■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作
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2000.2.29(火) 祝!『ポップ1280』単行本化
・出たっ。ジム・トンプスン『ポップ1280』の単行本本日発売(扶桑社/1500)。HMMで連載完結するや、本HPの常連レビュアー(笑)、パラサイト・関氏、ストラングル・成田氏(ワシや)の絶賛を浴びた傑作がついに単行本化。(2年半で私の☆☆☆☆★が付いたのは、この本だけ)というより、キーティングが名作ベスト100に選定し、仏のミステリ叢書セリ・ノワールの記念すべき1000冊目に選ばれたパルプ・ノワール究極の一冊がこれだ。
すでに出来上がっていたカバー・イラストに合わせて二週間で書き上げるや、ドンチャン騒ぎをして飲み狂い、入ったばかりの原稿料を使い果たしたという本書成立にまつわる逸話もむちゃむちゃ格好いい。犯罪小説史上見たこともないような登場人物を描き、黒いユーモアを噴出させ、胸にギリギリ食い入ってくる、この真の傑作をご賞味あれ。
・それにしても、去年出てれば、「サヴェジ・ナイト」と相まって、トンプスン大爆発だったのに・・。残念。早川ではなく、扶桑社から出るのも不思議。巻末リストによれば、去年翔泳社から出た「サヴェジ・ナイト」が扶桑社から訳者を変えてまた出るらしい。これまた???
2000.2.28(月) 『どすこい(仮)』
・HMM4月号、エリス・ピーターズ『納骨堂の死体』(原書房/1800円)購入。クイーン『青の殺人』は、見あたらず。原書房の近刊予告によると、カー『月明かりの闇』、ライス『もう一人が殺人』(いずれも仮題)が出るようだ。楽しみ。
・『どすこい(仮)』 京極夏彦(集英社/00.2) ☆☆
収録作は、「四十七人の力士」「パラサイト・デブ」「すべてがデブになる」「土俵(リング)・でぶせん」「脂鬼」「理油(意味不明)」「ウロボロスの基礎代謝」の7編。タイトルをみてもわかるとおり、パロディ短編集というより、お笑い短編集。パロディというには、ちときつい。京極のことだから、必殺技頭捻りお笑い相撲取り小説を装って世紀末ベストセラーの憑き物落としでも試みるのかと思っていたら、さにあらず。「47」「48」という、数に溺れる暗合小説になるかとも思ったが、そうもならない。四十八手のレアな技、頭捻り(ずぶねり)を引っさげて、こういうのを一回やってみたかったんだよお、ととるしかないギャグ小説。お笑い小説としての出来は、まあ及第点。何か所かでは、大いに笑かしてもらいました。ただ、新手のギャグがなく、繰り返しギャグの錬度もいま一つ。懐古ギャグが多いのも気になるなあ。いしかわじゅんならもっとうまくやるかも。直接、この小説とは関係ないけど、私と同じ60年代前後生まれの人たちの懐古ギャグが今でも通用するのを不思議に思っていた。私は問いたい。電信柱の陰の明子姉ちゃん、フランケンのフンガーフンガー、「あの娘
がつくった塩むすび」が、なぜ若い層の笑いをとれるのか。ちょっと遡って、金語楼のおトラさん、ドングリ天狗、虫下しのマクニンでは、なぜダメなのか。これは、きっと60年代世代以降、懐古ギャグの中世ともいうべき状態が続いているということでして。それだからこそ、京極夏彦には、安易な懐古ネタや擬音に走らないギャグをやってほしかった。そう相撲の技でいえば、・・
「相撲の技でいえば?」
「あなた誰です(か?」
「成り行き上登場したものです」
「そう、相撲でいえば、頭を相手の頭につけて、体をひねって・・」
「ああ、昼ののど自慢に出てる」
「それは、ズブの素人」
「じゃあ、下町の玉三郎がもろうとる」
「それは、おひねり」
「子供の頃境内で遊んだパイナップル、チョコレートと対の」
「それは、グスベリ」
「髪の毛がドーナツ状に張り付いとる坊さん」
「それはザビエル。もう、1字も合うとらんがな」
ずぶねり。
一度やってみたかった。
2000.2.25(土) K点越え
・京極夏彦『どすこい(仮)』、連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』読了。
・『日本ミステリー事典』をだらだらと読む。
この種の事典は、厚ければ厚いほどいいと思うのだが、新潮選書という枠組みの中では、大健闘。2000円でこのボリュームは、まったくリーズナブル。ミステリについて、もっとよく知りたい、まとまった発言をしたいという人は、必携でしょう。個人的には中島河太郎『日本推理小説辞典』以降のノベルス作家が充実しているのが特にうれしい。それぞれの項目の執筆者もおおむね人を得た感じ。
ただ、作品の出版社を明記していない点は残念。作品ガイドとしての役割を考慮すれば、当然あってしかるべきなのだが。それと探偵名が他の項目と一体になっているのが煩わしい。別立てで名探偵事典にしてくれればいいのに。
書誌の面は、かなり物足りないので、この本を増補して、著作リストが入った版をいつかつくって欲しいものだ。
興味深かった項目から幾つか抜き書き。
・清涼院流水 「「JDC」シリーズは、綾辻行人に始まり麻耶雄嵩を経由した、いわゆる新本格の1つの到達点と言えるだろう。(高橋義和)・・・・うーむ。
・田中潤司 「64年「週刊読書人」に書いた書評に著者からクレームがついたのに嫌気を覚え、推理界とは疎遠になる(新保博久)。・・・・そうだったのか。
・藤本泉 「89年2月に、フランスから息子に便りを出したのを最後に消息を断つ」(杉江松恋)・・ピアスみたい。
・『海外ミステリー事典』の方は、まだ、ざっとしか読んでないけど、個人的には今一つの感。クラシックは『世界ミステリ作家事典本格派編』にまかせたということか。また、未訳の作品については必要に応じ触れる程度にとどめたという編集方針も疑問。作家の全貌について触れるのであれば、訳が待たれる傑作などについては、当然触れるべきなのに。未訳作品にも、邦題をつけて、索引をみなければ既訳作品と区別がつかないのも煩わしい。
・『日本ミステリー事典』から、密室系リストにない作品を拾う。あるある。
・飛鳥高『疑惑の夜』、安東俊明『死が舞い降りた』、海野十三『地獄の死者』、岡村雄輔『幻女殺人事件』、北森鴻『狂乱廿四孝』、樹下太郎『銀と青銅の差』、蒼社庸三『戦艦金剛』、曾野綾子『塗りこめた声』、多岐川恭『異郷の帆』、多々羅四郎『臨海荘事件』、陳舜臣『弓の家』、坪田宏「歯」、「二つの遺言」、伴野朗『33時間』、長坂秀佳『浅草エノケン一座の嵐』、永瀬三吾『白眼鬼』、中村美与子「ブラーマの暁」、花木深『天使の墓』、麻耶雄嵩『鴉』、宮原龍雄「ニッポン・海鷹」、辻真先『迷犬ルパンの名推理』
・ということで、20編追加(安東作品は保留)。
・もういっちょ次の2編を追加。
佐竹一彦『凶刀「村正」殺人事件』(『新任警部補』)(葉山さんより)、京極夏彦「すべてがデブになる」(中村さんより)
・1000編目も山風で決めようと思っていたが、気がついたものは仕方がない。500数編で初めて2年8か月でK点超え。なんの自慢にもならねど、今宵はウィスキーでも飲もう。
2000.2.23(水) 『国会議事堂の死体』
・くりさんから、梶龍雄本3冊交換入手。
・メールコーナーに慶大推理研OB、マーヴ・湊さんからC.ディクスン『魔女が笑う夜』のレヴューをいただきました。レヴューに触発されて、私は、やっと読みました。これで、ディクスン名義はM3(『弓弦城殺人事件』、『時計の中の骸骨』、『赤い鎧戸のかげで』が未読)、カー名義は、まだ結構残ってます(汗)全長編が今年中に、日本語で読めそうなんで、完読が今年の課題の一つ。
・『国会議事堂の死体』 スタンリー・ハイランド 国書刊行会(2000.1('58))☆☆☆★
英国国会議事堂の改修工事現場から、ミイラ化した他殺死体が発見。百年前のものと推定されたこの死体を巡って、調査委員会が組織され、国会議員たちが推理の饗宴を繰り広げるが・・。
埋もれた名作の名に恥じない出来映え。出だしは、かなり勿体ぶって読みにくいが、個性的な国会議員の面々が古文書の中から、拾い集めてきた断片を組み立てていくにつれ、百年前の悲劇が立ち上ってくるあたりの呼吸は絶妙。歴史推理としては、作中言及される『時の娘』より面白いかもしれない。このあと、お話は、意想外の展開をみせるが、それは読んでのお楽しみ。まさに英国ミステリの懐の深さを示す豊潤たる一編だ。ただ、真犯人の思惑どおりの状況が現出するかどうかは、多分に偶然に左右されているところがあり、その点がどうにも腑に落ちなくて残念ながら星半個減。
●国内リスト追加
海渡英祐『燃えつきる日々』、矢作俊彦「AFTER YOU’VE GONE」(以上葉山さんより)、梶龍雄『浅草殺人ラプソディ』
2000.2.22(火) −密室調査員コーナー新設−
・パラサイト・関、久々の更新。
・昨日は、東京日帰り出張。前日、大雪予報があったというのに、陽光は春のもの。帰りに、新橋地下の古本ワゴンセールで山田風太郎『修羅維新牢』300を拾う。帰りの飛行機で、カー『魔女が笑う夜』をやっとこ読了。札幌に戻って、C氏迎撃飲み会。
・密室調査員及び協力者顕彰のため、密室調査員コーナーを新設。
2000.2.20(日) −仕事が速い−
・昨日、触れた「1作目草野、3作目天藤でまとめかけていた時に頂いた再考を促すメール」の発信者は、実は、森英俊さんでした。虚空に向けて書いているような文章が、このような大家に見られていると知って、いかほど嬉しかったことよ。
「インターネットで選ぶ日本ミステリ大賞2000」〆切。あれとこれを読んでからなどと思っているうちに、投票フォームもなくなっていた。2年続けて投票していたのに残念。それにしても、仕事が遅い奴。
・ミステリ系では多分最年少に属するしょーじさんの「東奔東走」がオープン。(昨年の小林文庫オフでも最年少でした)。シンプルな構成で今後いかようにでも発展できる可能性を秘めたサイト。それにしても、放出本から牧野修の「ビヨンド・ザ・ビヨンド」が一夜にして消えている。世の中には、仕事が速いというか、手が速い奴がいるなあ。(って、私でしたか)
・メールコーナーにmushitaro氏から、新稿。
2000.2.19(土) −緋紗子の正体−
・本日は、葉山さん密室リストと、くりさんの探究本リスト他をもって、ブックオフ系長征へ。海渡英祐 『燃えつきる日々』(講談社)、草上仁『市長、お電話です』、東野司『消えた十二支の謎』、矢作俊彦『はやらない殺意 マンハッタン・オプ3』を捕獲。今まで行ったことのなかった厚別区の、あえて名は隠す『ブックスいとう』は、なかなかよかったぞ。ミステリの単行本コーナーが充実。地下鉄降りて、雪深い中、20分も歩いていった甲斐があったというもの。
・収穫は、戸板康二『あどけない女優』(昭和53・新評社)、『孤独な女優』(昭和52・講談社)、『劇場の迷子』(昭和60・講談社)が800〜1000、上野友夫『推理SFドラマの60年』(昭和60・六興出版)1000、陳舜臣『黒いヒマラヤ』(昭和39・中央公論社)600、服部まゆみ『時のアラベスク』(昭和62・角川)600、恩田陸『六番目の小夜子』(新潮文庫)180、堀晃『漂着物体X』(双葉ノベルス)100など。
・山前譲編『湯の街殺人旅情』(青樹社文庫)、エドマンド・ウィルソン『アクセルの城』(ちくま学芸文庫)購入。前者は、梶龍雄、横溝正史、多岐川恭といったあたりが入っていて侮れない。後者は、「誰がロジャー・アクロイドを殺そうがかまうものか」で黄金期本格ミステリをぶった斬った評論家の代表作。若島正がミステリ総体よりエドマンド・ウィルソン一人の方が大切だ(大意)と書いていたので、興味をもって買ってみる。イェイツ、ヴァレリー、エリオット・・。基礎教養のない身には、つらそう。
・併せて、『日本ミステリー事典』、『海外ミステリー事典』(新潮選書/各2000円)購入。
・私も、最初に開いてみたのは、『日本ミステリ−事典』の「鷹見緋紗子」の項。昨年の今頃、謎宮会の葉山論考に端を発して、その正体について小林文庫掲示板で話題になり、ハウスネームということさえ知らなかった私も、なぜか一人白熱して、長々と推測を試みてみた。(99.2.4〜28のWhat's
new?「緋紗子再襲撃1〜6」参照)
・事典の記載によると、「鷹見緋紗子」は、合作をやりたいという草野唯雄の意向に応えて、中島河太郎がディレクターとなって実現したハウスネームであり、『わが師はサタン』は天藤真、『死体二度消えた』は大谷羊太郎、『最優秀犯罪賞』は草野唯雄の作。復活後(4作目以降)は、大谷がほぼ単独で執筆したとのこと(執筆担当 村上貴史)。これで、胸のつかえがとれたよう。1作目と3作目については、自分なりの推測が合っていたわけだけど、1作目草野、3作目天藤でまとめかけていた時に頂いた再考を促すメール(もう発信者の正体を明かしてもいいでしょうか?)のおかげであり、結論も、葉山さんの結論を単純に逆にしただけなので、褒められたものではない。
・となると、天藤真『日曜探偵』の新保博久氏の巻末リストにおける記述が誤まりだったわけであり、この誤記が無用の混乱をもたらしたといえなくもないのだが。
・それにしても、「死体は二度消えた」の執筆者が大谷羊太郎だったとは!いわれてみれば、デビューが「推理界」だし、不可能犯罪物だし、当然、「容疑者」に挙がってもよかったのだけど。ひとり白熱時に、二作目の作者も推測しようとして、山村正夫、藤村正太、加納一朗などの文章を当たってみたのだが、どれもいま一つ違うようで、結論が出なかった。(後に、二作目の執筆者については、別の説もあるやに聞いたのだが、これはこれでビックリするような話だった)。
最近、秘かに(笑)、大谷クエストをしているので、鷹見緋紗子の4作目以降の官能サスペンスも集めなければダメか。(と、「悪女志願」を買ってくる)
2000.2.15(火)
・松本真人さんから「青春探偵団」(明星2/8参照)の写し(昭和31年「明星」9、10月)を送っていただく。ありがとうこざいます。三拝九拝。で、まさしく「幽霊御入来」でありました。丁寧にテキストを比較したわけではないけれど、漢字−ひらがなの異同(幽霊ご入来)、「避病院」(青春探偵団)→「伝染病院」(幽霊御入来)の言い換えがあるくらいの違いしか見つからなかった。おかしかったのが、女子高生3人組の一人、柔道を習っている竹ノ内半子の体重が青春探偵団版で「十四貫三百」になっているのに対し、「幽霊御入来」では、「十六貫三百」になっている点で、一貫3.75キログラムだから、単行本化に当たって、7.5キロも体重を増やされている計算になる。風太郎もお人が悪い。
・ということで、山風リストを修正。
・メールコーナーにmusitaro氏より新投稿。「どんどん橋落ちた」評。常連寄稿者になりそな予感。
・密室調査員003号中村さんより。
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『幽霊病院の惨劇』篠田秀幸/ハルキノベルズの第二部に「密室からの人間消失」が出てきます。学生達が,その謎について議論する一幕も。
『どすこい(仮)』京極夏彦/集英社の中の「すべてがデブになる」も密室ものっぽいのだけど,これを密室ものと言ってはいけないかなぁ・・・。
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毎度あり〜。篠田秀幸がまた出ましたね。『蝶たちの迷宮』でひどい目にあってるから、どうにも、こうにも。京極は、めもめも。
・ポケミスで、P・マクドナルド『迷路』。ポケミスで、60年もの前の作品がまったくの新刊で出るのは、いつ以来だろう。HMMで、読んだときの感想は、今ひとつだったけど、つい嬉しく買ってしまう。
●国内リスト追加
藤田宜永 『奇妙な果実殺人事件』(葉山さんより)
2000.2.13(日) 仮想メモリ1000
・スタンリー・ハインランド『国会議事堂の死体』読了。感想書こうと思っているうちに、真夜中に。腰の据わった英国ミステリで堪能。3連休なのに、思っていることの半分もできないのは、なぜ何でショッカー。
・「謎宮会」などで活躍中、人型記憶兵器(C kashibaさん)の異名をとる葉山響さんからメールをいただき、大量の密室系を教えていただく。以下、該当部分を勝手に引用(お許しを)。
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折角メールを出すからには、僕も密室調査員の真似事をさせて戴きたいと思います(笑)。
(その前に。井原まなみの『シーラカンスの海』を文庫化したものが『Vの密室』なので、この二つは同じ作品です。また幾瀬勝彬の『北まくら殺人事件』と『声優密室殺人事件』も同じ作品です。)
井上ほのか 『アイドルは名探偵6 ロマンチックな恋したい』 講談社X文庫ティーンズハート
大西赤人 『引き継がれた殺人』 光文社文庫
海渡英祐 『燃えつきる日々』 徳間文庫
加納一朗 『ホック氏の異郷の冒険』 双葉文庫
草上仁 「転送室の殺人」 (ハヤカワ文庫JA『市長、お電話です』収録)
佐竹一彦 『凶刀「村正」殺人事件』 光文社カッパ・ノベルス
高場詩朗 『神戸舞子浜殺人事件』 天山ノベルズ
辻真先 『SFドラマ殺人事件』 朝日ソノラマ文庫
東野司 『消えた十二支の謎』 ハヤカワ文庫JA
藤田宜永 『奇妙な果実殺人事件』 新潮文庫
山田正紀 『花面祭 MASQUERADE』 中央公論社
井上ほのかの作品は脱力系タイトルですが、中身は案外秀作です。あと、井沢元彦『修道士の首』(講談社文庫)や海渡英祐『俥に乗った幽霊』(光文社文庫)の中にも密室短編が収録されていたと記憶していますが、それはまた今度ということで。
また、広義の意味での雪の密室ものとして式貴士「面影抄」(CBSソニー出版『天虫花』収録)更に、密室ものかどうか疑問ですが、取り敢えず作者が密室だと作中で言及しているものに山口雅也 「ノアの最後の航海」 (『キッド・ピストルズの妄想』) 矢作俊彦 「AFTER YOU’VE GONE」 (光文社文庫『はやらない殺意 マンハッタン・オプ3』)この辺りは各人の密室観に左右されるだろうと思います。
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くー、昨日古本屋で買ってきた『シーラカンスの海』の改題が、『Vの密室』だとは。(『Vの密室』を確認するとにその旨明記されておりました。)幾瀬勝彬ともども、お詫びして修正させていただきます。
それにしても凄い。井上ほのか、草上仁、東野司、矢作俊彦などなど、ページ制作者のヤワな読書量では、100年立っても気づかないレアなところを教えていただきました。また、よろしくお願いします。
・密室系調査員の方々から教えて貰ったもので、まだリストに入れていないのが、12。今回、葉山さんに教えてもらったのが14+α、リスト掲載が(981−2)。合わせると、せ、1000作品超えている。ぐは、ぐは、ぐはははは(狂死)。
2000.2.12(土) 偽オフ会など
・日下三蔵氏からメールで、1/20で書いた中島河太郎氏作成「戦後推理小説総目録補遺」で、山田風太郎の項目から、多くの作品が削除されている理由を教えていただく。実は、「偽恋の面」は「地獄太夫」、「怪人Q」は「霧月党」、「狭霧姫の館」は「山童伝」といった具合に、すべて改題再録だとのこと。そうでしたか。
とすると、「魔宝伝」は、「みささぎ盗賊」、「聖処女」は「黒衣の聖母」・・なのかな。
なんとなく、長期戦になりそうな気がしていただけに、疑問が氷解して嬉しいです。
考えてみると、書誌作成の際には、改題再録というのをはじかなければならないわけで、原理的には、リストの作品全部に目を通しておく必要があるということになる。これは実に大変な作業。書誌作成の方々には頭が下がる思い。
・密室調査員003号中村さんから、ご報告。
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柄刀一の新刊『400年の遺言』の庭園の事件は,誰も近づけたはずも逃げられたはずもない"密室状況"でした。で,ついでにリストの柄刀一の項を見てみたら・・・。第1長編は『3000年の密室』ですよー。第2長編の『サタンの僧院』も不可能犯罪満載です。祥伝社文庫『不透明な殺人』に収録されていた「エデンは月の裏側に」も不可能犯罪ものだったような気が・・・(やや自信なし)。
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毎度感謝です。リストは「2000年の密室」となっていて、お恥ずかしい。
・ついでにもう一つ訂正。2/6付けで、「『一本の万年筆』は、『県立S高殺人事件』の改題です。」と書きましたが、大間違い。『県立S高事件』(タイトルも間違っていた)の改題は、同じ春陽文庫の『殺人ごっこ』(「県立S女子高校殺人事件」の副題あり)の方で、これは、本自体に明記されています。『一本の万年筆』の方は、「県立D高校殺人事件」の副題あり。ややこしい。で、これは『疑惑の渦』(幻影城)の改題でありました。大変失礼をいたしました。
・昨日は、連休初日ということもあり、例の三美女とオフ会名目の飲み会。「厚岸の味 白浜」なる店にて、ぷりぷりとしたカキなどを食しつつ、冷酒。ここは、魚介類が新鮮で値段もリーズナブル。二次会は久しぶりのカラオケで歌い倒す。「1974年ベストヒット」などを鼻歌混じりでうたっていた美女たちが、「1998年ベストヒット」で石像化していたのが面白かったです。
・雪祭りでにぎわう、すすきのの古本屋で「レオ・ブルース「死の扉」、ロックリッジ夫妻「死は囁く」(創元社)など各1,500円で入手。
●国内リスト追加・訂正
泡坂妻夫「生きていた化石」「メビウスの美術館」「黒鷺の茶碗」(以上フクさんより)、井原まなみ『シーラカンスの海』、金井貴一『謀略の鉄路』、大谷羊太郎『悪人は三度死ぬ』、『玉虫色の殺意』、『死者の誘拐』追加。大谷羊太郎『二千万人が見ていた』と『120秒間の空白』が同一作品のため後者を削除。
2000.2.8(火) 「青春探偵団」問題、解決す!
・放出本企画に応募された方が慶大推理研OBの方と知って、驚く。その昔、全ミス連の大会でもお会いしている由。関や私の旧悪もご存じで、なんとも、お恥ずかしい。
・後輩にして社長秘書musitaro氏からもらった書評をメールコーナーに掲載。
・「猟奇の鉄人」掲示板にて、「青春探偵団」問題、ついに解決!
「青春探偵団」問題とは何か。詳しくは、What’s New?98.5.23を見ていただくとして、
簡単に書くと、「帰去来殺人事件」巻末のリストにある「青春探偵団」(昭和31年「明星」9、10月号掲載)は、短編集『青春探偵団』の中の何という短編に該当するのか、あるいは、単行本未収録の短編なのか、という問題です。「明星」とは、あの芸能誌。なお、廣済堂文庫版『青春探偵団』では、ロマンブックス版(全5話)を底本に、「書庫の無頼漢」を追加)しています。
私は、廣済堂文庫『青春探偵団』に初収録された「書庫の無頼漢」という「帰去来リスト」にない短編が、明星掲載の「青春探偵団」と同一作品ではないかという推測を山風リスト「リストの謎」に書いていたのに対し、一昨年の5月、山風ファンもりみつさんから、「泥棒御入来」が「青春探偵団」と同一作品ではないかという指摘を受けました。
もりみつ説の根拠は、おおざっぱにいうと、
・34年の単行本化の際に、あえて「書庫の無頼漢」を削る必要がないので、同作品は、34年以降の作品ではないか
・6話中「書庫の無頼漢」のみ犯罪動機が山田風太郎してるので、他の短編と異色
・「幽霊御入来」「泥棒御入来」のタイトルが対応しているので、単行本収録時にタイトルを揃えたのではないか
という説得力十分なもので、私も、指摘をいただいたとき、もりみつ説に鞍替えしたくなりました。
該当する「明星」の現物に当たれば、結論はすぐ出るのですが、国会図書館では当該号が欠号。大宅壮一文庫、近代文学館にも「明星」はなし。ということで、真相は、闇の中でした。
昨年11月、「猟奇の鉄人」掲示板で、「帰去来リスト」作成者の日下三蔵さんに、お尋ねしたところリスト作成時にずいぶん調べたが、結局「明星」の当該号が確認できなかったとのこと。日下さんの推測では、「青春探偵団」=「泥棒御入来」ではないかということでした。また、「小説フェスティバル」掲載の「書庫の無頼漢」は、明らかに再録の由。
その後、「猟奇の鉄人」掲示板によく書き込まれている松本真人さんが、会社の図書館に「明星」のバックナンバ−があるということで(!!/よく考えると、ここにしかありえないというか)、調べてくださって、ついに、「青春探偵団」の正体が判明。
実は、『青春探偵団』冒頭の「幽霊御入来」だった由。意外な真犯人出現というか。「幽霊御入来」は、初出が「傑作倶楽部」昭和33年3月号とされていたため、この作品は視野に入ってきませんでした。まったくの後知恵でいえば、確かに「泥棒御入来」は、登場人物の紹介が少ないなど、第一作としては、ふさわしくないかもしれません。と、なると「泥棒御入来」の初出は依然不明ということになって、謎は少し残るのですが。
松本さんありがとうこざいました。
短編「青春探偵団」が単行本未収録という一縷の望みは潰えましたが、古い「明星」をみかけたら手にとってみるという、私の憑き物も落ちた気分です。
2000.2.6(日) 記念企画終了
・「3万記念放出本企画」4日、24時をもって終了。結果的に、24名もの方の応募をいただき、ありがとうございました。結果は、メールで申込みのあった方に通知し、一部の方を除き、本日発送いたしました(メールが届いていない方は、ご連絡を)。
5人以上の希望があったのは、こんな感じ。
ディクスン『青ひげの花嫁』 10
左右田謙『一本の万年筆』 6
ボワロー&ナルスジャック『青列車は13回停まる』6
カー『喉切り隊長』 5
カー『眠れるスフィンクス』 5
カー『雷鳴の中でも』 5
ディクスン『魔女が笑う夜』5
左右田は、バブル人気。『一本の万年筆』は、『県立S高殺人事件』の改題です。カーは、予想を上回る激戦。若手の方も多かったけど、復刊時に買い逃したという方も結構いました。早川書房は、すぐに復刊するように。
ベネット『飛ばなかった男』は、4人の方が1位に指名し、そのうち3名の方は、この1点のみの応募という猛者ぞろい。
結果的にどの本も当たらない方が何人か出て申し訳なし。5冊までという枠があっただけに、逆に期待をもたせてしまった面もあったかもしれませんが、お許しを。
サイ君を手伝わせて発送業務。こりゃ結構大変な手間仕事なり。古本屋さんも、送られた相手方の顔を想像しなければ、割に合わない商売というか。
・K文庫から、本届く。クライム・クラブ、モール「ハマースミスのうじ虫」、クラスナー「殿方パーティ」、サンリオSF、オブライエン「失われた部屋」ほか。
・ラルズ・デパートにて、金曜日から古本市。大谷、梶クエストがやや進む。レム「エデン」(早川:海外SFノヴェルズ)500円が嬉しかったが、最大の喜びは、二度目で見つけた鮎川哲也編「密室探究第一集」(講談社文庫)。親版はもっているのだが、文庫化に際して藤村正太の短編を差し替え、加納一朗の短編を追加しているのだ。置いている店は知っていても、高いので、意地で探していた1冊。290円。これで密室物アンソロジー完集。
・ということで、またしても、古本に淫した週末。読んだのが大谷羊太郎『伊豆高原殺人事件』だけというのは、問題だよなあ。
●国内リスト追加
辻真先『平和な殺人者』(中村さんより)、釣巻礼公『奇術師のパズル』、土屋隆夫「見えない手」、大谷羊太郎「ことわざ連続密室殺人」「見えない罠」、加納一朗「箱のなかの箱」
2000.2.2(水) 密室系スクランブル
・一泊で網走出張。頭の芯まで冷える寒さは、また格別。網走の砕氷船オーロラや紋別のガリンコ号も好調のようで、流氷観光もすっかり定着したようだ。
・放出企画、多くの方からメールをいただいておりますが、抽選後まで個別にお返事いたしませんので、お許しください。
・「日経ネットナビ3月号」のHOTHOTというコーナーのミステリー特集(見開き2P)で当サイトが写真入りで紹介される。不可能犯罪代表ということらしい。それにしても、こうして写真でみると、本当にトップページが、だっさい。でも、これでいいのだ。
・「幻想文学館」土田さんから、「解放されたフランケンシュタイン」到着。180頁弱の本だったのね。背表紙の文字も窮屈そう。土田さま、本当にありがとうこざいます。荒俣宏解説は、アイスキュロスにもシェリーにも触れていない。これはネタになるかも。
・「宮澤の探偵小説頁」宮澤さんから、密室情報。
新羽精之 十二支によるバラード第四話「火の山に跳ねろ灰兎」
冒頭から密室殺人事件があり、トリックはしょぼいが、解決に題名通りうさぎが一役かうのがミソとのこと。新羽評伝の成果を、さっそくいただけて、ラッキ−。密室系調査員に加えてくださいということなので、大変僭越ながら、004号を進呈します。豪華メンバーだなあ。
・以前、「猟奇の鉄人」掲示板で喜国さんが書いておられた「別冊太陽 子どもの昭和史 昭和20年−35年」を入手。山田風太郎の知られざる少年物「冬眠人間」の表紙が載っている、とのことだった
。無論、大人向けの「冬眠人間」とは、別物らしい。(少年クラブ 34年掲載)
おお、本当だ。探偵小説のコーナーにカラーで山田風太郎「冬眠人間」の表紙が。真ん中に横たわる冬眠人間。マッド・サイエンティストらしい医者、何かに怯える幼い兄妹が配される。
惹句は、これだ。
「さあ、よもう。いよいよ
はじまった怪奇探偵小説!
これこそ山田先生の力作、
そして全国の少年が熱狂する大傑作だ!」
ああ、読みてえ。
・湊さんという方からいただいたメールの中で、山風リスト「芍薬屋夫人」がふしぎ文学館の『怪談部屋』に入っていないのでは、という御指摘ありました。確認すると、直後の「永劫回帰」が二重書きで、しかも変な改行になってしまっていたため、「芍薬屋夫人」があたかも、『怪談部屋』に収録されているように見えておりました。御指摘に感謝。さっそく修正しました。
・最近、本の感想が載っていないような気もするが。
2000.1.30(日) MYSCON募集に滑り込む
・3万記念放出本に、本日現在で12名の方からご応募いただき、ありがとうこざいます。当HPも国際的になったもので、サンノゼ在住の関さんとかいう方からも、申込みが(笑)。泣いた赤鬼状態にならずにすみました。応募状況を当該頁に書いておきましたので、まだの方は参考にしてみてください。面識、電識のない方も歓迎。期限は2月4日まで。
・「MYSCON」の申込みは、なんとか滑り込みセーフ。第1次募集4時間くらいで、空きがあとわずかと見たときは、正直焦りました。なんとか1次募集に間に合ったとのこと。本日の2次募集は5分で定員に達したとか。これは、もうプラチナカードだなあ。この度、メールをいただいた何人かの方から、MYSCONの参加について聞かれましたが、というわけで、参加できそうです。MYSCONでお会いしましょう。
・密室調査員003号中村さんから「定期報告」をいただく。
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・『平和な殺人者』辻真先/カッパノベルズ
・『ギヤマン壺の謎』はやみねかおる/講談社青い鳥文庫
・『徳利長屋の怪』はやみねかおる/講談社青い鳥文庫
・『肖像画』依井貴裕/東京創元社
あと、海外ですけど,『13の密室』のあとがきで渡辺剣次が『はなれわざ』ブランド/ポケミスを挙げてますね。あれを密室と言うのでしょうか?
それから,『毒蛇』スタウト/HM文庫のゴルフ場の事件は衆人環視の密室だと思います。あまりに早く解かれてしまうので,不可能犯罪という気がしないのですが。
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いつも、ありがとうこざいます。リスト追加待機本が増えて参りました。
「はなれわざ」は、密室とはいえないんじゃないんでしょうか。衆人監視という縛りが弱いというか。コックリル警部も、不可能犯罪を解いているという気はないみたいですし。『毒蛇』は、恥ずかしながら未読。これは、掘り出してこなければ。
・HMM3月号「1999ベスト・ミステリ」をとろとろと読む。ディクスン『九人と死で十人だ』読了。
2000.1.26(水) 3万アクセス
・本日、めでたく3万アクセス達成。カウンタを置いて1年で1万アクセス、2年で3万アクセス。ひとえに皆さまのおかげです。以後も、ご贔屓を。
・ありゃりゃ、3万切り番ゲッターは、kashibaさんだったと、メールをいただきました。切り番のご報告をいただいたのは、これが初めて。ありがとうこざいます。開設以来、数ヶ月で驚異的にアクセス数を伸ばす「猟鉄」の追撃を振り切っての3万アクセスに、ほっとしたり(笑)。あと数日の運命ではあるのですが。
・3万アクセスを記念してというか、先日、カーを拾ったついでにというか、本を30冊ほど、放出することにしました。辺境のサイトゆえ、応募者が全然いないのではないかと不安でありまする。希望の本がありましたら、ふるって応募ください。
3万記念放出本はこちら。
・密室系調査員003号、中村さんからナイスなご報告をいただきましたが、後日。
・西の古本アイドル、アンジュ橋詰さまから、本日、放出本が届く。待ちこがれておりました。ありがとうこざいました。入手したのは、こんなところ。
○単行本
(早川)時のさすらいびと コッツウィンクル
(光文社)情事の人びと ベン・ヘクト
(筑摩)第三の警官 オブライエン
(小説刊行)見知らぬ顔 日影丈吉
(河出新社)推理小説作法 江戸川乱歩編
(原書・ハードカバー)
Ferrars,Experiment with Death Collins
Foot in the Grave 500
Stockton The Lady or the Tiger
(ペイパーバック)
Bruce,Leo Death in the Albert Park
Death on Alhallowe'en
Furious Old Women
Ferrars The Busy Body
Huxley Murder on Safari
Parmar.S Muder on Whees
The Puzzle of the Red Stallion
(新書)
死の懸垂下降 中島河太郎編
(光風社)殺人への勧誘 梶龍雄
(桃源社)乳色の暦 多岐川恭
(日本文華社)詐謀の城西 多岐川恭
(廣済堂)猫が見ていた 中島河太郎編
(双葉)開化回り舞台 多岐川恭
殺人鬼の饗宴 中島河太郎 編
(新風舎)死の命題 門前典之
(BBノベルス ベストブックス)
殺人出世 山村正夫編
○文庫
(角川文庫)マクベス殺人事件の謎 サーバー 1000
(早川NV)フランケンシュタインのライバルたち バリー編 700
(二見)乱歩99の謎 仁賀克雄 300(竹書房)
(ケイブンシャ)十年目の対決 ヒラリイ・ウォー 300
洋書は読む気はあるのかとか疑問はありますが。ハズレは、以下。
「エヴァが目ざめるとき」 ディキンスン、「毒だあ・すとっぷ」 「ベラミ裁判」 ハート、筑波耕一郎、「四枚の壁」 楠田匡介、「青い鷹」 ディキンスン、「中国梵鐘殺人事件」 フーリック 、「一丁倫敦殺人事件」日影丈吉、「青春探偵団」 山田風太郎(講談社ロマン、「黒幕の選挙参謀」 藤村正太、「紅鱒館の惨劇」 鮎川哲也 編 「死体消滅」 山村正夫編、 「赤い鎧戸のかげで」 C.ディクスン、「螺旋階段」 ラインハート、「妖魔の宴フランケンシュタイン2」、「殺人ケームに挑戦」 山村正夫編、「呪われた顔」 山村正夫編、「大転落」 ウォー、「奇蹟の扉」 大下宇陀児。
的中率は、6割強。それにしても、随分申し込んだものだ。しばらく古本はお休み。でも、K文庫が。
2000.1.24(月) 『SF万国博覧会』
・昨日、仕事行きがてら、本購入。北原尚彦『SF万国博覧会』(青弓社)、新戸雅章『逆立ちしたフランケンシュタイン』(筑摩書房)、津原泰水監修『エロティシズム12幻想』(エニックス)、ダク・アリン『ある詩人の死』(光文社文庫)。なんだか忙しくて、本買いだけがストレス解消法という感じ。
・鉄人掲示板にて、「幻想文学館」土田さまより、オールディス『解放されたフランケンシュタイン』を譲っていただけることになる。読みたい思いが募って探究書のトップクラスに躍り出ていた本だけに、嬉しい。
・『SF万国博覧会』 北原尚彦 (青弓社/2000,1)
国内のSF叢書を紹介する「空想科学小説列伝」、英米以外の翻訳SFを紹介する「バベルの塔から世界を眺めて」の二部構成。いずれも、SFマガジンに連載されたもの。肩の凝らない読書ガイドであると同時に、古本としての入手しやすさまで触れている蒐書ガイドでもある。この本を片手にSF蒐集に乗り出す人も多いのではないか。ミステリでも、こういう本があれば面白いよね。kashibaさん書かないかな。非英米圏のSFの部分も面白く、読んでみたいのが幾つもあった(どうも、幻想小説との境界線上の作品が多いみたいだが)。長島良三=北村良三、ルルタビウ主演のSF、ペール・ブァールの「爆殺予告」はSFだとか、いろいろ勉強になる。ただ、単行本の文章に、(笑)が入るってのは、どうもなじめないんだよなあ。
2000.1.22(土)
・黒白さんから、耳寄り情報をいただく。ぬはは。
・山田正紀「SAKURA」(徳間ノベルス)、森下典子「デジデリオ」(集英社文庫)購入
・パラサイト・関の99.11、12のリンクが直っていない、どころか12のファィルは消えていた。ファイルサイズがでかすぎるのか。とりあえず、保存しているメールに基づき復元しましたが、ページ制作者のコメントは、消えているのでご了承を。
・ついでに、What' new?の99.12へのリンクがなかったので、修正。過ぎ去りしWhat'
new?に入れないと、複数の方から指摘があるのだが、当方の自宅などからはアクセス可能。パソコン音痴は、首をひねるしかない。
・「戦後推理小説総目録」に基づき、国内リストの各所を修正。
・これから、仕事に行って来ます。(23記)
●国内リスト追加
連城三紀彦「化石の鍵」(フクさんより)、歌野晶午『安達ケ原の鬼密室』
2000.1.20(木) 戦後推理小説総目録
・昨日、黒白さんの2000アクセス記念プレゼントが到着。中島河太郎「戦後推理小説総目録」(推理小説研究第11号)。嬉しい。嬉しすぎ。しかも、ただ。しかも、美本。一時は、この本と補遺、欲しさに、推理小説研究の揃いに大枚を投じる覚悟までしてたので、もうなんともいえません。黒白さん、ありがとうごさいますーっ。
・なんせ、総目録なのである。160頁の厚さとはいえ、昭和20年8月から昭和48年12月までの新聞・雑誌に掲載された長短編プラス書き下ろし単行本の総リストなのである。収録作家、実に1135人。千葉淳平の作品を聞かれたら、あれとこれとこれで、全9編ね、と立ちどころに判明するという代物なのである。これに掲載されている作品を全部読めば、戦後の密室系小説が何編あるかわかるという代物なのである。(読めるわけなかろう)特定の作家に絞ってみると、遺漏も結構あるような気もするが、現状、これにまさる宝なし。再び、黒白さんありがとうこざいます。
・山風関係できになる点が。「総目録」の山風の項をみると、「肉体の嘆き」「偽恋の面」「魔宝伝」など、山風リストで見たこともない作品15編が載っているのだ。ついこの前、古本屋から入手した「戦後推理小説総目録(第二集) 昭和49・50・51並びに補遺」では、これらは、「削除」、とある。さきに「総目録」をみてたら狂喜してたかもしれない。補遺をさきに見ててよかった。
しかし、誤記にしては、数が多すぎるような気がするのだが。廃棄した作品ではないだろうし。五木ひろしに対する三木ひろしみたいなニセモノがいたのか。気になる。
・パラサイト・関の99.8〜と99.12のリンクが外れていたので修復しました。
2000.1.16(日) 探偵小説通
・「探偵小説通」 松本泰(昭和5 四六書院)
「通叢書」というシリーズの1冊で、160頁の小冊子。巻末の広告をみると、「銀座通」「鰻通」「トーキー通」「カフェー通」なんてタイトルが40冊以上並んでいる。「古本通」「古今いかもの通」なんてのもあるが、「古今いかもの」ってなんだ。発刊の言葉を引けば、「趣味の欠乏−難儀な登山をするようにして生活を背中に背負っている現代人に、一番欠乏しているのは趣味の問題だ」「楽しみの少ない、現代人の退屈な心臓をまぎらわせようとして、先づこの趣味の通の要請を約束しようとするのが、本叢書発行の第一の目的である」とある。昔から、現代人は、大変だったのだ。当時このような本が出ることに、探偵小説が都市住民の娯楽として定着しはじめたことが窺える。
著者、松本泰は、江戸川乱歩より早く創作探偵小説を書き出した草分けの一人。欧米名作の翻訳も行っている。本書では、小説家というより、愛好家−「探偵小説通」の立場から、探偵小説を縦横に語ってなかなか飽きさせない。海の向こうでクイーンやカーがようやくデビューした当時、日本の探偵小説通に探偵小説がどのように映っていたか。
冒頭の写真は、黒岩涙香とポー、映画のシヤロック・ホルムズのスチール、映画「グリーン家殺人事件」のスチール、英米における「フリン週刊点綴小説雑誌」等の探偵小説雑誌6雑志。
1章は、「探偵小説味を古きに求む」として聖書や神話の中に探偵小説の父を探す。2章は、「ポオ時代」、3章は「ポオの流れを酌む仏蘭西作家」として、ガポリオ、ボアゴベ、シュー、ルルーの紹介。4章は、「コナン・ドイル前時代」としてウード夫人、コリンズ、ディケンズ、グリーン女史。5章は、「爛熟時代」として、40人近くの英米を中心とする作家の紹介。ドイルを筆頭に、クリスティやクロフツも出てくるものの、フレッチャー、ル・キュ−、オッペンハイム、エドガー・ウォーレス、マッカレー、ドゥゼなど、本国においても忘れられたような作家の部分が興味深い。本稿では、コナン・ドイルが革命者であって、「トレント最後の事件」を嚆矢とする本格「黄金時代」という時代把握は、当然のことながら、まだない。本格とウォーレス流スリラーが渾然一体となった感じ。
6章は「探偵小説に関する諸考察」7章「探偵列伝」8章「探偵小説と動物」ときて、9章が「日本探偵文壇」。昭和4年という年は、「探偵小説大流行時代で、あらゆる娯楽雑誌、週刊新聞、及び婦人雑誌に至るまで、小説欄に探偵小説を加えるようになった」とあり、この年の6月には、博文館で「世界探偵小説全集」、春陽堂で「探偵小説全集」、平凡社で「世界探偵小説全集」、改造社で「日本探偵小説全集」が競合し、「これらの全集は数万の探偵小説ファンを呼んだ」という。松本は、「探偵小説作家、翻訳家はこれで過去に於ける総決算をして了った。そしてこれから第二期に踏込もうとしている」と結ぶ。
ル・キューの多大の作品を全部蔵している友人が出てくるなど、昔から愛好家の世界は深いものと思いしらされたり、「チェスタートンは編中に黒髭を加えた人物を描くのと、黄昏時を書くのが好きだ」
といった、きらりと光る観察もある。ガボリオ「ルルージュ事件」のあらすじを読んで、先日出た横溝正史『双生児の復讐』収載、「三年の命」は、「ルルージュ事件」の一部換骨奪胎だったのか、と気づくなど勉強にもなった。
ところで、肝心の「密室」という言葉は、「モルグ街」や「黄色い部屋」の解説にちょこっと出てくるんだけど、これが日本で最初の使用例と書いてあったのが何だったのか思い出せない。山前氏の文章
だと思ったけど、記憶違いかなあ。
●国内リスト追加
鷲尾三郎「ガラスの眼」、宮原龍雄「湯壺の中の死体」、「消えた井原老人」(以上、乱歩編『推理教室』より)、山村美紗「京友禅の秘密」、「哲学の小径の少女」
2000.1.15(土) 密室系調査員3
・本日は、小林文庫10万アクセス記念オフの日なり。行けず、残念。
・密室系調査に第3の男出現!中村さん。そのHPをみてもわかるように、密室の達人です。フクさんのページの調査員募集の告知を見られたとのこと。ありがたや。
教えていただいたのは、平石貴樹『笑ってジグソー、殺してパズル』。結構印象的な密室トリックが使われているとのことです。調査員ナンバー003号を進呈させていただきます。(って要りますか?)こりゃ、本当に、顕彰コーナーをつくらなきゃならないぞ。平石貴樹『笑ってジグソー、殺してパズル』『だれもがポオを愛してた』いずれも、単行本で買っているのに、15年以上未読。うーむ。
中村さんありがとうこざいました。
・そうこうするうちに、松本楽志001号調査員☆から、またメールいただきました。(以下無断引用)
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松本楽志です。
フクさん大量放出ですね!!!やべえやべえ、こりゃ。読書量と記憶力が違いますね。
こうなったら新刊を読んで、成田さんより先に報告してやる!!!(無茶なことを言い始めた)
えー、ひとりでもりあがっていてすみません。新刊の講談社ノベルスは不可能犯罪が宝庫でありそうですね。とりあえず、倉阪鬼一郎は密室でした。
(以下略)
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・素早い報告感謝です。若い者には負けてられないと(笑)、本日、本屋に行き、講談社ノベルス倉坂鬼一郎『迷宮−Labyrinth』、高田祟史『QED ベイカー街の問題』、森博嗣『月は幽咽のデバイス』を仕入れてきました。歌野晶午『安達ケ原の鬼密室』、霧舎巧『カレイドスコープ島』も不可能犯罪物みたいだしなあ。これは、とても読みきれん。今後も、ご報告期待。
・昨年の作品でも、湯川薫の2作、「ヴィラ・マグノリアの殺人」、「そして二人だけになった」、京極本といったところも、入ってきそうなのだが。
・H文庫より本届く。
松本泰『探偵小説通』 (昭5・四六書房)
高木彬光『随筆探偵小説』(昭31・鱒書房)
中島河太郎『推理小説ノート』(昭35・教養文庫)
高城高『微かなる弔鐘』(昭和34・光文社)
C・ロースン『首のない女』(昭33・世界推理小説全集63)
ナボコフ『ナボコフの一ダース』(サンリオSF)
『旬刊ニュース』(昭23.5/風太郎「虚像淫楽」、天城一「高天原の犯罪」等を掲載した新人作家コンクール実施号)
『宝石』(昭37.8/ある作家の周囲 山田風太郎篇)
『推理小説研究7 技法の研究』
『推理小説研究13 戦後推理小説総目録(第二集)昭和49〜51』
『密室の妻』は外れたほかは、結構の当たり。値段は聞かないで。
松本泰『探偵小説通』は、日本で最初に「密室」という言葉が出てきたという探偵小説エッセイ。高木彬光『随筆探偵小説』は、黒白さんのHPで、密室トリックについて分析してると知って注文してみた。本の半分以上を密室物への言及に費やしており、圧巻。添えられた図面も、実にかっちょいいです。「推理小説研究 技法の研究」は、中島河太郎・山村正夫「トリック分類表」が目当て。あとは、おいおい。と、こればっかり。
・松本泰『探偵小説通』を読んで、70年前にタイムスリップ。
・リスト追加は、帯・あらすじ・解説等から密室系と確認できるものは即追加、それ以外は読んでからということにします。
●国内リスト追加
大河内常平「安房国住広志」、笹沢左保「赤い死角」、陳舜臣「アルバムより」(以上「トリック分類表より)
倉阪鬼一郎『白い館の惨劇』『『迷宮−Labyrinth』、井原まなみ『vの密室』、森博嗣『黒猫の三角』『人形式モナリザ』、『月は幽冥のデバイス』
2000.1.12(水) 密室系調査員2
・今週は、残業ウィークなり。
・「猟奇の鉄人」日記で、kashibaさんが「忌まわしい匣」評を取り上げて下さった。過褒極まれり。でも、嬉しいっす。
・「UNCHARTED SPACE」日記で1/9付け「密室系調査員」を取り上げて下さった。一部誇張有り。でも、嬉しいっす。
・そのフクさんからメールをいただいた。おお、密室系11本が。以下、その概要。
・倉阪鬼一郎『白い館の惨劇』 ミステリホラーながら前半に密室殺人。
・泡坂妻夫『妖盗S79号』より「生きていた化石」「メビウスの美術館」「黒鷺の茶碗」
・連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』より「化石の鍵」これは身体障害を持った少女が密室で殺されかける話。
・小松左京『継ぐのは誰か?』SFだけど、不可能犯罪が。
・土屋隆夫『美の犯罪』より「外道の言葉」
・都筑道夫『蜃気楼博士』より「蜃気楼博士」「午後五時に消える」
・栗本薫『ぼくらの時代』スタジオという大きな密室の中で殺される第一被害者
・岡嶋二人『とってもカルディア』二階で殺されたはずの被害者が次の瞬間にはいなくなっていた。
昼休みの一筆書きとのこと。象印賞!ありがとうこざいます。密室系調査員002号を進呈します。本年の調査員大賞は、早くもフクさんに決定か。
『妖盗S79号』『ぼくらの時代』は、既読なのに、すっかり忘れてる。『継ぐのは誰か?』は、日下三蔵氏の文章で読んで狙ってはいたのですが。『白い館の惨劇』は読みかけ。と多少、私、言い訳がましいですが、ポイント11点です。おいおい、リストに追加します。
もう一人来たら、顕彰コーナーを設けるかな(目がマジ)。
2000.1.10(月・祝) 『忌まわしい匣』
・連休中は、3冊ばかり。どうも目が疲れる。
・ブックオフでは、梶龍雄『赤い靴少女殺人事件』を拾ったのが収穫か。
・『忌まわしい匣』 牧野修(集英社/'99.11)☆☆☆☆
奔放なイマジネーションと独自の言語感覚でジャンルの新たな地平を切り開く俊英の短編集、というより、もはや90年代の新しき古典と呼ぶのが妥当な作品集である。
●忌まわしい匣 プロローグ、幕間、エピローグに分割して配されたエスキス。本書のモチーフ提示。
●おもひで女 過去から現在にトリップしてくる悪夢の女。出色の時間怪談。
●瞼の母 汚辱の街で何物から身を隠す男。三倍泣ける恐るべき母物。
●BI公爵夫人 少年とマンションの地下に住むBI公爵夫人の大殺戮大会。
●グノーシス心中 「嫌われるために生まれてきた子供」と彼を神と崇める男の殺戮ロードムービー。
●シカバネ日記 風俗店勤めの男とアダルトビデオ嬢が殺戮の果てにみる世界の果て。
●甘い血 人類家畜テーマの独創的な解釈による吸血鬼譚。今後アンソロジーの定番となるだろう。
●ワルツ 泰西幻想譚を思わせるような格調高いグロテスク・ファンタジー。
●罪と罰の機械 異世界から飛来した罪人処刑機械と自閉症少女のワースト・コンタクト。
●蜜月の法 これまた独創的解釈で地球/月の関係性を読み解く現代かぐや姫伝説。
●翁戦記 翁が主人公という奇想による大幻魔大戦。
●<非−知>工場 科学系ライターが見た恐怖の工場とは。イマジネーションが炸裂する名編。
●電波大戦 電波系若者の書簡体メタフィクションにして、ヒップな言語感覚による大超能力戦。
●我は一塊の肉塊なり 死滅した惑星を訪れた男が聞くフォークロア。牧野版「ソラリス」?
あえて、五つ選べば「おもひで女」「グノーシス心中」「甘い血」「蜜月の法」「〈非−知〉工場〉」か。
一編一編の完成度は、もとより、各作品の内包するテーマが、隣接作品と干渉しつつ、ゆるやかなグラデーションを描いていくように見える点も興味深い。ちなみに、各話の核は、前から順番に、母性〜子供〜救済〜異族〜罪〜物語〜啓示と推移していっているように見えるのだが、どうか。
牧野修は、新しい。
牧野修は、なぜ新しいのか。
彼が物語を書き出す地点は、まさに現在である。幼児虐待、サイコセラビー、SMクラブ、風俗店、自閉する少年少女、UFO、電波系、内蔵幻想、切り裂き魔、壊れた人たち・・。最も90年代的なダークサイドを素材に、現代のジャンクを利用して、時代の現実を遥かに上回る恐るべき悪夢を見せる。編中、最もSF的枠組みをもつ「我は一塊の肉塊なり」でさえ、惑星の「肉」のフォークロアを通じて、物語は我々の現代に帰還してくるのである。
新しいのは、意匠だけではない。物語が物語られる地点が新しい。彼が語り出すのは、アニメ、ケームブック、テレビゲーム等あらゆるメディアで、「物語」が消費・蕩尽され尽くした廃墟からである。 「翁戦記」を見よ。太古の日本で退治した禍霊が甦り、現代に転生した三人の勇者が挑む「テレビケームもどきの話」を今という時代にどう再生させるのか。「電波大戦」を見よ。メディアを超え、電波系雑誌などで現実にまで侵食してきた「幻魔大戦」的なクリシェにどう挑むか。
「始める前にたいていの物がおわっちゃう」(「グノーシス心中」)時代、既にあらゆる「物語」が終わってしまった時代に、現代の廃物を利用して物語を成立させていく驚異。
認識が新しいから外挿が新しい。
「翁戦記」は、「翁」を主人公にするという奇想で物語を紡ぎ、「非−知工場」「暖波大戦」は、80年〜90年代的現実に追い抜かれてしまったSF・ファンタジーのクリシェを逆手にとって、現代的物語に再生する。
そして、イマジネーションの質が新しい。新しいと感じる。スプラッタと、言語フェチとでもいうべき言語感覚を武器に高く跳躍するイマジネーション。
イマジネーションの鍵の一つは、おそらく作者の「関係性」への拘りだろう。
例えば、本書のモチーフに設定される「忌まわしい匣」は、ごく普通の主婦のもとに、謎の男が現れ、こう告げる。
「おまえは〈聞く女〉だ」
「話す女」ではない。「聞く女」。いままでの枠物語では、語り手の出自、語る動機が提示されるはずなのに、主婦は、拘束具を着せられたように、「忌まわしい匣」からあふれ出る話を「聞く」だけの女として設定される。発話自体が禁じられたアンチ・シェラザードの創造。この掟破りの設定は、作者の尋常ならざるイマジネーションの質を物語るたろう。
本書の中では、「誘惑者」が至る所に現れる。「瞼の母」の男=烏、BI公爵夫人、「グノーシス心中」のカゲヤマ、「シカバネ日記」の男、「ワルツ」の老人、「非−知工場」のMIB・・。彼らは、多くの場合、誘惑者であり、誘惑される側でもある。
こうした関係性の無効化/転倒に係るイマジネーションは、本書の至る所に遍在する。
「シカバネ日記」「BI公爵夫人」では、首謀者・随伴者の関係がラストまで巧妙に隠蔽される。「グノーシス心中」における「導く/導かれる」、「罪と罰の機械」における「救う/救われる」、「甘い血」における「寄生する/される」、「蜜月の法」における「抑圧する/抑圧される」という関係性の無効化/転倒は、作者の想像力の質に大きく寄与しているものと思われる。
とりわけ、「蜜月の法」(タイトル自体が関係性が溶解する薄明を暗示する)は、抑圧・非抑圧の体系が「心」を生み、「地球」と「月」の関係性にまで飛躍する壮大な離れ業だ。
「僕はね、知っていたさ。確かに人は関係性の中で人間になるってね。それで新しい関係性つくっちゃうとか、それじゃあ人でなくてもいいや」(「グノーシス心中」)
「選ばれたのではないよ。選んだのよ」(「蜜月の法」)
牧野修が「現代の廃物」と「イマジネーション」を武器に、紡ぎ出す「新しい冒険」と「新しい恐怖」。「新しい文明批評」と「新しい思考実験」。この新しさがSFでなくてなんだろう。
1984年、大原まり子『処女少女マンガ家の念力』を最後に、現実と熱平衡状態に入ってしまった日本SFが産み落とした異貌の正嫡。90年代ギリギリに、牧野修が間に合った。
2000.1.9(日) 密室系調査員
・長らく音信不通だった某大推理研で関と同期のY村から、メールをもらう。某大のHPを見て、こっちに飛んできたらしい。さすが、ネット時代。こうして、探し人、探し物が集まってくれば、いいよね。しかし、社長秘書というのは、凄い。南里征典の小説のような日々なのでしょうか。
・探し物といえば、HPをリニュアルされた(祝!)「はらでぁす・かふぇ」の松本楽志さんからうれしいメール。以下承諾を得て引用。
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さて、また、密室系を見つけましたのでご報告。
昨年発売された依井貴裕「夜想曲」(ノクターン)です。
一個目の殺人が密室殺人でした。ドアを破ってはいるというオーソドックスなパターンですが、不可能犯罪なのに登場人物があんまり大騒ぎしていないので、不可能犯罪に見えないんですけど、いちおう密室と言っていいんじゃないかな。ただ、これ……ああ、ネタバラししそうなのでやめときます。
この作品、実に精密に作られていて好感は持てるんですが、どうも「同人誌の延長」というか、遊び心が欲しいところ。良くできている、というだけでは必ずしもおもしろさには繋がらないんだなあ、ということがよく分かる作品でした。
うまい作品なんだけどなあ。というわけで、今年も全国に散らばる密室系調査員として精進しますので、よろしくお願いします!
#って僕しかいないか……<調査員
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『夜想曲』(ノクターン)は、全然ノーマークだったんで、嬉しいです。早速、購入。帯にも、特に書いていない。早目に読んで入れとこう。松本さんには、密室系調査員001号を認定、★一個を献上します。10個たまれば、絶版文庫を進呈(って、商店街のスタンプか。冗談)。
全国に散らばる密室系調査員から、続々と寄せられる密室報告。黙っていても、増えるリスト。日本中で花開く密室。そして、密室系による世界征服。これは、素晴らしい初夢だ。ぐは、ぐは、ぐはははは。
●国内リスト変更
山村正夫『密室の罠』(長編扱い)を「密室の罠」(短編)に修正。
2000.1.7(金) 古本初め
・新年会。珍しく2次会に参加せず、近所の半額店で古本初め。
お、店先の100円均一棚にポケミスの古いところが。もってないところを中心に、拾う。
ハリディ「ドリンダが踊るとき」「死体が転がりこんできた」、シモンズ「犯罪の進行」、プロクター「死に賭けるダイヤ」、モンテイユ「帰らざる肉体」、キーティング「パーフェクト殺人」、ボワロー&ナルスジャック「死はいった、おそらく・・」「すりかわった女」、モイーズ「殺人グランプリ」、ジョンスン「モンゴが帰ってきた」、イーデン「ウィラを待ちながら」、エディゲイ「顔に傷のある男」。
これで1000円。こうこなくっちゃ。
・と、ホクホク顔で、店に入っていくと。おお、ハヤカワ文庫と創元のカーが天井近くに固まっておいてあるではないか。踏み段をもってきて登り、転げ落ちそうになりながら捕獲。カー(ディクスン)でハヤカワ文庫13冊、創元4冊。最近、ほとんどみかけなくなっているだけに、見境いなく手にとる。裏の方には、古目の創元も固まっていて。「サウザンプトンの殺人」などクロフツ7冊、ベン・ベンスン3冊、ウォルシュ3冊を捕獲。持ちきれなくて、レジに行く前に数冊こぼす。どうやら、個人蔵書の一括処分らしい。年末の蔵書整理で、年明けというのは、出物があるのかも。
・買い逃して以来、縁がなかったディクスン「赤い鎧戸のかげで」が手に入ってご満悦。その他のカーは、残してきた方が世のため、えらりあなさんのためだったかもしれないけれど、3万アクセス記念で、広くリリースすることにいたしましょう。
2000.1.4(火) リンク2つ
・山風関係のリンク先、松平ひよこ守さんからメールをいただく。
去年、現在市販されている山風作品の読破が終わったのを記念して?、HP「ひよこ藩」の「山田風太郎館」の全面リニューアルをはじめたとのこと。まだ、忍法帖だけということですが、「山風の買い方」まであるスグレ物。興味のある方は、飛んでいってくださいまし。
・リンクコーナーに、いまさらながらミステリ系ネット古書店「ジグソーハウス」さんのHPを追加。
●国内リスト追加
横溝正史「双生児は囁く」
2000.1.3(月) 『放浪探偵と七つの殺人』
・サイ君の実家訪問。サンリオのサキをゲットする。
・横溝正史『双生児の復讐』(カドカワ・エンターテインメント)を途中まで。「三年の命」というのが、マッド・サイエンティスト物とも読める珍品で、こら面白い。
・『放浪探偵と七つの殺人』 歌野晶午 ('99.6 講談社ノベルス)
解答編は、袋とじの本格7編。かっちりとした本格で新しい要素を盛り込んで、という作者の意欲はわかるのだが、どうもタメがないというか、キレ味にかけるというか。ネタ的にはつまらない「幽霊病棟」、「W=mgh」でも、プレゼンテーション次第で、もう少し面白くなると思うのだが。特に、「烏勧請」
の「なぜ、被害者はゴミ袋を集めていたのか」という謎とか、「有罪としての不在」のメタ的仕掛けの狙いはかなりのものがあるのに、必要な手続きが十分なされていないと感じる。探偵信濃譲二の魅力が乏しいのも辛い。倒叙密室「ドア→ドア」は佳編。☆☆
2000.1.2(日) 『黒い木の葉』
・明けましておめでとうございます。「密室系」本年もよろしく申し上げます。2000年問題も、大きなトラブルは生じなかったようで、なにより。せいぜい、「スター隠し芸大会」がうまく録画されないくらいだろうという私の予想が当たりましたね(後出しですが)。まだ、安心できない?そうですか。掲示板関係では、2000年が00年と表示される2000年問題が発生しているところもあるようですね。
・去年の元旦のwhat’s newを読み返してみたら、足にひび入ってたんだとか、思い出す。今年は、平穏な正月でした。酒飲んでばかりで、読書のはかは、あまりいかない。牧野修『忌まわしい匣』の予想を上回る凄さに吹っ飛ぶ。
・本年のHPの抱負も色々あるのだが、あれこれ書いて、空手形になっているものが多いので、公言は控えよう。とりあえず、止まったままの山風コンメーディアをなんとかいたしたい。
・国書第3期カーター・ディクスン『九人と死で十人だ』を購入。装幀がこれまでと全然違うんで、見逃していたかな。
『黒い木の葉』 多岐川恭(昭和34.4 毎日新聞社)
デビュー作「みかん山」、直木賞受賞後第一作「ライバル」を含むバラエティに富んだ第二短編集。
「みかん山」(昭和28.12「別冊宝石」)
旧制高校を舞台にしたロマンティシズム漂う不可能犯罪物の名品。作中使用されるトリックは、某海外作品の鬼気迫るトリックを思わせる。
「黄いろい道しるべ」(昭和31.1「宝石増刊」)
戦前の小学生の眼を通してみた映画館の殺人。意外な犯人とタイトルの暗示が効果的。レトロな映画館の風情も味わい深い。
「澄んだ眼」(昭和31.7「宝石」)
炭鉱町での老人の死。生活苦にあえぐ若い母の「澄んだ眼」が印象深い。
「黒い木の葉」(昭和33.5「宝石」
「されど窓の硝子に、木の葉を描きしは誰?」高原の避暑地を舞台にシューベルトの「春の夢」をモチーフに描かれる美少女の死。少年と少女の美しくもはかない交感が描かれる叙情編。
「ライバル」(昭和34.4「オール読物」)
非ミステリ。旧制高校で誰もが認める両雄の末路は。結末三行で突如顕現する悪意が凄い。
「おれは死なない」(昭和34.2「別冊文芸春秋」)
自殺希望者4人が集まった山荘での殺人劇。後の天藤真や赤川次郎を思わせるシチュエーション・コメディ風ミステリを思わせる。
「雲がくれ観音」(昭和34.4「宝石」)
珍しい戯曲。江戸に近い小藩での観音像盗難事件。作者曰く「私の落書きのような作品」
○国内リスト追加
歌野晶午「幽霊病棟」