書名:義経(上)
著者:司馬 遼太郎
発行所:文藝春秋
発行年月日:2004/2/10
ページ:490頁
定価:667 円+税
書名:義経(下)
著者:司馬 遼太郎
発行所:文藝春秋
発行年月日:2004/2/10
ページ:498頁
定価:667 円+税
NHK大河ドラマ化・1966年(昭和41年)で放送された源義経は村上元三原作でした。日本人が古来より大切にしてきた義経のイメージそのままの強く優しく美しい理想のヒーローがそこにいます。しかしこの司馬遼太郎の義経は全く違って「いくさバカ」、「政治能力ゼロ」、「情緒不安定」、「女好き」、「コミュニケーション能力ゼロ」と英雄像はどこにもありません。
また頼朝も従来からの源氏の血、親兄弟であっても血で血を洗う。兄弟であっても敵という描き方がされています。平家は清盛を始め、兄弟、一族郎党を大事にして清盛の出世と共に身内も出世する。源氏とは全く違った一族。西日本、東日本の気質で説明できるかも。東は一所懸命。土地にこだわる。そして相続の仕組みがキッチリしていないので家族、一族内で争いになる。その争いを調停するのが幕府。
鎌倉時代の政治体制は土地は地元の豪族、百姓のもの、鎌倉幕府は税金を取る権利を持っているだけ。やくざの世界の縄張りを持っている。そして関東各地の豪族の連合体の中で頼朝が神輿として担ぎ上げられている。(やくざの親分)という図式。これは徳川幕府になっても本質は同じ。幕府は土地の保有者ではない。税金(年貢)の徴収者。したがって、微妙なバランスの上に乗っている。バランスが崩れると一気に崩壊する危機を常に持っている存在。鎌倉幕府が成立する以前の頼朝は北条氏位しか自分の意志で動かせる部下はいなかった。それも北条政子の父時政に遠慮しながら。
そんなとき平家のとの戦いで義経に大活躍されると頼朝の存在自体否定されかねない。そんな心情と行動が説得力をもって描かれている。義経の常識外れの行動は当時にあってはタブーだらけ。那須与一の弓にしても扇を射止めたところまでは源平の双方が喝采をしているが、その後平家の太鼓持ちを射殺したのはNG。壇ノ浦の戦いでも平家の船の水夫(船の操作者は殺さないという暗黙の了解があった)を狙って殺してしまう。既存の常識の破壊者が天才といわれるが、実は大きな問題のある人という側面もある。この義経はどちらかというと今までの好意的な見方からすると全く逆になっている。村上元三の義経と比べて読むのも面白いかもしれない。