１９１８年５月、革命農民への食糧独裁令・第３次クーデター
「スターリンは悪いが、レーニンは正しい」説当否の検証
第３部、９０００万農民への内戦開始・内戦第２原因形成
(宮地作成)
〔目次〕
1、８０％・９０００万農民の土地革命の規模と位置づけ (表１)
２、レーニンらによる「農民・農村への内戦開始」決定と経過・体制 (表２)
４、革命農民の対ボリシェヴィキ抵抗・反乱とその性質 (表３、４、５)
６、レーニンによる革命農民数十万人殺害犯罪 (表６)
〔関連ファイル〕 健一MENUに戻る
『見直し「レーニンがしたこと」－レーニン神話と真実１９１７年１０月～２２年』ファイル多数
第１部『１９１７年１０月、レーニンによる十月・ソヴィエト権力簒奪第１次クーデター』
第２部『１９１８年１月、憲法制定議会の武力解散・第２次クーデター』
第３部『１９１８年５月、革命農民への食糧独裁令・第３次クーデター』
第４部『１９１８年６月、他党派をソヴィエトから排除・第４次クーデター』
第５部『１９２１年２月、革命労働者ストライキの弾圧・第５次クーデター』
第５部２『１９２０年３月、トロツキー「労働の軍隊化」構想と党内論争』
第６部『１９２１年３月、革命水兵の平和的要請鎮圧・第６次クーデター』
第７部『１９２１年３月～２２年末、「ネップ」後での革命勢力弾圧継続・強化』
第８部『１９２２年５月、知識人数万人追放「浄化」・第７次クーデター』
第９部『１９１７年～２２年１２月、レーニンの最高権力者５年２カ月間』
第１０部『「レーニンによる７連続クーデター」仮説の自己検証』
(食糧独裁令・農民反乱問題の関連ファイル)
『「反乱」農民への「裁判なし射殺」「毒ガス使用」指令と「労農同盟」論の虚実』
『マフノ運動とボリシェヴィキ政権との関係』共闘２回と政権側からの攻撃３回
梶川伸一『飢餓の革命 ロシア十月革命と農民』１９１７、１８年－貧農委員会
『ボリシェヴィキ権力とロシア農民』クロンシュタット反乱の背景
食糧独裁令の割当徴発とシベリア、タムボフ農民反乱を分析し、
レーニンの「労農同盟」論を否定、「ロシア革命」の根本的再検討
『幻想の革命』十月革命からネップへ これまでのネップ「神話」を解体
『レーニンの農業・農民理論をいかに評価するか』十月革命は軍事クーデター
『レーニン体制の評価について』２１－２２年飢饉から見えるもの
ロイ・メドヴェージェフ『１９１７年のロシア革命』食糧独裁の誤り
TAMO2『ソ連邦共産党史２』１９１７年～第９章、外国の軍事干渉と内戦の時期における党
1、８０％・９０００万農民の土地革命の規模と位置づけ
〔小目次〕
２、土地革命の位置づけと農民層の変容結果 (表１)
〔小目次〕
２、土地革命の規模
４、レーニンの社会主義農村構想と土地革命レベルとの乖離、その解消策
『第３部』のテーマを検証するに当たって、まず、土地革命の開始時期と、レーニンによって断絶された時期を確認しておく。というのも、レーニンは、「十月革命」の意義を持ち上げるため、それと比べて、先行した２つの革命＝(１)数十万人が決起し、ツアーリ帝政を倒した二月革命と、(２)８０％・９０００万農民による土地革命の意義を、恣意的に過小評価したからである。(１)(２)を「十月革命の前史」とし、セクト的にロシア革命史の歪曲をしてきた。
土地革命の開始時期は、諸データから見て、１９１７年３月と規定できる。ペトログラード・モスクワなど大都市における二月革命の衝撃は、瞬時に農村に伝播した。労働者・兵士によるツアーリ帝政打倒革命は、農村における帝政支持・擁護基盤であり、大土地個人所有者である貴族・地主打倒＝土地収奪革命に直結した。二月革命と土地革命とは、見事に連結した壮大なロシア革命である。「十月革命」の前史という位置づけは、公認ロシア革命史が操作した偽造歪曲史の性質を持つ。それは、公認党史に典型的に表れている。
TAMO2『ソ連邦共産党史１』農民の土地革命をほとんど無視・抹殺
(１)(２)の革命において、ボリシェヴィキはほとんど関与も、指導もしていない事実が証明されている。むしろ、二月革命において、ペトログラード・ボリシェヴィキは、デモに反対し、妨害した事実も判明している。それだけに、「革命でなく、クーデター」指導者レーニンは、二月革命・土地革命の意義・位置づけを貶めたと言えよう。
土地革命は、１９１８年５月１３日、レーニンによる食糧独裁令によって、断絶させられた。
２、土地革命の規模
これは、１９１７年３月頃から、ロシア全土で勃発した自然発生的な民衆革命である。貴族・地主から土地を奪い、個人所有ではなく、それぞれの村落共同体ミールの社会的所有とし、その共同体内で、自治的に総割り替え制度を行った。
その規模は、まさに、ロシア全土に及んだ。トロツキーは、『ロシア革命史・２』(岩波書店、２０００年、Ｐ．２３９～２６７)において、その状況を生き生きと描いている。ただ、データとしては、長尾久『ロシア十月革命』(亜紀書房、１９７２年、絶版)の方が詳しいので、その抜粋・引用(Ｐ.１４６～147。１５２。１６３)をする。これらのデータを頭に入れておかないと、レーニンによるロシア革命史の偽造歪曲の「前史」という陥穽に騙される。
この間、農民運動も激化の一途をたどっていた。二月革命が農村へ波及していく過程で、三月初めから新たな状況の中での農民運動が始まった。農民運動についての統計は全く不完全だが、一応全国をカバーしている、ソ連の歴史学者イ・イ・ミンツの作った表によると、三月に一五県で一七件、四月に四四県で二〇四～二〇五件、五月に四四県で二五九～二六二件、六月に五二県五七七件となっている。六月に件数の多い県のベストテンを見ると次のようになる。
六月――ペンザ県四七件、カザーン県三六件、サマーラ県三〇件、サラートフ県二六件、ヴォローネシ県二五件、ミンスク県二五件、クールスク県二三件、トウーラ県二件、タムボフ県三件、リヤザーン県二〇件である。ヴオルガ中流域諸県と、中央農業地帯諸県とが、件数の多い所である。この傾向は一九一七年全体を貫いている。
大体の傾向に変りはないが、ミンツの表では件数が少な目になっているようである。ソ連の歴史学者エヌ・ア・クラフチュークが、ヨーロッパ・ロシヤの大ロシヤ人諸県だけについて作った表では、三月一八三件、四月四四五件、五月五八〇件、六月八三六件となっている。一九一七年三～一〇月を通して見ると、農民運動の八四・四％は対地主闘争、六・三％が対フートル農・オートルプ農闘争だった。闘争形態は、クラフチュークによると次のようだった。三月――打ちこわし四六・九％、奪取二四・五％、強制一〇・二％。四月――打ちこわし一七・三％、奪取四〇・一％、強制三五・八％。五月――打ちこわし二二・一％、奪取四八・七％、強制三二・七％。六月――打ちこわし一一・五％、奪取五六・二％、強制二九・二％。
「打ちこし」は、地主所領の全部又は一部の打ちこわしだった。「奪取」は、土地・農具・家畜・種子などの奪取、森林「盗伐」などである。「強制」は、地主農場からの農業労働者、特に捕虜（あちこちの農場で働かされていた）の排除、借地料引下げの強制、土地売買の禁止などである。農民の攻撃は、官有地・官有林にも向けられた。軍隊の派兵、農民の軍隊との小ぜり合いは三月から始まっている。
農民運動は多くの場合ミール共同体を基礎として、郷・村総会－郷・村委員会を通じておこなわれた。だが郷より上級、つまり県・郡レベルでも三月から動きが始まる。(Ｐ.１４６～１４５)
運動の発展の中で農村でもソヴェート網が拡大していった。まず、県農民ソヴェートはヨーロッパ・ロシアで次のように組織されていった。
三月――ニジェゴロト、サマーラ、ヤロスラーヴリの三県。
四月――ペンザ、サラートフ、ヴォローネシ、トゥーラ、ミンスク、モスクワ、スモーレンスクの七県。
五月――カザーン、クールスク、リヤザーン、タムボフ、モギリョーフ、ヴラヂーミル、カルーガ、コストロマー、トヴェーリ、ヴォーログダ、オローネツ、ペトログラード、ペルミの一三県。
六月――オリョール、ヴィリノ、ヴィーチェプスク、アルハンゲリスク、ヴャートカ、ウファーの六県。
六月末までで計二九県で成立したことになる。ヨーロッパ・ロシヤでの県農民ソヴェート建設は、この頃でだいたい終ったと見てよい。郡農民ソヴェートは、七月一五日現在、ロシヤ八一三郡中三七一郡で成立していた。なお農民代表機関（ソヴェート、委員会）は、郷については各村の総会で選ばれるが、郡については郷代表機関から、県については郡又は郷の代表機関から選ばれている。すでに述べた第一回全国農民代表大会は、ちょうど県農民ソヴェートが最も多くつくられた時におこなわれたのである。大会が協調主義路線で進んだことはすでに述べたが、農業問題については政府の枠にはおさまれなかった。(Ｐ.１５２)
首都を中心として二月革命後最大の闘争が起った七月は、一九一七年の農民運動が最高の件数を記録した月でもあった。ミンツの表によると、六月の五七七件に対して、七月は一一二二件を記録している。農民運動は全国のほとんどすべての県で起っているが、そのうち件数の多かったのは次の県である。カザーン県七五件、モギリョーフ県七四件、サラートフ県六五件、スモーレンスク県五三件、ペンザ県五一件、クールスク県四七件、フスコーフ県四四件、リャザーン県四三件、オリョール県四二件、キーエフ県四〇件。地域的には、ヴォルガ中流域が断然トップであり、中央農業地帯がこれに次いでいる。
件数第一位のカザーン県での運動の内容は、それまでの運動の継続という性格が強いが、七月から新たに、穀物国家専売に反対する闘争が始まっている。穀物専売は、政府によって三月二五日に実施が宣言されていたのだが、春蒔穀物の収穫期に入って問題が具体的になったのである。闘いは、国家と農民の問での穀物の争奪戦を意味した。七月末までに、この穀物専売反対闘争の激化によって、県コミサールは県下の四郡に軍隊を派兵するよう軍管区司令部に要請した。そのうちの一つであるヤドリン郡のアリコフスカヤ郷では、七月二五日に、専売実施のためにやってきた役人・軍人ら一〇人くらいを農民がふくろだたきにし、軍隊が送られて、二八日までに農民二九人が逮捕された。農民は郷総会を通じて決起した。同じヴォルガ中流域のペンザ県については、七月末、同県地主代表が「過激行為は今は少い。ほとんどすべてがすでに奪取されているからである」と述べている。県コミサールの七月一九日付報告書を見ても、合意によって紛争が解決される傾向が強い。ペンザ県のこれまでの動向からして、合意とは地主の譲歩による合意だろうと推定できる。実際、同県の二つの郡については、「多くの地主」の譲歩、「地主はほとんどいつでも譲歩した」ことが、はっきりと報告されている。
全国的に見た運動の内容は次のようだった。所領奪取三六件、牧草地・草刈場奪取二四四件、森林区奪取二二件、農具・家畜奪取三二件、収穫穀物奪取五九件、強制借地二九件、森林伐採・搬出禁止三六件、労働者排除八一件、その他二三三件。(Ｐ.１６３)
その性質を、土地革命における政党の関与度という視点から検討する。農民が支持した政党は、圧倒的に、エスエル・左翼エスエルだった。この政党は、ロシア農村独特のミール共同体という自治的共同システムを基盤に据えた社会主義を構想する革命政党だった。農民内のボリシェヴィキ支持は、まるでなかった。ロイ・メドヴェージェフ『１９１７年のロシア革命』(現代思潮社、原著１９９８年、Ｐ．９１)は、次のようなデータを載せた。「党の統計によれば、一九一七年末の時点で、全国に四一二二人の党員を抱える二〇三の農村党細胞があった」(『ソ連共産党史・第３巻』Ｐ．２４５)。
よって、土地革命は、エスエルの具体的関与もほとんどなく、自然発生的に進行した。ましてや、９０００万農民中に、党員４１２２人しかいないボリシェヴィキとはまったく無関係に、農民たちは、貴族・地主の土地を収奪し、ミール共同体所有にする大革命を自力で成功させた。誇り高きレーニンが、ボリシェヴィキの指導どころか、関与もしていない土地革命の歴史的意義を評価もしないで、「前史」の位置にまで貶め、ロシア革命史の偽造歪曲を謀った心情も分からないでもない。
彼は、ボリシェヴィキ学者内でも出ていた「農民土地革命とプロレタリア革命との複合革命」説をも無視・抹殺した。レーニンが抹殺した学説がよみがえり、学問的再評価を受けるのには、ソ連崩壊までの７４年間を待たなければならなかった。
４、レーニンの社会主義農村構想と土地革命レベルとの乖離、その解消策
貴族・地主の土地を収奪し、ミール共同体所有にする土地革命は、社会主義革命ではない。ツアーリ帝政を倒した二月革命と同じく、民主主義革命レベルだった。
レーニンは、特有の社会主義農村・農業構想に固執し、そのレベルに満足できなかった。ただ、十月クーデター時点、彼は、少数派クーデター政権を維持するのに、８０％・９０００万農民の支持を絶対必要条件とした。彼は、自己の構想・本心を隠し、エスエルの土地社会的所有政策＝ミール共同体所有への支援を、心ならずも公約した。
彼は、そこで、(１)社会主義革命戦略と、(２)当面の戦術との乖離を隠蔽する二枚舌手法を使った。この手法は、『第２部』でも、憲法制定議会選挙をめぐる二枚舌手口で検証したように、彼の基本体質である。もっとも、レーニン神話となれば、それは、レーニンが情勢の変化に応じ、戦略と戦術を見事に使い分ける天才的な革命家だったという評価になる。
彼の構想の本音は、(２)ミール共同体所有＝社会的所有を否定し、(１)土地を国有化することだった。コルホーズ・ソフホーズなど国家による集団的農業創設を目指していた。梶川伸一は、『レーニンの農業・農業理論をいかに評価するか』(『革命ロシアの光と影』、社会評論社、２００５年、Ｐ．２４)において、レーニンの農業政策は、穀物工場幻想だったと、規定した。その一節を引用する。
『党綱領草案』（１９年３月）で述べられている、「ソフホーズ［国営農場］、すなわち、大規模な社会主義農場の設営」がそれである。同年２月に出された布告によれば、これらソフホーズは、農民経営のための家畜や種子の繁殖場となり、社会主義的土地整理の卓越性を農民に誇示するモデルとなるはずであった。このような構想の基本にあるのは、「穀物工場」としてのソフホーズの位置づけであり、当時のボリシェヴィキ指導者はこぞって「穀物工場」としてのソフホーズを高く評価した。小農業経営の統合を金属工場の統合になぞらえ、ソフホーズには工場労働者が採用されることが原則とされ、そこでの労働時間は八時間を超えないものとして、工場管理的方法が取り入れられた。こうして、大規模農業経営の中でも特にソフホーズに最優先順位が付けられた。
レーニン・ボリシェヴィキの本音を実行しようとすれば、その乖離を取り除くための、(２)農民による自力民主主義革命レベルを乗り越える(１)農村の社会主義革命が、レーニンらにとって必要となった。それが、下記１９１８年４月２９日、レーニン・トロツキー・スヴェルドロフらによる８０％・９０００万農民と農村にたいする内戦開始宣言・決定である。レーニンによる第３次クーデターと８０％・９０００万土地革命農民との敵対・反乱と大量殺人犯罪の悲劇が始まった。
レーニンはその過程において、第３次クーデターに抵抗・反対する土地革命農民数十万人を殺害した。
２、土地革命の位置づけと農民層の変容結果
この(表１)も、日付をすべて旧暦で書く。旧暦１０月２５日が、新暦１１月７日となる。旧暦に１３を足せば、新暦になる。１９１８年２月から新暦になった。「十月クーデター」説を検証するにあたって、まず、４つの革命・事件データ内容を検討し、比較する。(表１)の内容は、多くの文献に基づいて、私が判定した。
第一、土地革命の位置づけ
革命・事件・単独武装蜂起という４つのデータから、８０％・９０００万農民の土地革命をどう位置づけるのか。公認ロシア革命史のように、２１世紀になっても「前史」と見るのか、それとも、「ロシア革命の正史の一つ」と位置づけるのか。レーニンのしたことが「十月クーデター」だったという認識になれば、ロシア革命史はどういう記述になるのか。
(表１) 二月革命、農民革命、七月事件、十月単独武装蜂起の比較
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二月革命 |
農民土地革命 |
七月事件 |
十月単独武装蜂起 |
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月日 |
2月23～２７日 ５日間 |
3月以降 １年間以上 |
7月3、4日 ２日間 |
10月24・25日 1日～1日半 |
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形態 |
デモ・ゼネスト |
地主・貴族襲撃の全国一揆 |
武装デモ・スト |
デモ・スト一切なし、組織もせず |
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規模 |
数十万人 |
80％・9000万農民すべて |
数十万人 |
ボリシェヴィキ部隊数千人 |
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勢力 |
労働者・兵士 |
農民 |
機関銃連隊兵士・労働者 |
ボリシェヴィキ支持兵士・赤衛隊 |
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性格 |
自然発生の民衆革命 |
自然発生の民衆革命。ミール共同体の社会的所有に |
自然発生の武装デモ・スト＋ボリシェヴィキ支持 |
一党独裁狙いの単独権力奪取クーデター |
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結果 |
ツァーリ帝政崩壊 |
土地を収奪し、全農民に |
政府による弾圧 |
ボリシェヴィキ単独権力 |
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死者 |
死者169人 |
貴族・地主数百人殺害 |
死者数十・逮捕兵士数千人 |
死者10～14人 |
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ボリシェヴィキ |
関与・指導なし |
関与・指導なし |
当初は反対→途中から支持 |
最初から「蜂起の技術」のみ |
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レーニン |
スイス・チューリッヒ。1週間後に知る→4月帰国 |
5月農民大会で支持演説 |
バルコニーで支持演説 |
一貫して第2回ソヴィエト大会前の単独武装蜂起の主張をし、その決定を迫る |
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他党派 |
メンシェヴィキ、エスエルともほとんど無関与 |
エスエル、とくに左翼エスエルが支持 |
メンシェヴィキ・エスエルは、ボリシェヴィキのクーデターと批判 |
ボリシェヴィキのクーデターと反対。第2回ソヴィエト大会を抗議の退場。左翼エスエルのみ残る |
第二、農民層の変容結果
土地革命によって、貴族・地主などによる大土地所有形態は、ロシア・ソ連からなくなった。問題は、１９０６年ストルイピンの土地改革で生れていた個人的土地所有農民→富農(クラーク)層が、どうなったかである。二月革命以前で、共同体の外にいた農民数は、ロシア４７県において、約３０％にとどまっていた。ロシア全土で発生した８０％・９０００万農民による土地収奪革命は、各村落のミール共同体を単位として行われた。土地は、すべて共同体による社会的所有となった。全土で、貴族・地主・富農(クラーク)を含め、個人的所有形態はなくなった。
富農(クラーク)はいなくなった。なぜなら、ミールは、農民の自然発生的自治組織である。そこでは、村会(スホード)が、収奪した土地を、(１)牧場・森林を共同体所有とし、(２)耕地を、定期的な総割替え制に基づいて、家族単位で個別経営をする仕組みを決めていたからである。定期的な総割替え制とは、家族の働き手数・扶養人数に合わせて耕地を割り当て、かつ、耕地の良し悪しという差をなくすために、１年か２年で、家族ごとに耕地の総割替えをするという独創的で公平な配分システムだった。農民は、他生活用品・農具の購入用の穀物と１年分の食糧・種まき・凶作対策などの備蓄が要る。働き手数・扶養人数が多いほど、そのための余剰穀物も多くなるのは当然である。それは、レーニンの詭弁レッテルである「富農(クラーク)」とはまるで異なる。
２、レーニンらによる「農民・農村への内戦開始」決定と経過・体制
〔小目次〕
２、１９１８年４月２９日、「農民・農村への内戦開始」発言・決定 (表２)
３、１９１８年５月２５日、チェコ軍団４．５万人の反乱勃発とその原因
４、８０％・９０００万農民にたいし、レーニンが仕掛けた内戦経過
５、土地革命農民にたいするボリシェヴィキの敵意・蔑視と内戦体制
内戦・「内戦」・反乱という概念は複雑である。というのも、３つの問題と時期が重なるからである。テーマは、１９１８年４月２９日から、１９２１年３月「ネップ」までの２年１０カ月間にわたる。私(宮地)は、３つを区別している。
(１)、レーニンの第３次クーデター・１９１８年５月１３日からの食糧独裁令にたいする土地革命農民の抵抗・反対を、農民反乱とする。
(２)、１９１８年５月２５日からのチェコ軍団の行動は、トロツキーの残虐・不当な武装解除命令にたいするチェコ軍団反乱と規定する。それは、白衛軍の「内戦」と性質が異なる。
(３)、それ以降に大規模化した白衛軍との闘争を、白衛軍との「内戦」という用語を使う。「 」付きにする。それは、１９２０年夏に基本的に終った。
ところが、これらを混同して使うケース・研究も多い。下記４月２９日のレーニンらの発言・決定は、農民・農村にたいする「 」なしの内戦という用語を使っている。『ソ連邦共産党史２』は、(１)(２)を完全にロシア革命史から抹殺した。そして、(３)白衛軍との内戦だけの記述とし、歴史の偽造歪曲と隠蔽をした。私も、レーニン信奉者の頃、それを読んで感激したものだった。しかし、ソ連が崩壊するまで、(１)(２)のデータどころか、それらが存在した事実もまったく知らなかった。
TAMO2『ソ連邦共産党史２』１９１７年～第９章、外国の軍事干渉と内戦の時期における党
梶川伸一は、基本的に、農民反乱という言葉にしている。ロイ・メドヴェージェフは、農民反乱と白衛軍との「内戦」を区別しつつも、３者を内戦という概念としても書いている。よって、この『第３部』において、引用文などは、「内戦」と書くケースと、「 」なしの内戦とするケースを併用する。ただ、このような複雑な用語併用をするのは、『第３部』に限る。
２、１９１８年４月２９日、「農民・農村への内戦開始」発言・決定
内戦を、誰が、いつ仕掛けたのか。レーニンと公認ロシア革命史は、(１)外国の軍事干渉と、(２)それに呼応した白衛軍とによる内戦としてきた。ソ連崩壊後も、その歴史認識は正しいのか。それにたいし、ロイ・メドヴェージェフは、『１０月革命』『１９１７年のロシア革命』の２著において、ソ連崩壊前後に、膨大なアルヒーフ(公文書)を発掘・検証し、逆説の内戦原因説を提起した。彼は、(３)憲法制定議会の１日目武力解散、(４)食糧独裁令というレーニン・ボリシェヴィキの誤った政策こそが、内戦の基本原因になったとする。
レーニンは、権力奪取クーデター前、「平和＝戦争離脱・終結」を力説していた。それにより、ドイツとの戦争をまだ続けている臨時政府を批判するボリシェヴィキ支持率が急上昇した。１９１８年３月３日、ブレスト講和条約によって、第一次世界大戦からロシアだけが単独離脱した。それは、ロシア国民に「平和」と息継ぎをもたらした。
１９１８年５月２５日、いわゆる本格的な内戦勃発の契機が、チェコ軍団４．５万人の反乱であることは、確定された真実である。それ以後、イギリス・フランス・アメリカ・日本による軍事干渉が本格化した。白衛軍も、それ以前の国境付近や辺境における小規模な行動から、大規模な軍隊活動に移行した。
ところが、ソ連崩壊後、２人の研究者が、４月２９日から数日間の「第４回全露中央執行委員会」の議事録を発掘・公表し、メドヴェージェフの新説を追認・検証した。２人とは、(１)ニコラ・ヴェルト『共産主義黒書』(原著１９９７年)と、(２)梶川伸一『飢餓の革命』(１９９７年)である。他時期を含め、ボリシェヴィキ指導者７人の発言を(表)にする。
(表２) １９１８年４月２９日、「農民・農村への内戦開始」発言と決定
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月日 |
発言者 |
発言内容 |
出典 |
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4・29 |
レーニン |
レーニンは単刀直入に言った。「我々プロレタリアが地主と資本家を打倒することが問題になった時、小地主と小有産階級はたしかに我々の側にいた。しかしいまや我々の道は違う。小地主は組織を恐れ、規律を恐れている。これら小地主、小有産階級に対する容赦のない、断固たる戦いの時がきたのだ。」 |
『黒書』P.７４ |
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4・29 |
トロツキー |
我々の党は内戦のためにある。内戦とはパンのための戦いなのだ……内戦万歳！ |
『黒書』P.７４ |
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4・29 |
食糧人民委員 |
わたしは断言する。ここで問題になっているのは戦争なのだ。我々が穀物を入手できるのは銃によるのみだ。 |
『黒書』P.７４ |
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5月 |
スヴェルドロフ |
われわれは、村の問題にとり組まなければならない。農村に、敵対する二つの陣営を作り出し、貧農をクラークに向けて蜂起させる必要がある。もし村を二つの陣営に割り、都市におけると同様に、村に内戦の火をつけることができるならば、その時にはわれわれは、都市と同じ革命に、村において成功することになるであろう。 |
ダンコース『ソ連邦の歴史１』新評論、１９８５年、P.１５４。梶川伸一『飢餓の革命』P.571 |
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５月 |
ツュルーパ |
モスクワの近くでさえ著しい貯蔵を持ち、飢えたモスクワにも、ペトログラードにも、そのほかの中央諸県にもそれらを引き渡さない農村ブルジョワジーに戦争を布告する以外の解決はない。 |
梶川伸一『飢餓の革命』P.571 |
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５月 |
シリーフチェル |
農民の九〇％が余剰を持ち、農村内「階級闘争」を適用する対象である。 |
『同上』P.571 |
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21年 |
ラデック |
彼は一九一八年春のボリシェヴィキの政策、すなわちその後二年間にわたって行なわれた赤軍と白軍の戦いへとつながる軍事的対決の発展の数カ月前の政策について、次のように解明している。「一九一八年初めの我々の義務は単純だった。我々に必要なことは農民に次の二つの基本的なことを理解させることだった。国家は自らの必要のために穀物の一部に対して権利があるということ、そしてその権利を行使するための武力を持っているということである！」』(ラデック『ロシア革命の道』) |
『黒書』P.７４ |
これら７人の「農民との内戦開始」発言中、上６人の発言時期は、４月２９日から数日間の第４回全露中央執行委員会である。それは、チェコ軍団との内戦勃発の２６日も前だった。４月２９日の議事録は、内戦を誰が先に仕掛けたのかを、明白な歴史的事実とした。それこそ、レーニンの、自国民にたいする犯罪的な戦争再開政策だった。レーニン・トロツキー・スヴェルドロフこそが、全露中央執行委員会の決定に基づく、５月１３日食糧独裁令の発令によって、８０％・９０００万農民にたいする穀物・家畜収奪の内戦を開始した事実が暴露・証明された。
レーニンは、「土地・平和・パン」という公約を繰り返し発言してきた。１９１７年８月コルニーロフの反乱失敗後、ボリシェヴィキは、「平和＝ドイツとの戦争終結」という全国民的要求を取り込んだ公約によって、支持率を急増させた。しかし、４月２９日執行委員会は、ドイツとの戦争をやめてからわずか２カ月弱の後、自国民にたいする戦争再開政策を決定した。レーニンらクーデター政権は、それによって、全国民的要求にたいする犯罪的な裏切り路線に大転換した。
レーニン・政治局の目的は、２つあった。第一、食糧人民委員部を中央集権化し、食糧の武装徴発隊を十数万人も農村に派遣し、チェーカーと赤軍の暴力手段で、穀物・家畜を収奪して、それによって飢餓状態を克服することである。第二は、農村において、「貧農委員会」を組織し、「富農」にたいする階級闘争を起すことだった。それは、「ボリシェヴィキ側が、農村に内戦の火をつけることによって、８０％・９０００万農民を社会主義化する」という、レーニンらの、自国民にたいする犯罪的な政策だった。
レーニン・政治局にとって、プロレタリア独裁国家の権力基盤である軍隊と都市に食糧の供給を確保することが死活問題となっていた。彼らには２つの選択肢があった。〔第１選択肢〕、農民要求による自由経済再開を認め、穀物専売制をやめ、資本主義市場を再建する。あるいは、〔第２選択肢〕、食糧確保に向けて、穀物専売制よりもさらに過酷な食糧独裁令による強制を用いるかである。彼らはツアーリ体制打倒の闘争の中で、さらに前進する必要があるとの論拠から、〔第２選択肢〕を選んだ。この思惑が、レーニン・政治局全員の社会主義構想であったことについては、「ロシア革命史」のほとんどの文献が一致している。
Ｈ・カレール＝ダンコースは、『レーニンとは何だったか』(藤原書店、原著１９９８年)において、レーニンが、食糧問題の解決策として、すでに、１９１８年１月時点で、〔第２選択肢〕を提案していた事実を発掘・公表した。それは、穀物・家畜収奪の内戦開始決定をした４月２９日執行委員会の３カ月前だった。次のデータである。
一九一八年一月十四日、ペトログラード・ソヴイエトの代議員たちと食糧調達地方委員会の協力者たちからなる聴衆に演説をした時、レーニンはこの問題に触れた。解決策を彼はすでに念入りに作り上げていたが、それをこの上なく率直に披露した。(１)、一〇人から一五人の兵士と労働者で構成された分遣隊を作る必要がある。(２)、それを数千組組織して農村部に投入する。(３)、要求に従わないすべての農民を銃殺できる権限を与える、というのであった。これほど過激な話がレーニンの口から出るのは初めてのことであった（少なくとも公の場では）。聴衆は恐怖に慄えた(Ｐ．４７６)。
レーニンは、１月時点の解決策を、５月１３日からの食糧独裁令・軍事割当徴発路線において、(１)(２)(３)とも、全面的に執行させた。
３、１９１８年５月２５日、チェコ軍団４．５万人の反乱勃発とその原因
１９１８年３月３日、政府は、ドイツとブレスト講和条約を結び、ソ連だけが、第一次世界大戦から単独離脱した。ソ連国内にチェコ人の捕虜・投降兵士からなるチェコ軍団が４．５万人残っていた。政府は、彼らを完全武装させたままで、シベリア鉄道でウラジオストックから帰国させることにした。
１９１８年５月２５日、その帰国途中で、レーニン・トロツキーは、突如方針転換をした。彼らは、白衛軍ではない。いわゆる本格的な内戦勃発の契機が、チェコ軍団４．５万人の反乱であることは、確定された真実である。武装したチェコ軍団４．５万人の反乱は、白衛軍との内戦勃発・拡大の引金になった。
反乱の理由はいろいろ挙げられている。公認ロシア革命史は、(１)ドイツ軍捕虜との紛争とか、(２)フランス干渉軍による反乱そそのかしなどとしてきた。しかし、ロイ・メドヴェージェフは、ソ連崩壊後のデータ発掘により、(３)その主要原因を、トロツキーによるチェコ軍団への一方的で不当な武装解除指令にあったと特定した。これも、公認ロシア革命史への逆説である。
ロイ・メドヴェージェフは、『１９１７年のロシア革命』で、この命令文書を載せた。この詳細な経過は、彼が次のように分析している。
残念なことに、こうした状況の中でソヴィエト政権は、正当化できないほど残酷な行動をとり始めた。モスクワから軍団の移動路線へ、次のような恐るべき電報が送られた。
〔１９１８年５月２５日、トロツキーによる武装解除・銃殺命令〕
「軍事人民委員命令
モスクワより五月二十五日二十三時。サマーラ、ペンザからオムスクまでの鉄道沿線のすべてのソヴィエトヘ。
全ソヴィエトは責任をもって速やかにチェコスロヴァキア人の武装解除をおこなうこと。鉄道路線内で武装が発覚したチェコスロヴアキア人はその場で銃殺すること。一人でも武装している者がいた場合、その輸送列車編隊は下車させ、軍事捕虜ラーゲリへ収容すること。地方軍事コミッサールは本命令を速やかに遂行する義務を負う。いかなる遅滞も恥ずべき裏切り行為と同義であり、違反した者は厳罰に処する。武器を引渡しソヴィエト政権に従う誠実なチェコスロヴァキア人に対しては、兄弟として過し、あらゆる援助を与えること。本命令を全チェコスロヴアキア輸送列車編隊に読み聞かせ、チェコスロヴアキア人と接する全鉄道員に通知すること。……
軍事人民委員L・トロツキー。（注１０８）」 （注１０８）、B・マクサコフ、A・トルクノフ『シベリアにおける内戦の記録』、国立出版所、１９２６年、５７頁。
この命令の内容は、単に残酷であっただけではない。遂行不可能なものでもあった。ソヴィエト政権には、チェコスロヴアキア人を武装解除する力はまったくなかったからである。軍団の兵士たちが自発的に武器を手渡すと考えることなど、ばかげたことであった。異国にいて、そこで起こっている事件についてあまりよく判らず、様々な「徒党部隊」からの攻撃を懸念していた兵士たちは、武器を、安全を確保しつつ帰国を実現するための保証と見なしていたからである。軍団の一般兵士の気分は一変し、五月二十六日から軍団部隊とソヴィエト部隊との個々の衝突は、反乱へと拡大していった。チェコスロヴアキア軍はほとんど抵抗にあわず、シベリアとウラルの主要都市とヴォルガ地方のかなりの部分を占拠した。この地域全部のソヴィエト権力は打倒され、軍事コミッサールとボリシェヴィキ党の指導者は銃殺された。（Ｐ．１０６）
ただ、その２６日前の４月２９日、レーニンらは、全ロシア中央執行委員会において、自らが８０％・９０００万農民にたいする内戦を仕掛ける戦争開始宣言をしていた。それ以後、内戦は、(１)レーニンが仕掛けた農民との内戦、(２)チェコ軍団の反乱による内戦、(３)白衛軍との内戦という３種類が重なる複雑な内戦期間に突入した。
もちろん、レーニンらは、公認ロシア革命史から、(１)(２)を完璧に隠蔽・抹殺した。そして、(３)白衛軍との「内戦」史のみの記述とし、歴史の偽造歪曲をした。彼らは、その偽造歪曲をした内戦史によって、全世界を騙した。ソ連崩壊前における学者のロシア・ソ連史も、この『第３部』に載せたような(１)(２)データを具体的に書いた研究書はまるでない。
４、８０％・９０００万農民にたいし、レーニンが仕掛けた内戦経過
１、１９１８年４月２９日、レーニン・トロツキーらは、全ロシア中央執行委員会において、(１)穀物の強制確保のために、８０％・９０００万農民にたいする内戦を仕掛けること、(２)農村における階級闘争を開始し、都市に続いて、農村を社会主義化する内戦を始めることを決定した。
２、５月１３日、食糧独裁令を公布した。その目的は、(１)食糧人民委員部の中央集権化と、(２)農民から余剰穀物を没収することにあった。
３、６月１１日、貧農委員会の設置を、全ロシア中央執行委員会が決定した。活動の中心は、農民でなく、都市から派遣された共産党員や労働者だった。１１月には、１２２０００の貧農委員会が組織された。しかし、土地革命による総割り替え制によって、ミール内の農民から、(１)富農(クラーク)だけでなく、(２)貧農もいなくなっていた。全員が(３)中農になっていたからである。レーニンの空想的な外部注入理論に基づく、貧農のいない貧農委員会は、農民の抵抗を受け、全土で反乱が勃発した。その結果、貧農委員会システムは、７カ月間で崩壊した。
４、１９１９年１月１１日、穀物の割当徴発制の法令を出した。飢餓がますます深刻化してきた。貧農委員会に代わって、(１)食糧人民委員部の武装した食糧徴発軍、(２)赤軍、(３)秘密政治警察チェーカーが一体となって、暴力で、農民から余剰穀物を没収することを開始した。これは、まさに、レーニンが８０％・９０００万農民に仕掛けた内戦となった。全農民が、それにたいし、ソ連全土で、抵抗・反乱で応えた。
５、１９２１年３月「ネップ」まで、その内戦は、５月１３日食糧独裁令以降、約２年１０カ月間続いた。レーニンは、その誤った政策によって、(１)土地革命農民数十万人を殺害した。それだけでなく、(２)ソ連農業そのものをも破壊した。その結果、(３)１９２１・２２年にかけて、約５００万人を餓死させた。反乱規模と殺人データは、下記に載せる。
５、土地革命農民にたいするボリシェヴィキの敵意・蔑視と内戦体制
Ｈ・カレール＝ダンコースは、『レーニンとは何だったか』(藤原書店、原著１９９８年)において、農民にたいする敵意・軽蔑とボリシェヴィキが仕掛けた内戦体制を、次のように検証した。それを引用する。
一九一八年、政府内に食糧調達委員会（ナルコムプロード）が設置され、トロツキーがその責任者となった。彼は一九二一年末までその地位に留まる。軍事人民委員と食糧調達人民委員という二つの職務を、彼が兼任した。それは、約３年半の農村情勢を良く物語っている。それは、農民層との関係が、暴力的対立の見通しの下にあったということを意味した。
たとえ、白衛軍との「内戦」状況下だとしても、ボリシェヴィキが農民に対して根本的に敵意を抱いていることは、隠しようがなかった。ボリシェヴィキは、農民の意識が土地所有の本能（ソープストヴェンニチェストヴォ）、ならびに資本主義的傾向に支配されていて如何ともしがたいと考え、農民社会に対して宣戦布告をした。
農民にたいする内戦の道具は、一九一八年に実効的権力を与えられた(１)貧農委員会（コムベド）であり、また(２)食糧調達軍（プロダルーミヤ）である。その創設と任務は、一九一八年五月と七月の一連の布告によって決定された。さらに、(３)労働者の食糧調達旅団もあった。これを見れば、早くも一九一八年から、農民層が、力ずくで生産物を強奪するための諸機関のネット・ワークにどれほど包囲されていたかが分かる。
そのうえコムベドは、農民たちに近すぎ、それゆえに十分に統制できないと判断され、一九一八年末には廃止された。農民との内戦の道具は、(４)労働者分遣隊、とりわけ(５)軍の分遣隊に、したがって、(６)最終的には軍になった(Ｐ．５３８～５３９)。
３、食糧独裁令実施という革命農民への第３次クーデター
〔小目次〕
２、土地公約を裏切り、土地革命にたいする一種の反革命クーデター
３、反革命クーデターにおけるレーニンの詭弁テクニックとその犯罪性
１、戦争終結・平和公約を裏切る内戦開始のクーデター路線
レーニン、トロツキー、スヴェルドロフ、政治局全員が、「村に内戦の火をつける」ための食糧独裁令を仕掛けたのは、どういう性質を持つのか。それは、１９１８年５月時点のボリシェヴィキ党員４０万人という「農民への内戦開始」軍と、９０００万農民・全他党派の「市場経済回復・実現」軍との内戦になった。内戦開始軍は、党員だけでなく、チェーカー２８万人、赤軍５５０万(１９２０年)という国家暴力装置、３００万プロレタリアートを擁し、赤色テロルを行いつつ、余剰穀物収奪の戦争を先に展開した。市場経済回復・実現の抵抗・反乱軍は、土地革命を自力で成し遂げた農民とともに、エスエル・左翼エスエル・メンシェビキ・アナキストという全他党派が参加した。
それは、(１)労働者３％・３００万人が、８０％・９０００万農民に仕掛けた内戦、(２)都市が農村に仕掛けた内戦の性格も帯びた。それは、他党派にとって、レーニンによる第３次クーデターだった。食糧独裁令内容とその後の詳細は、『農民』ファイルで書いた。
『「反乱」農民への「裁判なし射殺」「毒ガス使用」指令と「労農同盟」論の虚実』
たしかに、レーニンは、「土地・平和・パン」「憲法制定議会選挙」という４公約の内、戦争の終結・平和公約を、１９１８年３月３日、ブレスト講和条約によって実行した。ところが、その平和も束の間、そのわずか２カ月後の４月２９日、平和公約とは逆の８０％・９０００万農民にたいする内戦開始路線・政策を選択した。その逆旋回によって、労兵農ソヴィエトや全国民の期待を裏切った。それを契機に、ボリシェヴィキ支持率が急落し始めた。それは、国民の期待が、政権発足後わずか半年間で、幻滅と怒りに転化したからである。
２、土地公約を裏切り、土地革命にたいする一種の反革命クーデター
二月革命後、ケレンスキー臨時政府は、(１)政府による穀物専売制を決定した。(２)、１９１７年３月から始まった農民による地主・貴族個人所有の土地収奪革命に反対し、軍隊で鎮圧しようとした。それにもかかわらず、ロシア全土で、全農民が壮大な土地革命に決起した。
レーニンは、４月帰国後、５月のロシア全農民大会に参加し、農民の土地革命運動を支持する演説をした。１０月２５日、第２回ソヴィエト大会において、『土地に関する布告』を報告し、決定させた。レーニン執筆の内容は、エスエルの土地政策を１００％剽窃したものだった。剽窃という真相は、さまざまな文献において完全に証明されている。そこには、「没収した土地は、共同体内で配分する」という文言によって、土地革命結果を追認していた。
レーニンの本音の一つは、土地の国有化だった。しかし、彼が成立させたのは、ボリシェヴィキ部隊数千人による単独武装蜂起・単独権力奪取のクーデター政権だった。その少数派権力は、レーニン・トロツキーが熱望したドイツ革命が勃発・成功するまでの期間、土地革命中の農民の支持なしには、持ちこたえることができなかった。彼は、やむなく、エスエル政策どおりに、没収した土地の社会的所有、ミール共同体内部での総割り替え制を追認せざるをえなかった。
土地革命農民は、クーデター政府が、エスエル政策をそのまま剽窃し、自分たちの土地革命を追認したことに満足した。その表面的な連携関係は、５月１３日食糧独裁令発令まで、６カ月間続いた。よって、この支持関係は、レーニンが言う「社会主義を支持する労農同盟の成立」というレベルではない。ところが、レーニンが隠蔽した本音は、農民・農村の社会主義化だった。そこには、資本主義市場経済廃絶を目指し、無貨幣の交換経済という空想的計画も展望されていた。
左翼エスエルは、ブレスト講和条約に反対し、連立政権から、３カ月間だけで離脱した。レーニンの政府は、１９１８年３月３日以降、一党独裁政権に戻った。それは、ツアーリ帝政・臨時政府から続いた飢餓という負の遺産を受け継いでいた。「土地・平和・パン」「憲法制定議会選挙」というレーニンの４公約にたいし、パン＝飢餓の解決問題は、クーデター後、さらに深刻化していた。レーニンは、臨時政府の穀物専売制をなお継承し、土地革命農民の要求を拒絶していた。
土地革命農民の要求は、２つあった。〔第１要求〕は、地主・貴族個人所有の土地を没収し、共同体所有による総割り替え制という土地革命を成し遂げる。〔第２要求〕は、穀物専売制を撤廃する。そして、政府に一定の現物税を納めるにしても、穀物家畜の自由商業、市場経済の回復・実現をすることだった。その要求レベルは、１９２１年３月の「ネップ」とまったく同じ内容だった。１９１８年５月までは、〔第１要求〕の遂行過程だった。同時に、クーデター政府にたいし、〔第２要求〕を突きつけていた。
ロイ・メドヴェージェフは、１９１８年５月時点において、「ネップ」を採用できる執行可能な〔選択肢〕が現実に存在していたというデータを論証した。それを選択していれば、ソ連全土における内戦は起きなかったとの〔選択肢的方法〕を主張している。そして、それを選択しなかったレーニンの急進主義を批判した。そこから、食糧独裁令こそが、内戦の第２主要原因になったと結論づけた。
彼が批判する急進主義とは、食糧独裁令の誤りだけでなく、レーニンが行ったほとんどの路線・政策の誤りの性質である。レーニンが、最高権力者５年２カ月間において、強行した(１)憲法制定議会の武力解散、(２)食糧独裁令、(３)ソヴィエトから他党派追放など急速に社会主義化を進めようとした全路線は、当時のソ連の現実にそぐわない急進主義的な誤りだったという意味である。それを遂行するボリシェヴィキ側の主体的条件がなかった。それだけでなく、有権者９０００万人や国民の側にも、その急進的な社会主義化路線を受け入れる客観的条件もなかったと規定した。それらレーニンの急進主義的な誤りによって、二月革命以来のロシア革命は、１９２１年３月第１０回大会で終焉を迎えたとの結論を出した。
ロイ・メドヴェージェフ『１９１７年のロシア革命』札幌での講演－急進主義
レーニンは、パンの公約＝飢餓を解決する意図だけなら、１９１８年５月に「ネップ」を採用できたであろう。しかし、ボリシェヴィキ部隊数千人のクーデターで勝ち取ったのは、ペトログラード・モスクワなど都市における一党独裁権力だけだった。彼は、広大な農村と８０％・９０００万農民を、急進的に社会主義化しつくす幻想的計画に固執していた。土地革命農民の〔第２要求〕を認めることは、資本主義市場経済への逆行を意味したからである。
食糧独裁令に基づく、(１)貧農のいない貧農委員会という空想的構想は、７カ月間で崩壊した。すると、レーニンは、(２)軍事割当徴発という暴力による穀物家畜収奪路線、(３)それに抵抗・反乱する農民の大量殺人犯罪路線強行に逆旋回した。彼は、１９２０・２１年、９０００万農民・３００万労働者・数十万兵士の総反乱という一党独裁政権崩壊の危機に直面した。さらに食糧独裁令によるソ連農業の破壊・破綻という二重の危機に直面するまで、〔第２要求〕を拒絶し続けた。
土地革命農民は、総割り替え制によって、穀物家畜の自力生産を始めていた。その過程において、レーニンは、第一、農民にたいする内戦開始路線という平和公約の裏切りに転換した。さらに、第二、貧農委員会→軍事割当徴発という暴力による穀物収奪路線という土地公約の裏切りに転換した。それらの逆旋回は、貨幣価値が激落したクーデター政府乱造紙幣を渡すだけで、農業器具の生産も追いつかないままで、土地革命の成果・生産物を根こそぎ収奪する暴力路線だった。
それは、まさに、８０％・９０００万農民による土地革命を実質的に否定する一種の反革命クーデターの性格を持った。これこそ、レーニンらが強行した農民ソヴィエトから権力を簒奪する第３次クーデターとなった。
もちろん、土地革命は、８０％・９０００万農民が総決起した壮大な民主主義革命という性質である。それは、レーニンが空想した社会主義的農村革命と異なる。レーニン神話から見れば、食糧独裁令は、正しい社会主義農村革命路線であり、農民反乱の方こそが「反革命」というレッテルになる。ソ連崩壊後も、その神話をなお信仰する左翼がいるだろうか。
梶川伸一は、４冊の著書において、レーニンら政治局全員が、農民・農村・農業についてまるで無知だったことを論証した。その上、彼らは、プロレタリアートの絶対的優位性への固執から、小ブル農民への抜きがたい敵視・蔑視にとらわれていたと分析した。そして、レーニンの空想を、８０％・９０００万農民、２０００万農家を急速に集団化し、都市の工場なみに、ソ連の全農村を「穀物生産工場」化することだったと規定した。
梶川伸一『レーニンの農業・農民理論をいかに評価するか』「穀物生産工場」化
３、反革命クーデターにおけるレーニンの詭弁テクニックとその犯罪性
土地革命にたいする反革命クーデターを遂行するにあたって、レーニンはさまざまな詭弁を使っている。憲法制定議会の武力解散においても、『第２部』で中野徹三が分析したように、４つの詭弁を使った。また、１９１８年４月２９日全ロシア中央執行委員会の発言でも、２種類の詭弁を用いて、土地革命農民にたいする内戦開始を正当化した。他の基本的な詭弁テクニックを４つ検証する。
〔小目次〕
〔詭弁１〕、農民層にたいする観念的な階級分化論の持ち込み
〔詭弁２〕、飢餓の原因を、富農の余剰穀物隠匿にすり替え
〔詭弁３〕、農民反乱を、富農(クラーク＝農村ブルジョアジー)反乱にすり替え
〔詭弁４〕、クラーク反乱は反革命と断定。農民反乱と白衛軍を同列視し、「人民の敵」大量殺害を合法化・正当化
〔詭弁１〕、農民層にたいする観念的な階級分化論の持ち込み
１９０６年からのストルイピン土地改革は、ミール共同体から離脱・個人所有農民発生を奨励した。１９１７年二月革命までの１１年間で、資本主義的農業経営や富農も発生していた。しかし、１９１７年３月からの土地革命は、地主・貴族だけでなく、富農の個人所有地も没収した。各共同体が、没収した土地を、家族単位で平等・均等配分した総割り替え制によって、１９１８年５月１３日食糧独裁令前までには、８０％・９０００万農民内に、富農・中農・貧農の区別はなくなっていた。農民の変化実態を熟知している左翼エスエルは、土地革命による農民層を均等な「勤労農民」とした。
レーニンは、その実態を知らなかったのか。彼は、１９１７年４月スイスから帰国の１カ月後、５月の全ロシア農民大会に出席し、勃発していた土地革命を支持する演説をしている。１０月２５日第２回ソヴィエト大会で、エスエル政策を剽窃した『土地に関する布告』を執筆・報告した。彼は、土地革命の進展を熟知していた。
ところが、レーニンは、食糧独裁令執行にあたって、農民にたいする内戦開始・農村の社会主義化と、穀物収奪路線強行をする名目に困った。彼のそれまでの階級分類は、ツアーリ帝政の貴族・地主、資本主義ブルジョアジー、労働者、農民、他小ブルだった。均等な「共同体農民」では、農村における内戦開始を仕掛ける口実に欠ける。そこで、レーニン・スヴェルドロフらは、二月革命以前に存在したが、土地革命後に存在しなくなった富農(クラーク)・中農・貧農という観念的な階級分化論を唱え始めた。その口実なら、富農にたいする貧農の階級闘争ということで、土地革命農民全体に仕掛ける内戦を合法化・正当化できたからである。
〔詭弁２〕、飢餓の原因を、富農の余剰穀物隠匿にすり替え
飢餓は、ツアーリ帝政・臨時政府からの負の遺産ではあった。しかし、穀物専売制を放棄しようとしないクーデター政府の誤った政策は、飢餓をますます深刻化させた。梶川伸一は、『飢餓の革命』を含む４著書において、(１)飢餓の実相、(２)レーニン路線によるソ連農業の破壊・破綻、(３)その結果である１９２１・２２年の５００万人餓死までの実態を発掘・描写した。
ロイ・メドヴェージェフが提起した〔ロシア革命史研究の選択肢的方法〕のように、１９１８年５月時点、レーニンが食糧独裁令でなく、「ネップ」路線を選択していれば、パンの公約＝飢餓の解決をできていたかもしれない。その選択可能性は十分あった。しかし、レーニンは、人口１億１２５０万人・有権者９０００万人の胃袋よりも、農村の社会主義化路線を優先させる路線を選択した。クーデター政府にたいする都市労働者・勤労市民と農民の不満が、パン問題をめぐって爆発寸前にまで高まった。飢餓のため、食糧を求めて、多数の都市住民・労働者が、つてを頼り農村に脱出した。
そこで、レーニンは、飢餓の解決と農村の社会主義化路線とのいずれをも推進できる一石二鳥の詭弁を創作した。飢餓は、富農(クラーク)が余剰穀物を隠匿していることが原因であるとし、その大キャンペーンを展開した。その詭弁に基づいて、余剰穀物徴発と農村における階級闘争のための具体的作戦を開始した。
第１作戦、地方の食糧委員会・地方ソヴィエトの権限を制限・剥奪し、中央の食糧人民委員部の中央集権的独裁体制を確立する。
第２作戦、都市労働者による武装した食糧徴発部隊を編成する。その武装部隊を農村に派遣し、富農(クラーク)が隠匿している余剰穀物を徴発しつくす。
第３作戦、すべての農村共同体に、貧農委員会を立ち上げる。貧農がいなければ、都市労働者・ボリシェヴィキ党員を派遣し設立する。貧農委員会は、村スホード(村会)や農民ソヴィエトの権限を制限・剥奪し、それに成り代わる。それを、クーデター政府の指令がストレートに伝わる農村における末端権力機関にする。その任務は、末端権力機関として、(１)富農(クラーク)の余剰穀物を収奪しつくすこと、(２)農村における富農打倒の階級闘争を遂行し、農村・農民を社会主義化することとした。
〔詭弁３〕、農民反乱を、富農(クラーク＝農村ブルジョアジー)反乱にすり替え
そもそも、土地革命によって、８０％・９０００万農民中に、富農・貧農はいなくなっていた。あえて言えば、均等な共同体農民とは、中農である。レーニンの富農・中農・貧農分類は、観念上の虚構であり、架空の存在だった。レーニン命令により、都市からの落下傘武装部隊として農村に降り立った労働者・ボリシェヴィキ党員からなる貧農委員たちは、農業・農村・農民の実態や農民の意識・要求をまるで分かっていなかった。しかも、レーニンの一面的な階級闘争至上主義理論、誤ったプロレタリア独裁理論により、小ブル農民への蔑視・敵意を刷り込まれていた。
レーニンは、１９１８年１１月までに、１２２０００の貧農委員会をでっち上げた。富農・貧農ともいないため、貧農委員会が暴力で遂行した余剰穀物収奪作戦にたいし、共同体農民＝中農全員が抵抗・反乱で応えた。レーニンは、架空の階級分化論に基づき、これらの作戦遂行を指令し続けた。しかし、その分類基準を何一つ示していない。梶川伸一の研究によれば、レーニンは余剰穀物の存否・多少で分けているだけである。それなら、余剰穀物とは何か。
土地革命農民との内戦の中心争奪物は、極限状態になった飢餓を克服するための余剰穀物だった。農民は、現金収入の道を、直接持たない。ただ、１９１７年時点、都市労働者の約３０％が、都市近郊農村に耕地を持っていたとの統計がある。人口の１０．４％の労働者×３０％＝３．４％である。その層だけが、現金収入(現物支給)＋耕地を持っていたにすぎない。２０００万農家は、春まき作物、秋まき作物を栽培し、家畜を飼育する。
農民は、収穫した穀物・家畜を次のように使う。(１)春・秋２回の収穫物からの家族１年分の食糧、(２)次年度の春まき種子、秋まき種子の保存、(３)凶作・飢饉時の予備食糧、(４)鋤、家畜用具、釘など農業用工業製品購入のための商業販売向の穀物・家畜、(５)砂糖・塩など生活必需品購入のための販売向の穀物・家畜、（６）生活向上のための多少の販売向予備穀物・家畜などである。生活維持のためには、（１）から（５）は、絶対必要物だった。余剰穀物といえば、（６）しかない。
そこでの９０００万農民・２０００万農家の第２要求は、臨時政府以来の穀物専売制を撤廃し、１０％程度の現物税と穀物・家畜の自由商業承認に政策転換することだった。それが、農民にとっての「パン」の要求だった。市場経済承認になれば、（４）（５）（６）が自由商業ルートでスムーズに流通する。また、農民も、１０％現物税程度なら抵抗なく、収められる。レーニンは、３年間にわたる市場経済廃絶の内戦に事実上敗北し、一党独裁政権崩壊の危機に直面した。彼は、やむなく、１９２１年３月、一時的戦術的後退としての「ネップ（新経済政策）」を採った。３年後の自由商業承認転換により、余剰穀物がスムーズに出回るようになった。
架空の富農・貧農存在理論に基づくに貧農委員会は、中農＝共同体農民全員が抵抗・反乱する嵐に出会って、７カ月間で崩壊した。飢餓はますます深刻になった。レーニンは、１９１８年１１月貧農委員会システムの崩壊・廃止に追い込まれ、農村内部における階級闘争を諦めた。彼は、食糧独裁令の第２手段として、農村・農民外部から余剰穀物収奪をする軍事割当徴発路線に大転換した。その武装部隊は、(１)食糧人民委員部の食糧徴発武装部隊、(２)赤軍、(３)秘密政治警察チェーカー２８万人である。
レーニンは、富農・貧農などいない事実を認識せざるをえず、余剰穀物収奪の対象を、中農＝共同体農民全員に設定し直した。クーデター政府・都市・労働者からの３種類共同の武装部隊が、土地革命の８０％・９０００万農民に襲い掛かり、余剰穀物を収奪した。
(１)から(６)の余剰穀物を根こそぎ収奪する暴力作戦にたいし、８０％・９０００万農民が、それをレーニンが仕掛けた土地革命にたいする実質的な反革命クーデターととらえたのは当然だった。ソ連全土で、土地革命農民の反乱が勃発した。
レーニンは、余剰穀物収奪対象を中農＝共同体農民全員に切り替えたが、富農(クラーク)というレッテルだけは恣意的に残した。そして、彼は、中農＝共同体農民全員の反乱を、クラークの反乱だとすり替える詐術を使った。
〔詭弁４〕、クラーク反乱は反革命と断定。農民反乱と白衛軍を同列視し、「人民の敵」大量殺害を合法化・正当化
富農とクラークとは同義語である。ただ、クラークとなると、農村ブルジョアジー＝農業資本家という意味合いが濃くなる。レーニンは、農民反乱すべてを、「クラーク反乱」とでっち上げる詭弁を使った。ソ連全土における土地革命農民の反乱を、一部の農村ブルジョアジーが仕組んだ反乱にすり替えることができれば、労働者・都市住民の受け留めはどうなるのか。
レーニンは、それよって、飢餓にあえぐ国民の怒り・憎悪の対象を、クーデター政府から、８０％・９０００万農民に転換させた。「クラーク反乱」という詭弁レッテルなら、すべての土地革命農民の反乱を「反革命」とすり替える詭弁も、国民に受け入れさせることが可能になる。さらには、農民反乱と白衛軍とを恣意的に同列視し、それらを同一の「反革命勢力との内戦」という概念にひっくるめた。
反革命勢力というレッテル貼りと国民欺瞞に成功すれば、白衛軍とともに、反乱農民全員も、「人民の敵」として国民の怒りと憎悪の対象に転化できる。レーニンは、憲法制定議会開会日前、「すべての権力を憲法制定議会へ」とのスローガンでデモをしただけのカデットにたいし、早くも、「人民の敵」というレッテルを貼って、中央委員全員を逮捕している。「人民の敵」レッテルは、スターリンからでなく、レーニンが最初に使い、法律にも明記させた。
(１)農民反乱を反革命とすり替え、(２)８０％・９０００万反乱農民を「人民の敵」とすり替えれば、(３)抵抗・反乱農民の大量殺害指令を合法化・正当化できることになった。(４)その結果、レーニンは、下記のような大量殺人犯罪指令を連発した。(５)そして、３種類の大量殺人部隊を反乱農村に投入し、下記(表)のように、正当な要求を掲げた、無実の抵抗・反乱農民数十万人を殺害した。
レーニンは、まさしく詭弁の天才と言えよう。少数派で、支持率急落のクーデター権力を維持・強化する目的のためには、このような詭弁・二枚舌という手段を駆使することにためらわなかった。彼は、目的のためには、手段を選ばない最高権力者に変身した、または、変身せざるをえなかった。
私(宮地)は、この『第３部』において、ボリシェヴィキの農業・農民政策や詭弁をすべてレーニン個人の提案と責任と書いている。それにたいし、批判・異論を抱く人も多いと思われる。しかし、それについては、根拠がある。梶川伸一は、カリーニンの回顧を挙げている(『レーニンの農業・農民理論をいかに評価するか』)。
第一に、革命後の様々な政策立案過程で、レーニンは、ほかのボリシェヴィキ指導者に対してきわめて大きな影響力を持ったからであり（彼の提案が覆されることはなかった）。
第二に、彼はロシアの現実を完全に知悉できる立場にあり、その上で彼は具体的な指示を与えたのであった。農民の父と呼ばれた全ロシア・ソヴェト中央執行委議長カリーニンはこのことについて適切にも、「ソヴェトの農民政策の１０分の９はレーニンに負っている」と回顧しているように、これらの政策の殆どにレーニンの主張が反映されているのだから(Ｐ．２０)。
４、革命農民の対ボリシェヴィキ抵抗・反乱とその性質
〔小目次〕
１、土地革命農民の反乱、チェコ軍団の反乱、白衛軍との内戦の峻別 (表３)
２、土地革命農民の対ボリシェヴィキ抵抗・反乱データ (表４，５)
１、土地革命農民の反乱、チェコ軍団の反乱、白衛軍との「内戦」の峻別
私(宮地)の用語法は、このファイル〔目次２〕冒頭にかいたように、(１)土地革命農民＝第３次クーデターへの反乱、(２)チェコ軍団＝トロツキーの誤った武装解除命令への反乱、(３)白衛軍＝「 」付きの「内戦」である。しかし、引用文によって、それらを内戦という同一用語を使う箇所もある。
この関係については、時系列の違いと、要求の違いの両面を見る必要がある。レーニンや公認ロシア革命史は、これら３つを恣意的に混同・同一視させた。それだけでなく、土地革命農民にたいして、レーニン・ボリシェヴィキ側から仕掛けた内戦実態を隠蔽・抹殺し、３つのすべてを、白衛軍・外国軍事干渉軍との内戦にすり替え、ロシア革命史の偽造歪曲をしてきた。その手口については、『ソ連邦共産党史２』を見れば、よく分かる。それは、(１)土地革命農民の反乱、(２)チェコ軍団の反乱に関する記述を一つもしないで、ロシア革命史から完全に抹殺している。公認党史が、歴史をいかに歪曲・隠蔽するかの見本である。
TAMO2『ソ連邦共産党史２』１９１７年～第９章、外国の軍事干渉と内戦の時期における党
ロシア全土→ソ連全土で決起した８０％・９０００万農民の土地革命によって、すべての土地がミール共同体の社会的所有になった。共同体における土地は、総割り替え制により、家族単位で平等・均等配分された。
それによって、土地革命以前には存在した富農(クラーク)・中農・貧農という区別はなくなった。１９１８年５月１３日食糧独裁令発令までには、富農(クラーク)も貧農も、ソ連全土でいなくなったというのが、土地所有形態・農民分類の現実となった。レーニンらボリシェヴィキ指導者たちは、その実態を知りつつも、(表１)のような発言をした。そして、(１)飢餓解決としての食糧収奪、(２)農村における階級闘争、農村の社会主義化という９０００万農民にたいする内戦目的のために、「富農(クラーク)・中農・貧農」という土地革命以前の農民分類法をでっち上げた。
レーニンは、１９１８年４月２９日全露執行委員会において、上記(表１)の発言をした。「我々プロレタリアが、地主と資本家を打倒することが問題になった時、小地主と小有産階級はたしかに我々の側にいた。しかしいまや我々の道は違う。小地主は組織を恐れ、規律を恐れている。これら小地主、小有産階級に対する容赦のない、断固たる戦いの時がきたのだ」。ここにもレーニンによる二重の詭弁・ウソがある。
〔詭弁・ウソ１〕、地主を打倒したのは、「我々プロレタリア」ではない。ボリシェヴィキやプロレタリアは、土地革命になんの関与もしていない。指導もしていない。８０％・９０００万農民だけによる自力革命の地主打倒だった。
〔詭弁・ウソ２〕、土地革命を成功させた農民は、小地主になったのではない。個人所有の地主でなく、共同体の社会的所有になった。そのシステムにおいて、平等・均等配分された土地の経営・耕作権を持っただけで、ほぼ１年毎に土地の総割り替えをした。
レーニンは、単独権力奪取クーデター後、農民問題に関して、土地革命の主体・農民反乱・農民分類法・「労農同盟の成立」などで、実にさまざまな詭弁・ウソをつき、ロシア革命史の偽造歪曲をしている。この人間性をどう考えたらいいのか。
ただ、ロイ・メドヴェージェフは、著書２冊において、富農(クラーク)・貧農層がなお存在していたかのような記述をしている。しかし、梶川伸一は、４冊の著書において、「労農同盟の成立」神話を全面否定しただけでなく、レーニンの「富農(クラーク)・中農・貧農」分類法も、恣意的な誤りと規定した。都市から派遣されたボリシェヴィキ党員と労働者だけででっち上げられた、貧農のいない貧農委員会が、７カ月間で崩壊した事実がその完全証明である。
(表３) 土地革命農民、チェコ軍団、白衛軍という３種類の峻別
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土地革命農民 |
チェコ軍団 |
白衛軍 |
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第１期、17・3～18・５ |
ロシア・ソ連全土で、８０％・９０００万農民が自力で、地主・貴族の土地収奪革命。ミール共同体による社会的所有・総割り替え制。ボリシェヴィキとの内戦なし 要求－(１)地主・貴族から収奪した土地の共同体所有 |
なし。ボリシェヴィキとの協定で、完全武装のまま、４．５万人がシベリア鉄道移動中 要求－チェコへの帰国 |
なし。国境・辺境での小規模行動 |
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第２期、18・５～20夏 |
(１)４月２９日、全露中央執行委員会は、農民・農村への内戦を仕掛けることを発言・決定→(２)５月１３日、ボリシェヴィキの食糧独裁令→(３)６月１１日、貧農委員会による穀物収奪政策への抵抗・反乱→(４)１９年１月１１日、軍事割当徴発への反乱。反乱規模は下記(表４) 要求－(１)とともに、(２)穀物家畜の自由処分権・自由商業 |
(１)５月25日、軍事人民委員トロツキーによる武装解除指令・抵抗者の銃殺命令→(２)全員虐殺と判断し、シベリア鉄道沿線で、４．５万人の総反乱→(３)沿線のボリシェヴィキ・ソヴィエト壊滅→(４)沿線で、エスエル・メンシェヴィキが憲法制定議会復活政府樹立 要求－チェコへの帰国 帰国によって、２０年春、反乱終結 |
(１)イギリス・フランス・アメリカが国境周辺で各数千人規模の軍事干渉。日本だけが７．５万人のシベリア出兵→(２) ５月25日、チェコ軍団の反乱勃発以降、４カ国の支援を受け、白衛軍の大規模軍事行動→(３)１９年末、ウラル以東のコルチャーク軍崩壊→(４)２０年夏で、白衛軍との内戦は、基本的に終結 要求－帝政復活。地主・貴族の土地回復 |
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第３期、20夏～21・3 |
赤軍・チェーカーによる暴力的な穀物家畜収奪への総反乱。レーニンらの大量殺人指令との闘争。反乱規模は下記(表５)→土地革命農民数十万人を殺害。軍事割当徴発によるソ連農業破壊 要求－(２)とともに、(３)餓死の恐怖からの反乱。２１・２２年で餓死５００万人 |
なし。 |
２０年１１月、ウランゲリ軍がクリミア半島からヨーロッパ逃亡で、白衛軍との内戦完全終結 要求－帝政復活。地主・貴族の土地回復 |
第一、時系列的に見た内戦経過
第１期には、いずれの内戦も発生していない。
第２期、５月２５日、トロツキーの武装解除・抵抗者銃殺命令にたいする、チェコ軍団４．５万人の反乱が始まった。いわゆる内戦勃発・白衛軍の大規模軍事行動は、それ以後だった。ところが、ニコラ・ヴェルト発掘・公表によって、４月２９日、レーニンら全露中央執行委員会が、８０％・９０００万農民・農村にたいする内戦開始を発言・決定していた。それは、チェコ軍団反乱の２７日も前だった。内戦を最初に開始した者と開始月日が暴露・証明された。
第３期、２０年夏以降は、反乱を続けていた土地革命農民との内戦だけである。
白衛軍との「内戦」、外国干渉軍、他との闘争地図
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内戦と干渉戦争 |
第二、要求の違いから見た内戦の性格
内戦３種類の要求は、それぞれまったく異なる。いずれも、反ボリシェヴィキの内戦だった。しかし、内戦期間が重なった第２期においても、土地革命農民と白衛軍とが、対ボリシェヴィキで連携することは一度もなかった。なぜなら、白衛軍が勝てば、農民は地主・貴族から収奪し、共同体所有にした土地を奪い返されるからである。よって、白衛軍は、国境周辺の４カ国軍事干渉軍の支援を受けたが、土地革命農民の支援をまったく受けることができなかった。むしろ、白衛軍が占領・進軍した地方では、農民は、一時的に赤軍と連携し、白衛軍とたたかった。白衛軍が敗れると、農民は、赤軍・チェーカーによる暴力的に軍事割当徴発に抵抗・反乱を再開した。
白衛軍の敗因の一つは、国内支援したのが旧地主・貴族や旧将校・帝政復活要求者という一握りの勢力だけで、８０％・９０００万の土地革命農民から拒絶され、反撃されたからである。
赤軍勝利の背景には、ボリシェヴィキ政権の厳しい徴兵・食料調達にもかかわらず、農民の白衛軍支持が思いのほか広がらなかったことがある。農民はボリシェヴィキの強硬手段に反発しつつも、貴族・地主の支配が復活することも望まなかった。
公認ロシア革命史は、赤軍の功績だけを誇張し、土地革命農民が白衛軍とたたかった側面をほとんど抹殺した。徴兵制赤軍は、公称で最大５００万人となっている。しかし、 (表４、５)のように、実態として、脱走兵・兵役忌避者が数百万人出たというデータが、ソ連崩壊後に発掘・公表された。トロツキーの証言によれば、実際の戦闘に稼動できた赤軍は、５０～６０万人だった。９０００万の土地革命農民の全員が、白衛軍と必死でたたかったという歴史的真相を隠蔽・抹殺してきたのは、レーニンによるロシア革命史の偽造歪曲の一つである。
(１)、ウクライナのマフノー農民軍５万人は、ドイツ占領軍とたたかいつつ、赤軍と連携して、デニーキン軍→ウランゲリ軍とたたかった。その前後で、赤軍ともたたかうという複雑な運動・反乱を行った。(２)、西シベリアの土地革命農民も、コルチャーク軍・日本軍の侵略にたいし、赤軍と提携して、ゲリラ闘争を遂行した。コルチャーク軍の崩壊後、農民たちは、赤軍の軍事割当徴発との闘争に総決起した。(３)、タムボフ県・ペンザ県や周辺県は、ソ連中央部の黒土地帯にあり、白衛軍の進軍地域にならなかった。よって、タムボフにおけるアントーノフの農民反乱は、最初から最後まで、ボリシェヴィキの貧農委員会→軍事割当徴発の暴力にたいする闘争だった。これら３つが、最大の農民反乱地方になった。このデータは、下記(表５)で分析した。
２、土地革命農民の対ボリシェヴィキ抵抗・反乱データ
抵抗・反乱データは、１９１８年５月１３日食糧独裁令→食糧徴発部隊・貧農委員会時点から、１９２１年３月「ネップ」まで、２年１０カ月間連続している。ただ、１９２０～２１年３月における反乱は一段と大規模になった。よって、その２年間を(表５)として区別する。兵役忌避者・赤軍脱走兵士の数も膨大で、連続している。しかし、それに関するデータ時期が、１９２０年までしかないので、(表４)に入れる。
(表４) １９１８年５月から２０年までの農民｢反乱｣、兵役忌避
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期間 |
項目 |
地域と規模 |
出典 |
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1918～20 1918 1918・6 |
「ソヴェト政権転覆の陰謀」 農民射殺 有名な暴動 農民銃殺 |
各県で続々と発覚したソビエト政権転覆の陰謀、リャザンで２件、コストロマー、ヴイシニイ・ヴォロチョク、ヴェリジで各１件、キエフ、モスクワで各数件、サラトフ、チェルニゴフ、アストラハン、セリゲル、スモレンスク、ボブルイスク、タムボフ、カヴァレリイスク、チェムバルスク、ヴェリーキエ・ルーキ、ムスチスラーヴリで各１件など 貧農委員会が村ソビエトの入口階段の陰や裏庭で片づけた人びとはどの欄に入れたらよいのか？ ヤロスラフ、ムーロム、ルイビンスク、アルザマスの暴動 コルピノでの銃殺だが、これはどんな事件なのか？ どんな人びとが殺されたのか？ |
『収容所群島』 （P.41） |
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1918 |
農民蜂起 |
17年の農民運動の先頭に立っていたトゥーラ、ヤロスラヴリ、タムボフ、オリョール、ニジェゴロド、リャザニ、クルスク、ペンザ、ヴィヤトカ諸県をはじめとする18年の大規模な農民蜂起 それらの県で54件の農民反乱 |
長尾久『ロシア十月革命の研究』、『飢餓の革命』所収 |
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1918夏 1921・3～ |
徴兵制 動員解除 |
18年夏に徴兵制。赤軍は4月15万人、9月55万人、20年末550万人。21年3月ブレスト条約後の動員解除で250万人が帰村 |
『ロシア・ソ連を知る事典』 |
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1919・3 |
コサック反乱 |
「コサック絶滅赤色テロル」指令への反乱。メドヴェージェフ「この指令は、極めてひどい誤りであるばかりではなく、ロシアと革命にたいする犯罪行為であった」 ドン・コサック15000人、クバンとテレク・コサック35000人が決起。「赤いコサック(革命派)」も、全員が「反赤軍」に転化、白衛軍と連携。 |
『1917年のロシア革命』（P.121） 植田樹『コサックのロシア』（P.188） |
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1919前半 |
農民反乱 |
クルスク県で106件、ヴォロネジ県で101件、オリョール県で31件の農民反乱を確認。報告では、反革命的原因が72件、動員が51件、兵役忌避が35件、徴発が34件 |
『飢餓の革命』 （P.31） |
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1919 |
兵役忌避 |
兵役忌避とは、徴兵逃れと脱走兵とを含む。19年中の兵役忌避者は、徴兵逃れ91.7万人と脱走兵176.1万人。合計267.8万人。20年も同じとして計算すると、2年間で535万人。脱走兵には、捕獲作戦と処罰通告・家族人質政策による脱走後の帰還兵も含む |
『飢餓の革命』 （P.14）、『ﾚｰﾆﾝの秘密』 |
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1920 |
兵役忌避 |
20年3月、クルスク県チェー・カーは、兵役忌避は増加している、現在まで約6000人を捕獲したが、県にはまだ約1万から15000人が捕獲されずにいる、それとの闘争はまったく不可能であると報告 チェリャビンスク県の20年末までの活動総括。19年11～12月で2242人、20年4月に4230人、9月に1692人が捕獲された。この闘争で次第に抑圧的措置が頻繁に適用されるようになり、20年8月までは財産没収は60件。それ以後の3カ月間で404件の没収が行われた。 |
『飢餓の革命』 （P.14） 『飢餓の革命』 （P.16） |
これらは内戦期間中のデータである。その期間には、「白衛軍と赤軍との戦争」と「農民反乱とチェーカー・赤軍との戦闘」とが混在していた。その分別が難しいが、上記データは、内戦から区別して、農民「反乱」だけを取り出したものである。
(表５) １９２０、２１年の農民｢反乱｣と規模
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期間 |
名称 |
地域 |
規模と内容 |
出典 |
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1920～21.8 |
マフノー農民軍 |
ウクライナからドン川流域 |
5万人。ドイツ占領軍や白衛軍と戦闘。デニーキン軍の後方部隊を殲滅。赤軍と「政治・軍事協定」を結び、赤軍を助けてウランゲリ将軍を壊滅させた。 その後、「食糧独裁令」撤廃を要求。レーニン指令により司令官フルンゼは、農民軍を「ソヴェト共和国と革命の敵」と宣言し、武装解除を命令。農民軍はそれを拒否して赤軍と戦闘。対マフノー鎮圧部隊の歩兵・騎兵数万人を派遣。双方に数万人ずつの死者を出す激戦で武力鎮圧 |
『1917年のロシア革命』（P.126） 『ロシア・ソ連を知る事典』 『ロシア史(新版)』 |
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1920～21・2 |
西シベリアの反乱 |
西シベリアの5地方、8県、14郡 |
4万人～6万人、数百の組織。20.10、ウファー県ウイスコエ地区1000人集結、うち800人が武装し、執行委議長、民警隊長、地区食糧全権を殺害。オレンブルグ県24000人の反乱で「コムニスト打倒」「憲法議会万歳」のスローガン。21.2の反乱、シベリア鉄道の主要な駅すべてを占拠、３週間にわたり鉄道交通麻痺、8県14郡でボリシェヴィキ権力麻痺 |
『クロンシュタット1921』 『1917年のロシア革命』（P.121） |
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1920・8～21・6 |
アントーノフの反乱(タムボフの反乱) |
タムボフ県と他4県 |
5万人。300の「反乱」農民組織。8月決起、10月｢反乱｣農民3000人、21年2月5万人。20.9、「反乱」農民は、戦闘で赤軍2個中隊を武装解除し、ライフル銃400丁、機関銃４丁を奪う。21.1、タムボフ連隊は、赤軍から武器を奪い、各連隊がそれぞれ機関銃12丁を持つ。100人から150人からなる6個の騎兵中隊。パルチザンは、ライフル銃で武装し、各人45発の実弾を携行。21.2までに、キルサノフ郡では、党員の約半分がアントーノフ側に寝返り |
『ボリシェヴィキ権力とロシア農民』 |
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1920・2 |
人民農民軍 |
ウファー、カザン、サマラ県の6郡 |
「軍事＝割当徴発」への不満による反乱。当初4000人。参加者40万人。西部方面軍を派遣し、戒厳令をひき、武力鎮圧。3.30、ウファー県での戒厳令解除 |
『同上』 |
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1920・10 |
凶作下での徴発への反乱 |
ヴォロネジ県 |
凶作に直面し、それでも「軍事＝割当徴発」強行への不満が爆発。騎兵5000人からなる農民部隊の決起 |
『同上』 |
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1920・11～21・3 1920秋～21春 |
総計 総計 |
全土 全土 |
チェーカーは、118件の農民一揆を報告 反乱数は数百件。鉄道にたいする攻撃と事故数千件 |
『クロンシュタット1921』（P.14） 『1917年のロシア革命』（P.126） |
この時期の農民反乱は、すべて、白衛軍との関係を持たない。内戦の基本的終結を待って、軍事＝割当徴発制への不満、反対が爆発したものである。かつ、その撤回と穀物の自由処分＝自由商業を求めた、チェーカー・赤軍の穀物徴発暴力にたいする武装要求行動だった。過酷な軍事＝割当徴発により、餓死寸前に追いこまれた段階での、死に物狂いの決起だった。２１・２２年における５００万人の飢饉死亡者がその極限状況を証明している。
第一、公認の内戦原因説の一つ－外国の軍事干渉の規模と影響度
公認の内戦原因説の一つが、外国の軍事干渉である。その規模と内戦への影響力を検討する。
１９１８年３月９日、英仏対ソ武力干渉軍がムルマンスクに上陸した。それは、ヨーロッパからの地続きとなる西部戦線で為されている。
７月末、英仏軍１５０００人がアルハンゲリスクに上陸した。８月２日、英仏軍は、白衛軍による北ロシア臨時政府を擁立した。
８月１２日、日本軍とアメリカ軍は、チェコ軍団救出の名目で、シベリアに上陸した。アメリカ７０００人にたいし、日本は７５０００人をシベリアと北満に展開した。
倉持俊一は、『ソ連現代史』(山川出版社、１９８０年)において、外国の軍事干渉の目的・性質と内戦への影響力を、次のように分析している。
しかし、これらイギリス・フランス・日本・アメリカの干渉の規模は、実際にはそれほど大きもものではなかった。(１)、ウクライナに上陸したフランス軍は、ほとんど戦闘することもなく、四カ月ほどで撤退した。(２)、北ロシアのアルハンゲリスクとムルマンスクに上陸したイギリス軍も、国内戦で大きな役割をはたすこともなく一九一九年秋には撤退した。(３)、もっとも影響力をもったのは日本軍で、七万以上の軍隊を一九一八年から一九二五年までソ連領に駐留させたのである。
本格的に大軍を送る干渉は、これらの諸国にとって不可能であった。ドイツとの戦争が終わって、とくにイギリスやフランスでは国民のあいだに復員を求める声が強く、政治指導者がそれも無視しえなかったこと、またこの両国の知識人・労働者のあいだに、社会主義政権への干渉反対の空気が強かったことがその理由である。後者の例としては、一九一九年四月、黒海に派止されていたフランス艦隊の反乱があげられるであろう。
しかし、規模がいかに小さかったにせよ、国内戦における両軍のバランスを破るためには、わずかの兵力でも有効であったし、反ソヴェト軍の士気にとっても外国軍の支援は大きな影響を与えたと考えられる。いずれにせよ、ソヴェト政権にとっては、干渉軍の存在は大きな脅威であった。デニーキンのモスクワへの進撃も、ポーランド戦争における敗北も、一九二〇年のエストニア・ラトヴィア・リトアニアの独立も、連合国の援助なしには、考えられないことなのであった。このときの軍事干渉は、ソ連の政治指導者だけでなく民衆にも資本主義国の脅威を印象づけた(Ｐ．２５９)。
第二、逆説の内戦原因説の一つ－食糧独裁令・食糧徴発部隊・貧農委員会・軍事割当徴発
ロイ・メドヴェージェフは、従来から定説とされてきた公認の内戦原因説を逆転させた。(１)１９１８年１月５日憲法制定議会武力解散と並んで、(２)１９１８年５月１３日食糧独裁令の強行という２つが、内戦の主要原因と規定した。
梶川伸一は、ソ連崩壊後、膨大なアルヒーフ(公文書)発掘・検証によって、『飢餓の革命』に始まる貧農委員会の発足・実態・崩壊過程を論証した。さらに、『ボリシェヴィキ権力とロシア農民』において、軍事割当徴発における穀物家畜の暴力的収奪の実態を緻密に研究し、タムボフのアントーノフ反乱と西シベリア反乱の経過を浮き彫りにした。彼は、その結論として、「社会主義を支持する労農同盟が成立している」というレーニンの言説はウソであることを論証した。２人の論文の詳細は、別ファイルにあるので、ここでは省略する。
ロイ・メドヴェージェフ『１９１７年のロシア革命』食糧独裁の誤り
梶川伸一『飢餓の革命 ロシア十月革命と農民』貧農委員会の発足・実態・崩壊
『ボリシェヴィキ権力とロシア農民』レーニンの「労農同盟」論を否定
５、１９２１年３月第１０回党大会と「ネップ」神話の解体
１９２０夏、白衛軍との内戦は、基本的に終った。それ以後、１９１８年５月食糧独裁令の穀物家畜収奪路線は、農民反乱を全土で激化させた。それだけでなく、レーニンの誤った路線は、ソ連農業そのものを破壊した。それらは、１９２１年２・３月の労働者・兵士の総反乱へと広がった。飢餓の深刻化は、１９２１・２２年の５００万人餓死に至る危険を増大させた。
１９２１年３月８日、第１０回党大会に、レーニンは「ネップ」を提案した。それをめぐる評価が、さまざまある。レーニンは、「ネップ」НЭП、ＮＥＰ(Ｎｅｗ Economic Policy、新経済政策)によって、食糧独裁令を撤廃した。それに変わる政策として、(１)１０％の現物税、(２)余剰穀物・家畜の自由商業、（３）中小企業の国有化を解除して、資本主義的生産と商業を認めた。レーニン神話は、それらの歴史的事実をすべて隠蔽して、レーニンの独創的偉業としている。不破哲三にいたっては、中国まで出かけ、レーニンを社会主義的市場経済政策実施の先駆者とし、中国共産党をその継承者と絶賛している。それに対する私(宮地)の「ネップ」性格規定をのべる。
第一、９０００万農民の第２要求を、３年遅れで丸呑み
余剰穀物・家畜の自由処分権は、土地革命農民の一貫した第２要求だった。エスエルだけでなく、全他党派も、その政策を提起していた。これは、レーニンの自発的な政策・決断ではない。第２要求の丸呑みに追い込まれた契機は、２つある。
契機の一つは、農民・労働者・兵士などの全階層反乱、とりわけクロンシュタット反乱による政権崩壊の危機意識だった。その証拠は、第１０回大会演説のための「レーニン秘密メモ」である。P･アヴリッチが、『クロンシュタット１９２１』(Ｐ．２７１)で公表した。レーニンは、そこに、『クロンシュタットの教訓：政治学では――党内における隊列(および規律)の閉鎖、メンシェヴィキと社会革命党にたいする一層の闘争。経済学では――中産農民を可能なかぎり満足させること』と記していた。
レーニンは、１９２０年夏から１９２１年３月にかけての全階層反乱によって、一党独裁政権の崩壊危機を悟った。しかし、レーニンの権力維持・一党独裁執着度は、異様ともいえるほど高いものだった。彼は、その窮地に陥っても、一党独裁放棄・連立政権という選択肢だけは拒絶した。やむなく、「小ブルジョア生産者」９０００万人の要求を受け入れた。
第二、農業破壊・餓死発生による軍事割当徴発の実質的崩壊の結果を追認
丸呑みに追い込まれたもう一つの契機がある。レーニンには、この選択肢を採るチャンスが４回もあった。第１回は、武装蜂起・権力奪取クーデター時点である。ただ、そのときは、ドイツ軍との戦争状態を継承中という特殊条件があった。第２回、ブレスト講和条約・平和回復後の１９１８年３、４月の２カ月間である。レーニンの側に「市場経済廃絶＝無貨幣生産物交換」という机上の空論的な青写真戦略さえなければ、「ネップ」に転換できた。
第３回、貧農委員会システムのわずか７カ月間での失敗と解散時期である。すでに、転換を求める農民反乱が頻発していた。第４回、白衛軍との内戦が事実上終結した１９２０年夏である。それ以降、農民反乱は激発した。ウラル視察を終えたトロツキーや地方責任者たちが、暴力と軍事割当徴発の停止を訴えた。いずれのチャンスにも、その要求は、レーニンに届いていた。彼は、それを知りつつ、すべて拒絶した。
３年間に及ぶ現物給付・農器具交換もなしの穀物・家畜収奪は、２０００万農家の農業経営意欲を萎縮させた。その結果、農業経営を破壊した｡(１)、１９１３年以前の耕作農地の２５％が放棄された。(２)、農業生産規模を４０％以上も激減させた。(３)、農業機器はどこでも整備が行き届かず、更新されなかった。(４)、それによって、全国民を、餓死させる極限状態に追い詰めた。
軍事割当徴発路線は、それによって、全土で実質的に崩壊した。そして、８０％・９０００万農民の〔第２要求〕に基づく自然発生的な(１)１０％の現物税、(２)余剰穀物・家畜の自由商業に移行してきていた。このデータは、「ネップ」に関する新しい逆説である。それを、梶川伸一が、膨大なアルヒーフ(公文書)を調査し、『幻想の革命』において論証した。
梶川伸一『幻想の革命』十月革命からネップへ これまでのネップ「神話」を解体
１９１７年１０月２５日、レーニンは、少数派クーデター政権を維持する上で、エスエル政策を剽窃し、土地革命・共同体内分配という農民の〔第１要求〕運動を追認した。今度は、その３年半後、１９２１年３月、第１０回党大会において、彼は〔第２要求〕運動の現実を、再び追認するよう追い込まれたに過ぎない。
飢饉死亡者５００万人は、この遅すぎた選択と直接的関係がある。ただ、この恐るべき１９２１、２２年飢饉史データは、「レーニン秘密資料」の中に隠蔽されたままで、公表されていない。よって、(１)天災を主要原因とする死亡者数と、(２)意図的政策結果としての被殺害者との区別は、分かっていない。ただ、ランメルは、意図的政策による飢饉死亡者を２５０万人と推計している。梶川伸一は、下記ファイルで飢饉の実態を、アルヒーフ(公文書)から解明した。
梶川伸一『レーニン体制の評価について』２１－２２年飢饉から見えるもの
第三、レーニンにとり、屈辱的な大敗北と一時的戦術的後退
これは、戦略的転換ではない。たしかに、「ネップ」後、穀物・家畜が自由商業で出回るようになり、農民は、現物税を収めるようになった。レーニンは、その予想外の進行を見て、戦術的効果を評価する発言もしている。しかし、レーニンは、あくまで後退・退却とする観点を変更していない。なぜなら、「ネップ」とは、社会主義政権が、資本主義経済に後退する政策を、権力奪取から約３年半も経ってから、一時的にせよ、採らざるをえないという屈辱的な大敗北だったからである。政治局、ボリシェヴィキ内で、論争になったテーマは、「この後退をいつまで、どこまで続けるのか」ということだった。「いつになったら、後退を中止し、社会主義農業政策に戻るのか」が重大関心事だった。「ネップ」期間中、いかに秩序だった後退を行うのかが、政権崩壊のがけっぷちから、生き長らえる最大問題になっていた。
６、レーニンによる革命農民数十万人殺害犯罪
〔小目次〕
２、１９２０・２１年の反乱農民の射殺・人質数数データと殺害数の根拠 (表６)
１、レーニン・トロツキーらによる反乱農民の殺人指令文書８通
タムボフ、西シベリア、マフノーの３大反乱だけでも、反乱農民の部隊は１４万人いる。とくに内戦が基本的に終了した１９２０年夏から１９２１年春にかけて、軍事割当徴発制の穀物･家畜の収奪による餓死の恐怖とも合わさって、反乱が激化し、３６県が戦争状態になった。１１８件または数百件の反乱報告を合計すれば、反乱参加者は、百数十万人から数百万人になる。レーニンは、その内、数十万人を、(１)裁判なし射殺、(２)革命裁判所による４８時間以内の死刑、(３)毒ガス使用による殺戮、(４)人質、(５)強制収容所送りなどの手法によって、土地革命農民を殺害した。
〔小目次〕
１、１９１８年８月１１日、「暴動」農民の絞首刑指令
２、１９１８年８月２０日、「富農の人質」指令
３、１９１８年８月２９日、「クラーク鎮圧・没収措置の報告」督促電報
４、１９１８年８月３０日、トロツキーの脱走兵銃殺命令
５、１９２０年１０月１９日、「タムボフ県の農民反乱への鎮圧」指令
６、１９２１年６月１１日、タムボフ農民への「裁判なし射殺」指令
７、１９２１年６月１２日、毒ガス使用によるタムボフ農民の絶滅命
８、１９２１年７月１０日、タムボフ県匪賊抑圧政策の人質・公開処刑報告
〔殺人指令文書１〕、１９１８年８月１１日、「暴動」農民の絞首刑指令
これは、岩上安見『あらかじめ裏切られた革命』(講談社、１９９６年)のデータである。彼の直接取材にたいして、ヴォルコゴーノフが見せた「レーニン秘密資料」である。それは、レーニンの手書きの手紙だった。同一指令内容が、梶川『飢餓の革命』(P.５４７)にもある。ただ、岩上著の日付は「８月１８日」になっているが、梶川著の日付にした。梶川氏から「この日付は、モスクワで１９９９年に発行された『レーニン・知られざる文書』でも確認できます」というメールをいただいた。
「ロシア連邦ソヴィエト共和国 人民委員評議会議長 モスクワ・クレムリン
一九一八年八月十一日
ペンザ市ヘ クラエフ同志、ボシ同志、ミンキン同志他のペンザ市の共産党員達へ
同志諸君！
五つの郷での富農(クラーク)の暴動に対し仮借なき鎮圧を加えなければならない。富農達との最後の決定的戦闘に臨むことは、全革命の利益にかなっている。あなた方は模範を示さなければならない。
一、正真正銘の富農、金持ち、吸血鬼を最低百人は絞首刑にすること（市民がみんな見られるように、是非とも絞首刑にしなくてはならない）。
二、彼らの名前をすべて発表すること。
三、彼らの所有している小麦をすべて奪うこと。
昨日の電報通りに人質を決める。そして吸血鬼の富農達を絞め殺し、その姿を百マイル四方の市民すべてに見せつけて、彼らが恐怖におののき、叫び声をあげるようにしなければならない。（私の）電報の受取とその内容の実行について、電報を打ちなさい。
あなたのレーニンより
追伸 できるだけ、不撓不屈の精神の人を探しなさい。」（Ｐ．３０７）
〔殺人指令文書２〕、１９１８年８月２０日、「富農の人質」指令
２つのデータを載せる。まず、梶川『飢餓の革命』の資料である。
「戦時共産主義期に穀物や革命税の不履行に対して頻繁に人質(заложник)が利用された。八月にレーニンはツュルーパに、サラトフには穀物があるのに、搬送することができないのは最低の不面目であるとし、各郷ですべての穀物余剰の集荷に命を張る、富農から二五～三〇人の人質を提案した(ГАР.Ф.1235, оп.93.170, л.48об.－49)。それに続く覚え書きで、「「人質」を取ることではなく、郷毎に指名するよう提案している。指名の目的は、彼らがコントリビューツィアに責任を持つように、富農は穀物余剰の速やかな収集と集荷に命を張ることである。そのような指令（「人質」を指名すること）は、a、貧農委、б、すべての食糧部隊に出されている」(Ленинский сборник.xviii.c.145－146.)と述べている。」(Ｐ．５４８)
この経過について、ヴォルコゴーノフ『レーニンの秘密・上』が、さらに詳しく書いている。
「テロルは反体制的行為で有罪となった者にたいしてのみ適用されたという反論があるかもしれない。だが、そうではなかった。赤色テロルについての命令が立法化される一カ月前、レーニンは食糧生産人民委員のA・D・ツュルーパに、『すべての穀物生産地城で、余剰物資の徴集と積み出しに生命賭けで抵抗する富農から二五～三〇人の人質をとるべきである』という命令を出すように勧告している。ツュルーパはこの措置のきびしさに仰天し、人質問題については返事をしなかった。
すると、次の人民委員会議でレーニンは、彼がなぜ人質問題について返事をしなかったのか答えよと詰め寄った。ツュルーパは、人質をとるという発想そのものがあまりにも奇想天外だったため、どういう段取りでそれを行ったらいいかわからなかったのだと弁明した。これはなかなか抜け目のない答えだった。レーニンはさらにもう一通の覚え書を送って、自分の意図を明確にした。『私は人質を実際にとれといっているのではない。各地区で人質に相当する人間を指名してはどうかと提案しているのである。そうした人たちを指名する目的は、彼らが豊かであるなら、政府に貢献する義務があるのだから、余剰物資の即時徴集と積み出しに協力しなければ生命はないものと思わせるためである』。
そのような措置は差しせまった状況があったからで、特殊なケースにのみ適用されたのだと考えるのはまちがっている。これは内戦中のレーニンの典型的な作戦で、大々的な規模で実施された。一九一八年八月二十日、彼は保健人民委員で、リヴヌイの内戦のリーダーでもあったニコライ・セマシュコにこう書いている。『この地域での富農(クラーク)と自衛軍の積極的弾圧はよくやった。鉄は熱いうちに打たねばならない。一分もむだにするな。この地区の貧乏人を組織し、反抗的な富農たちのすべての穀物、私有財産を没収せよ。富農の首謀者を絞首刑にせよ。わが部隊の信頼できるリーダーのもとに貧乏人を動員して武装させ、金持ちの中から人質をとり、これを軟禁せよ』。」（Ｐ．３７６）
〔殺人指令文書３〕、１９１８年８月２９日、「クラーク鎮圧・没収措置の報告」督促電報
梶川『飢餓の革命』に、この「電報」が載っている。
「手本を示さないペンザ県執行委にレーニンは八月二九日に繰り返し打電した。五郷のクラークの容赦のない鎮圧と穀物の没収の、どのような、深刻な措置がようやく貴殿によって採られたかについて貴殿から何もはっきりしないことにわたしはきわめて怒っている。貴殿の職務怠慢は犯罪的である。一つの郷に全力を注ぎ、そこですべての穀物余剰を一掃する必要がある(Ленинский сборник.xviii.c.２０９.)」(Ｐ．５４７)
〔殺人指令文書４〕、１９１８年８月３０日、トロツキーの脱走兵銃殺命令
これは、ヴォルコゴーノフ『トロツキー・上』（朝日新聞社、１９９４年）の文書である。
「プロレタリアート独裁にたいする確信は、トロツキーをして国内戦時代における軍事テロの主要な推進者のひとりとした。手元に、一九一八年八月三十日にトロツキーが署名した命令がある。
命令第三一号 赤軍および海軍へ 反逆者および裏切り者が労農赤軍にもぐり込み、人民の敵に勝利をもたらそうとしている。その次が、略奪兵と脱走兵である……。昨日、東部戦線第五軍野戦軍法会議の判決により二〇人の脱走兵が銃殺された。真っ先に銃殺に処せられたのは、その任せられた部署を放棄した指揮官やコミッサールであった。ついで負傷兵のふりをした臆病な嘘つきが銃殺された。最後にこれからの戦闘で自分の犯罪的行為を償うことを拒否した脱走兵が何人か銃殺された。労農赤軍の勇敢なる兵士諸君万歳！ 略奪兵に破滅を。裏切り者の脱走兵に死を。 軍事人民委員 トロツキー。(注１６２)」(Ｐ．４０２)
(注１６２)、マルクス・レーニン主義研究所党中央文書保管所、フォンド３２５、目録１、資料４０、ファイル２７
〔殺人指令文書５〕、１９２０年１０月１９日、「タムボフ県の農民反乱への鎮圧」指令
１９２０年８月、内戦が基本的に終結すると同時に、タムボフ県の農民反乱始まった。反乱農民は、最大時５万人になり、３００組織に広がった。梶川伸一は、『ボリシェヴィキ権力とロシア農民』において、ソ連崩壊後に公開された膨大なアルヒーフ(公文書)を使って、反乱原因・経過を詳細に分析している。そこでのレーニンの指令を引用する。
「九月二四日にレーニン宛てに、県執行委議長代理から次の文書が送られた。わが状態は悪化している（わが二個中隊が武装解除され、そのようにして四〇〇丁のライフル銃と四丁の機関銃が奪われ、全体として敵対者は強固）。［……］貴殿に［穀物を］何も出せなかった。集荷は一日必要な二〇～二二万プードでなく二万～二万二〇〇〇～二万五〇〇〇しかない。この恐ろしい現実を知悉したレーニンは、直ちにチェーカー議長ジェルジーンスキィに「超精力的措置」を至急採るよう命じたが、事態はいっこうに改善されなかった。レーニンの関心事は、まず労働者への穀物の確保であった。タムボフの事件もこのことに集約された。
二七日にブリュハーノフ宛てに次のように書き送った。『タムボフ県について。注意を払うように。一一〇〇万プードの割当徴発は確実だろうか』。これとの関連でさらに一〇月一九日に、国内保安部隊司令とジェルジーンスキィに、反乱は強まり、わが軍は弱いとの県執行委議長シリーフチェルの報告を伝え、反乱撲滅のための必要な措置を採るよう指示した。これとほぼ同時にレーニンはジェルジーンスキィには、叛徒の猖獗を醜悪の極みとして、タムボフ県のぼんくらなチェーカー員と執行委員を裁判にかけ、国内保安部隊司令を厳しく叱責し、厳格な反乱の鎮圧を命じたのは、依然として根絶されない反革命的行為への彼の焦燥感の表現であった。二月になると抑圧的措置が強化され、匪賊的村が焼き討ちされた。」(Ｐ．６０４)
〔殺人指令文書６〕、１９２１年６月１１日、タムボフ農民への「裁判なし射殺」指令
以下は、『レーニンの秘密・下』にある「アントーノフの反乱」鎮圧経過である。
「一九二一年五月、赤軍司令官トゥハチェフスキー元帥には、すぐに出動可能な常備軍五万人、装甲列車三両、装甲部隊三個、機関銃をもった機動隊数隊、野戦砲約七〇門、機関銃数百丁、航空部隊一個があった。抵抗があった場合には、軍隊は村を丸ごと焼き払い、農民の小屋に容赦なく発砲し、捕虜はとらないことになっていた。反乱の指導者アントーノフは、一度は敗北したにもかかわらず、もう一度抵抗を試みようとしており、ボリシェヴィキを数カ月にわたって忙しくさせた。だが、一九二二年五月、彼はチェーカーに密告され、一カ月後、彼の兄弟とともに一軒の小屋に閉じ込められた。彼らは一時間あまりそこにこもっていたが、軍隊が小屋に火を放ったため、森へ脱出し、走っている最中に射殺された。引きつづいて軍隊が、アントーノフを助けたと見られる大勢の人たちを、報復措置として処刑した。」(Ｐ．１６０)
その鎮圧前に、レーニンは、この農民反乱にたいして、大量の人質政策をとり、モスクワに送らせた。そのデータも、『レーニンの秘密・下』にある。
「一九二一年九月、モスクワ赤十字委員会会長のヴェーラ・フィグネルは、共和国革命法廷宛てにこう書いている。「現在、モスクワの拘置所には、タムボフ県からの大勢の農民が入れられています。アントーノフの一団が一掃される前に、身内のために人質になっていた人たちです。ノヴォ・ペスコフ収容所には五六人、セミョーノフには一三人、コジュホフには二九五人、この中には六十歳以上の男性が二九人、十七歳以下の若い人が一五八人、十歳以下が四七人、一歳未満が五人います。彼らは全員、ぼろをまとい、身体の半分は裸という惨めな状態でモスクワに到着しました。よほど空腹なのか、幼い子供たちはごみの山をあさって食物を探しています……政治犯救済赤十字は、こうした人質の救済と、彼らの故郷の村への送還を請願いたします。」
政権側はそのような嘆願にたいしてほとんど耳を貸さなかった。」(Ｐ．１５８)
６月１１日、レーニンは次のような命令を、政治局の承認をえて、発令した。これは、『レーニンの秘密・下』の「レーニン秘密・未公開資料」によるものである。その文をそのまま引用する。
「反乱の指導者アントーノフの率いる［タムボフ県の］一団は、わが軍の果断な戦闘行為によって撃破され、ちりぢりばらばらにされた上、あちこちで少しずつ逮捕されたりしている。エスエル・ゲリラのみなもとを徹底的に根絶するために……全ロシア・ソヴィエト中央執行委員会は次のように命令する。（１）自分の名前をいうのを拒否した市民は裁判にかけずにその場で射殺すること。（２）人質をとった場合は処罰すると公示し、武器を手渡さなかった場合は射殺すること。（３）武器を隠しもっていることが発見された時、一家の最年長の働き手を裁判なしにその場で射殺すること。（４）ゲリラをかくまった家族は逮捕して他県へ追放し、所有物は没収の上、一家の最年長の働き手を裁判なしに射殺すること。(５)ゲリラの家族や財産をかくまった家では、最年長の働き手を裁判なしにその場で射殺すること。（６）ゲリラの家族が逃亡している場合には、その所有物はソヴィエト政権に忠実な農民たちに分配し、放棄された家屋は焼き払うか取り壊すこと。（７）この命令は厳重に、容赦なく実行すること。この命令は村の集会で読み上げること。
政治局は、あちこちの県で大虐殺が行なわれるのを認めていた。」(Ｐ．１５８)
〔殺人指令文書７〕、１９２１年６月１２日、毒ガス使用によるタムボフ農民の絶滅命令
ロイ・メドヴェージェフは、『１９１７年のロシア革命』で、次のように認めている。
「ボリシェヴィキが再びロシアを奪還した一九二一年春は、どことなく一九一八年春と似ている。だが今度は国が土台まで破壊されていた。工場は操業を停止していた。工業労働者の大部分が村へ去っていった。農業生産は半減した。だが農民は、ただぶつぶつ不平を言っていただけではなかった。再び武器を取って立ち上がり始めた。ロシア中央部ではエスエル党員アレクサンドル・アントーノフに率いられたタムボフの反乱、すなわちアントーノフの反乱が荒れ狂った。この時、内戦期において初めて軍は兵器庫から化学兵器を取り出し、使用した。」（P.１２５）
ヴォルコゴーノフは、この詳細を『レーニンの秘密・下』で公表した。
「一九二一年四月二十七日、レーニンの率いる政治局は、トゥハチェフスキーをタムボフ地方の司令官に任命した。彼は一カ月以内に農民の反乱を鎮圧すること、およびその進捗状況を毎週文書で報告するように命じられた。トゥハチェフスキーはその期限を守ることはできなかったが、要求の達成には全力を尽くした。
六月十二日に、トゥハチェフスキーは次のような命令を出した。
敗北集団や単独行動の盗賊の生き残り……などが森に集まり、平和に暮らしている住民を襲っている。（1）盗賊が隠れている森に毒ガスを撒き、彼らを一掃すること。窒息ガスを森中全体にたちこめさせ、そこに隠れているすべてのものを確実に絶滅させるように綿密な計画を立てること。
（2）小火器監察官は必要数の毒ガス入り気球と、その取り扱いに必要な専門技術者をただちに現場に派遣すること。
体制から見て、どういう種類の農民が“本物の階級の敵”とみなされたのかは想像しにくい。だが、似たような措置は他のところでもとられ、政治局はそれを承知し、認めていた。」（Ｐ．１３５）
〔殺人指令遂行報告８〕、１９２１年７月１０日、タムボフ県匪賊抑圧政策の人質・公開処刑報告
これは、ニコラ・ヴェルトが『共産主義黒書』に載せた。
「タムボフ県匪賊抑圧政策に関する全権五人委員会議長報告 １９２１年７月１０日
クドリュコフスク郡の掃討作戦は、以前匪賊の一味をかくまったオシノフカ村から、６月２７日に開始された。わが抑圧部隊にたいする農民の態度は、ある種の不信感をもって特徴づけられる。農民は森の匪賊どもを通報することなく、質問にたいしては何も知らないと答えた。われわれは４０人の人質をとらえ、村に戒厳令をしき、村の住民に匪賊と隠匿武器を引き渡すために２時間の猶予を与えた。村人は集まって相談し、いかになすべきか躊躇していたが、しかし積極的に追い出し作戦に協力するとは決しなかった。
きっと彼らは、人質を処刑するというわれわれのおどしをまじめにとらなかったのだろう。猶予時間が過ぎたので、われわれは２１人の人質を村人の集まる前で処刑した。全権委員、共産主義者の目の前で、慣例にしたがって形式にのっとり、一人ひとりを銃殺によって公開処刑にしたことは、農民に衝撃的な印象を与えた……
カレーフカ村に関しては、その地理的情況から、匪賊の一味にとって恵まれた場所になっていた……委員会はこれを地図から抹消することに決定した。全住民は赤軍勤務者の家族を除き、移動させられ、その財産は没収された。赤軍勤務者の家族はクルドウーク村に移され、匪賊一味の家族の、没収された家に住まわせた。いくつかの価値ある品－窓枠、ガラス製品、木製品等々－を回収したあと、村の家々に火が付けられた……
７月３日、われわれはボゴスロフカ村の作戦を開始した。ここの農民ほど頑固で、組織化された者は、前に出会ったことがまずない。これらの農民と言い争っていると、若い者も年取った者も、異口同音に驚いたふうでこう言うのだった。
「わしらのところに匪賊だって？ まさか、そんなことを考えなさるなんて、とんでもない！ 一度くらい近くを通るのを見たことはあったかもしれねえが、匪賊だなんて思ってもみませんでした。わたしどもはだれにも悪いことはせず、静かに暮らしとりますだ。なんにも知りません。」
われわれはオシノフカでも同じ処置をした。人質を５８人とった。７月４日にわれわれは第１グループの２１人を公開処刑し、翌日には１５人処刑した。しかし匪賊ども６０家族、約２００人を退治することはできない。最終的にわれわれは目的を達し、農民は強制されて匪賊狩りと隠匿武器の探索に出発した……
上記諸村の掃討は７月６日に終了した。作戦は見事成功し、その影響は近くの２郡を越えて響いている。匪賊どもの降伏が相次いでいる。
全権五人委員会議長 ウスコーニン。（注）」（Ｐ．１２８）
（注）、ダニ一ロフ、シヤーニン『タムボフ県における農民反乱１９１９～１９２１年』２１８頁
『「反乱」農民への「裁判なし射殺」「毒ガス使用」指令と「労農同盟」論の虚実』
梶川伸一『ボリシェヴィキ権力とロシア農民』食糧独裁令の誤りと農民反乱
２、１９２０・２１年の反乱農民の射殺・人質数数データと殺害数の根拠
(表６) １９２０、２１年の｢反乱｣農民の射殺・人質数
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期間 |
地域 |
内容と規模 |
赤軍 |
出典 |
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1920、21 |
ウクライナからドン川流域 |
マフノー農民軍5万人中、ドイツ占領軍、デニーキン、ウランゲリ白衛軍との戦争における死傷以外で、赤軍との戦闘で数万人死傷。1921･22年飢饉死亡者はウクライナだけで100万人(コサック絶滅指令のように、報復的穀物没収が原因かは不明。1919年コサックへの「赤色テロル」指令による殺戮、穀物完全没収でコサック身分農民440万人中、30万人から50万人が戦闘、殺戮、餓死により死亡) |
対マフノー鎮圧部隊の歩兵・騎兵中、数万人死傷 |
『ロシア・ソ連を知る事典』 中野徹三『共産主義黒書を読む』 |
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1920～21・2 |
西シベリア5地方、8県、14郡 |
20･5、「反乱」農民5000人殺害、42人銃殺 20･7、「反乱」農民42人銃殺 21･1、アルタイ県で郷・村執行部1494人逮捕、市民5494人逮捕、家畜14000頭以上没収。 4万人の「反乱」農民中で、射殺・人質総計は不明 |
コムニスト80人殺害 |
『ﾎﾞﾘｼｪｳﾞｨｷ権力とﾛｼｱ農民』 |
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1920・8 |
チェリャビンスク県 |
兵役忌避者7340人のうち106人が監獄、194人が矯正収容所、134人が強制労働、1165人が執行猶予、5067人が罰金、18人が銃殺、656人がそのほかの判決。もちろん、捕獲部隊との戦闘で多数が犠牲。 |
『飢餓の革命』 （P.16） |
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1920・11 |
各地 |
反ユダヤ主義ポグロム(虐殺)、4村で58人。他地域でも多数 |
『ﾎﾞﾘｼｪｳﾞｨｷ権力とﾛｼｱ農民』 |
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1920・8～21・6 |
タムボフ県と他4県 |
20･9、戦闘で600人犠牲者 21･3、20･10の党員・候補１１５２１人が、6158人に半減 21･6、タムボフ「反乱」農民5万人中、『裁判なし射殺』『毒ガス使用』指令による殺害数は不明 21･9、モスクワの3収容所のタムボフ農民人質364人 |
チフス、戦闘で毎週300人死亡。 |
『同上』 『レーニンの秘密・下』(P.158) |
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1920～21・6 |
全土 |
36県が｢反乱｣農民と赤軍・チェーカー・食糧人民委員部との戦争状態になった |
食糧人民委員部10万人以上死亡 |
『1917年のロシア革命』 |
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1921年だけ |
全土 |
1921年兵役忌避・脱走兵の銃殺刑。1月360、2月375、3月794、4月740、5月419、6月365、7月393、8月295、9月176、10月122、11月111、12月187、1921年計4337人銃殺。ヴォルコゴーノフ『国内戦の初期(18、19年)には銃殺者がはるかに多かった』『革命裁判で控訴権なし、判決は24時間以内に執行』 |
赤軍兵士171185人が、農民「反乱」との戦闘で死亡 |
ヴォルコゴーノフ 『トロツキー・上』（Ｐ．409） (赤軍死亡)『1917年のロシア革命』 |
第一、反乱農民の数十万人殺害という根拠
反乱農民数十万人殺害の別の根拠を挙げる。メドヴェージェフが公表したデータによるボリシェヴィキ側の死者からの逆算である。農民反乱の武力鎮圧過程において、食糧人民委員部の食糧徴発武装部隊１０万人以上が死亡し、赤軍兵士１７１１８５人が死亡した。合わせて２７万人以上が死んだ。正規の武装をした権力側がそれだけ死んだのである。反乱農民側の殺害・人質・強制収容所送りの人数がそれより少ないことはありえない。この逆算式から見ても、レーニンが、９０００万農民のうちで、２７万人をはるかに超える数十万人を「殺した」ことは明白である。これらの細目データは『農民』ファイルでも書いた。
『「反乱」農民への「裁判なし射殺」「毒ガス使用」指令と「労農同盟」論の虚実』
第二、兵役忌避の脱走兵・徴兵逃れ十数万人から数十万人を銃殺・殺害・人質の根拠
１９１９年の公式統計だけで、脱走兵１７６１０００人と徴兵逃れ９１７０００人がいた。その合計は２６６８０００人である。他年度の統計は出ていない。１９１８年５月の「食糧独裁令」以後に、徴兵制と内戦が始まった。１９２０年１１月に内戦は終結した。その３年間を単純計算すれば、２６６．８×３年＝８００．４万人になる。赤軍の正規軍化による最大規模は５００万人だった。８０％農民国家において、徴兵者の８０％も農民兵だった。兵役忌避の脱走兵・徴兵逃れ１８・１９年の全体データは、上記(表４)に載せた。
レーニン・トロツキーは、赤軍を、(１)内戦地方では白衛軍との戦争に当て、(２)他地方では、軍事割当徴発制の穀物･家畜収奪政策と反乱農民鎮圧作戦に使った。１９２０年夏以降のタムボフ県、西シベリア、ウクライナにおける３大農民反乱や３６県での農民との「戦争状態」にたいする武力鎮圧に、全面的に赤軍を使い、裁判なし射殺や毒ガス使用による反乱農民の殲滅、殺戮作戦に使った。
徴兵後の、働き手を奪われた家族も穀物･家畜を等しく収奪され、餓死の危険が迫った。レーニン・トロツキーは、農民出身の兵士にたいして、反乱農民を殺す任務を負わせた。白衛軍とたたかうのならともかく、同じ農民を殺す軍隊は、彼ら農民兵士にとって、犯罪的存在でしかない。脱走兵と徴兵逃れが大量に出るのは当然だった。トロツキーは、彼らにたいして「犯罪、腰抜け」とのレッテルを貼りつけた。１９２１年の公式統計での赤軍兵士銃殺は４３３７人である。４３３７×３年＝銃殺した兵士１３０１１人になる。
レーニンは、徴兵逃れの農民狩りを指令し、チェーカーと赤軍に大々的に行わせた。彼は、それを「捕獲」と名付けて、捕獲数を報告させている。その捕獲作戦に抵抗する農民を大量に殺し、また、脱走兵と徴兵逃れの家族を人質に捕った。彼らが出頭しなければ、見せしめに人質を殺害した。その殺人と人質、人質殺害だけでも、８００．４万人の脱走兵・徴兵逃れのうちで、最低でも十数万人になる。
別の算出根拠もある。『飢餓の革命』(P.１６)にある１９２０年８月のチェリャビンスク県だけの報告である。「兵役忌避者７３４０人のうち、(１)１０６人が監獄、(２)１９４人が矯正収容所、(３)１３４人が強制労働、１１６５人が執行猶予、５０６７人が罰金、(４)１８人が銃殺、６５６人がそのほかの判決。もちろん、捕獲部隊との戦闘で多数が犠牲」という公式統計がある。
赤太字４項目合計４５２人÷７３４０人＝６．１５％になる。脱走兵・徴兵逃れ８００．４万人×６．１５％＝約４９万人である。機械的な計算式だが、約４９万人を監獄、矯正収容所、強制労働、銃殺にしたことになる。
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〔関連ファイル〕
『見直し「レーニンがしたこと」－レーニン神話と真実１９１７年１０月～２２年』ファイル多数
第１部『１９１７年１０月、レーニンによる十月・ソヴィエト権力簒奪第１次クーデター』
第２部『１９１８年１月、憲法制定議会の武力解散・第２次クーデター』
第３部『１９１８年５月、革命農民への食糧独裁令・第３次クーデター』
第４部『１９１８年６月、他党派をソヴィエトから排除・第４次クーデター』
第５部『１９２１年２月、革命労働者ストライキの弾圧・第５次クーデター』
第５部２『１９２０年３月、トロツキー「労働の軍隊化」構想と党内論争』
第６部『１９２１年３月、革命水兵の平和的要請鎮圧・第６次クーデター』
第７部『１９２１年３月～２２年末、「ネップ」後での革命勢力弾圧継続・強化』
第８部『１９２２年５月、知識人数万人追放「浄化」・第７次クーデター』
第９部『１９１７年～２２年１２月、レーニンの最高権力者５年２カ月間』
第１０部『「レーニンによる７連続クーデター」仮説の自己検証』
(食糧独裁令・農民反乱問題の関連ファイル)
『「反乱」農民への「裁判なし射殺」「毒ガス使用」指令と「労農同盟」論の虚実』
『マフノ運動とボリシェヴィキ政権との関係』共闘２回と政権側からの攻撃３回
梶川伸一『飢餓の革命 ロシア十月革命と農民』１９１７、１８年－貧農委員会
『ボリシェヴィキ権力とロシア農民』クロンシュタット反乱の背景
食糧独裁令の割当徴発とシベリア、タムボフ農民反乱を分析し、
レーニンの「労農同盟」論を否定、「ロシア革命」の根本的再検討
『幻想の革命』十月革命からネップへ これまでのネップ「神話」を解体
『レーニンの農業・農民理論をいかに評価するか』十月革命は軍事クーデター
『レーニン体制の評価について』２１－２２年飢饉から見えるもの
ロイ・メドヴェージェフ『１９１７年のロシア革命』食糧独裁の誤り
TAMO2『ソ連邦共産党史２』１９１７年～第９章、外国の軍事干渉と内戦の時期における党