飛び込み、急遽決定したという危険極まりない公演。ポツドールでは準備時間がなさ過ぎると思った野平久志が白羽の矢を放ったのが、庭劇団ペニノ。許可が出る前に演目を『ダークマスター』に決定したり、練習の為に、タニノクロウの自宅のキッチンの壁を壊してしまったりと、無茶苦茶やって公演に辿り着くというもの凄さ。そもそもタニノクロウ自身も無茶苦茶で、なんと医師の免許を持っているのに芝居を続けているという変わり種らしい。劇団名の由来は、和国+ゆとりをもった演劇=「庭」、ペニス+タニノ(主宰者名)=ペニノらしい。なんだか良くわからん。劇団のホームページによると「多岐に広がるモチーフは、収まりのつかないイメージを生み、他の劇団にはない非定型的な形式を生む。」とあったが、なんか納得。

 で、公演の内容だが、漫画『ダークマスター』の存在さえ知らなかった自分は、まったくの素の状態で観た。聞いた話しだと、漫画もイメージで読むって感じらしいが、芝居も様々な謎が残る不条理劇で、目一杯イメージを膨らませて観ないと理解できない。って言うか理解できなかった。で、その疑問の一部をタニノ氏にぶつけてみた。それは、何故客はトイレに消えてしまうのか?って事なのだが、タニノ氏からは「絶対的権力を持つマスターを表現する為」という答えが返ってきた。う〜ん聞いてもわからん(泣)。

 こうなったら勝手に解釈してしまおう。自分が考えるには、この芝居の主人公は男でもマスターでもなく、“キッチン長嶋”そのものであったと思う。それを裏づけるのが、外人の存在。見間違いでなければ、外人はマスターが2階に籠もる前からイヤホンをしていたと思う。一体誰の声を聴いているのだろうか。まさかナイターを聞いている訳ではないだろうから、誰かの指示で動いているのだと思う。そうなると、マスター以前の何者かがいるわけで、マスターさえも“キッチン長嶋”の一部分でしかないのかもしれないという結論に達する。料理を作らせ、食料(客)を引き寄せる役割として、“キッチン長嶋”の手足として取り込まれている。タランチュラを飼っている(何を飼っているのか、観劇後聞いて知ったんだけど・・・)のも、“キッチン長嶋”を暗示しているのではないだろうか。でも、外人の正体は最後までわからず。だって、入り口から出ていける存在なので“キッチン長嶋”に完全に取り込まれている訳ではないし・・・あ〜わからん!

 舞台で本物の料理を作っているのだが、その臭いを嫌う人と、その臭いも強烈な演出の一部として歓迎する人と2分していたのも面白い現象だった。自分としては、後者。それにしても、これだけの作品を2ヶ月で作り上げた事に驚きを隠せない。マジ面白い公演だったと思う。

 余談になるが、キッチンに取り込まれていく(食べられていく)って事で、大林宣彦監督の長編デビュー作「HOUSE」(人里離れた“家”に食べられてしまう美少女たちの姿を描いた怪奇ファンタジー的作品。)を思い出したのは私一人ではないはず。あと、全然関係ないかもしれないが、キッチン長嶋=長嶋茂雄=巨人=デブの女って図式も脳裏に浮かんだ。

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