書名:共震
著者:相場 英雄
発行所:小学館
発行年月日:2013/7/28
ページ:325頁
定価:1,500 円+税
2011年3月11日に起こった東日本大震災の、今なお続く被災者の厳しい生活をテーマにしたミステリー小説。3.11をノンフィクションで描いても誰も読んでくれない。そこでフィクションの形で描いたと。ノンフィクション風だから余計に被災者の会話、ひとつひとつに重みがある。
東日本大震災から2年後、東松島の仮設住宅で事件が起きました。殺害(毒殺)されたのは国から出向して宮城県の職員早坂順也。彼は県職員という枠を超えて、復興のため東北各県を廻り、被災地の人々の立場から力を尽くしてきた人物だった。
大和新聞東京本社の遊軍記者である宮沢賢一郎は、東日本大震災後、志願して仙台総局に異動する。沿岸被災地の現状を全国の読者に届けるため、「ここで生きる」というコラムを立ち上げた。彼も又震災発生後3週間後から被災地各地を飛び回り、被災地の人々の暮らし、苦悶などレポートして来た。早坂とも面識があった。2人とも現場主義で自分の目、体で確かめないと気が済まない。
宮沢賢一郎は早坂順也の人柄から誰かに恨みを抱かれる人物でない。何故殺されたか疑問を抱き独自で捜査を始める。
警察側は警視庁のキャリア田名部昭治も被害者の手帳に自分の名前があったこともあって、県警と捜査を開始する。この物語は2年前の震災直後の様子、宮沢賢一郎、田名部昭治の追想と現実の捜査を章を分けながら話は進む、また被災地の人々の声が随所にちりばめられている。2人とも現場に良く足を運び、捜査を進める。その2人が出会ったところで事件捜査は急速に進展する。
震災にあって苦しんでいる人々を支援していく、美しい話、感心する話も出てくるが、逆に困った人により苦しみを与えて平気な輩も出てくる。義捐金を不正に貰っているまる暴(日雇い労働者を被災地に送り、避難所に避難させ、義捐金が出ると逃げさす)義捐金詐欺、復興予算の不正取得(バス、トラックなどの運賃の過剰請求)、そしてNPOを標榜して人助けといいながら、復興予算を過剰に取り込む悪質な団体。ミステリー仕立てになっているが、被災地の出来事は著者が実際歩いて集めた情報に基づいているので、それぞれに重い。
著者はあとがきに
日頃「嘘を書いてナンボ」と嘯いてきた者としては「嘘をはるかに凌駕した圧倒的な現実」の前に立ち尽くすしかありませんでした。と書いている。
「頑張って」というのは3.11の被災者に言う言葉ではない。これまで十分頑張ってきた。これ以上頑張れというのは死ねと言うこと。
この本は覚悟して読む本だと思います。安易にすすめたくない本です。
エンタテインメント小説で東日本大震災を描く意味とは? 想像を超える過酷さと行政の限界
http://biz-journal.jp/2013/08/post_2696.html