書名:伊豆の死角
著者:津村秀介
発行所:講談社
発行年月日:1997/10/15
ページ:374頁
定価:600 円+ 税
秋雨に煙る駿河湾、西伊豆行きの連絡船にたたずむ男と女。こんなシーンから始まる。歯科医の長尾、長尾の部下で歯科衛生士の美知子。どうしてこんなに深入りしてしまったのか?妻に離婚を切り出せないまま、旅に出た長尾、愛人殺人計画の結末は?どんでん返しが面白い。こんな旅情ミステリーが10編集められている。旅には殺しがよく似合うのか?短編ですが、なかなか傑作が多い。
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書名:伊豆の死角
著者:津村秀介
発行所:講談社
発行年月日:1997/10/15
ページ:374頁
定価:600 円+ 税
秋雨に煙る駿河湾、西伊豆行きの連絡船にたたずむ男と女。こんなシーンから始まる。歯科医の長尾、長尾の部下で歯科衛生士の美知子。どうしてこんなに深入りしてしまったのか?妻に離婚を切り出せないまま、旅に出た長尾、愛人殺人計画の結末は?どんでん返しが面白い。こんな旅情ミステリーが10編集められている。旅には殺しがよく似合うのか?短編ですが、なかなか傑作が多い。
書名:深重の海
著者:津本陽
発行所:新潮社
発行年月日:2006/2/25
ページ:470頁
定価:629 円+ 税
和歌山県太地町、鯨漁で有名なところ。慶長以来400年の歴史ある鯨漁、明治11年12月24日熊野灘に沖に現れた1頭の巨大な背美鯨に、勢子舟16艘、持双舟4艘、樽舟5艘、山見舟1艘など300人が乗り込み、発見、追跡、格闘して行く様子でストーリーが展開する。主人公は背古孫才次。村を挙げて1頭の鯨に立ち向かっていく。牛200頭分の肉を持つと言われる背美鯨に対する彼等の舟も装備も誠に微少ななもの。巨大なものに微少なものが立ち向かう。
立ち向かわざるをえないところに悲劇的な根底が象徴されている。巨大な背美鯨を仕留めたけれども嵐に遭遇して漂流してしまう。壊滅的な犠牲者を出してしまう。ペリーの来航の目的は鯨漁の寄港地確保。世界の鯨漁はどんどん大型化、広域化している時代、昔ながらの漁法で鯨を捕っている太地村の人々に次々と苦難が襲ってくる。
孫才次の祖母のいよの言葉「ずっと昔から、鯨を捕って生きた。それは親様がそうせえと教せてくれなはったからじゃ。鯨はわしにくわれて成仏せえちゅうて、取ったらなんまんだぶと拝んだら、それでええんじゃ。殺生の罪は、それで親様がゆるしてくれる。」ここに西洋諸国が唱えている捕鯨反対運動、動物愛護と太地の民が抱いていた鯨への思いの絶望的な違い。これはおいそれと埋まるものではない。
「たとい罪業は深重なりとも必ず弥陀如来はすくいましますべし」蓮如
方言で書かれた小説ですが、自然描写といい、海の様子、人々の活動これは方言でないと判らない。言葉=自然がよく分かる。要約すると今まで続いてきた鯨漁の伝統の衰退期の太地の人々の物語といってしまえば簡単ですが、そこに深い深いものがある。1ページ目を読み始めるとついつい引き込まれてしまうそんな小説です。津本陽の傑作ではないかと思います。
書名:開化怪盗団
著者:多岐川恭
発行所:光文社
発行年月日:2001/11/20
ページ:353頁
定価:571円+ 税
熱血漢の書生安岡保が、貿易商の樫村広助の一人娘那美を襲った追いはぎを退治したところから物語は始まる。那美と一緒に馬車に乗っていた気障で柔弱な宝石商・高牟礼三太郎、追いはぎにからきしダメ。明治の始め、まだ維新後のごたごたの時代。この宝石商が実は怪盗団の首領。すり、泥棒などを仲間に悪行を行う。世の中の定まっていない明治を舞台にルパン三世なみの悪人がある志をもって、豪商、貴族夫人などから宝石を盗んで、加工してまた売る。銀行に泥棒にはいる。等々の悪行を行うが、不思議と憎めない明るさがある。九州の五島列島に自分たちだけの国を作るというバカげた夢に奔走する人々を描いている。宝石商・高牟礼三太郎の正体は?最後に明らかにされるが、それが判るとそれまでの出来事がぱっと判ってくる感じがする。なかなか面白いストリーです。
書名:白馬山荘殺人事件
著者:東野圭吾
発行所:光文社
発行年月日:2007/10/25
ページ:357頁
定価:590円+ 税
一年前の冬、「マリア様はいつ帰るのか?」という葉書を妹の菜穂子に送って自殺?した兄の公一。その死に疑問を抱いた大学生の菜穂子は、親友の真琴とともに、兄が死んだ信州の白馬のペンション「まざあぐうす」を訪ねた。丁度一年前と同じ常連の宿泊客は同じ部屋に集うことになった。各部屋には童謡「マザー・グース」の歌に秘められた額が掲げられている。イギリス人の別荘だったペンションに隠された過去、兄公一の死の謎を追う菜穂子、真琴。古典的な推理小説で良く出て来る。周囲とは閉ざされた山の中のペンション。宿泊者以外犯人がいない。また密室殺人。そこにマザー・グースの歌に秘められた暗示、暗号。展開の面白さ、謎解きの面白さが感じられる作品。理系の作者(大阪府立大学工学部出身・元電装(株)社員)の頭の冴えが感じられる作品です。
書名:国民の道徳
著者:西部 邁
編者:新しい歴史教科書をつくる会
発行所:産経新聞
発行年月日:2000/10/30
ページ:673頁
定価:648円+ 税
西尾幹二の「国民の歴史」の続編として発行された本です。厚さ4cm位になる大判の本です。「自由」「平等」「博愛」はフランス革命以降出てきた概念。また民主主義多数決で決めるシステム。それらは出てきた当初は当然「自由」「平等」「博愛」を訴えないといけないほど酷い状態だったところだから多くの人々に受け入れられてきた。もっとも日本はそれをただ言葉だけアメリカ経由で入ってきただけ。それを金科玉条に戦後知識人は絶対的価値のように宣伝してきた。
でも「自由」だけ考えても個人の視点からの自由、共同体の中の構成員の視点からの自由、そんなことすら定義されていない。多数決で物事を決める。多数派に属する人は一応、世間なみ、少数派はいじめの対象(子どもたちのいじめ)。本当は議論を尽くして双方の着地点を見つける。それでも決まらないときはやむを得ない手段としての多数決。勿論少数意見も尊重する。こんなことはまずほっておかれてしまった。
自由も個人の欲望、それを権利として主張するばかり。平等も本当はみんな一人一人違う、でも基本的人権(生存権)だけは平等ですよ。だったはず、でも今まで差別されてきた人が逆に優遇されないといけないとなってきた。
昔の日本は「恥の文化」があった。でもいまは外でものを食べながら歩く若者?、電車の中で化粧をする女性、恥は感じないらしい。いま恥を感じるのは多数派に入っていなかった時のようだ。政治家も人気投票、いかに気に入られるか?芸能人、スポーツ選手などが当選してしまう仕組み。
等々成る程と思うところもあるが、本筋が違っているのではないかと思うところもある、色々な視点が雑多に並べてある。したがって論理的に整合していない部分もあるので、批判、非難をしようと思うところもあるけれど、自分で考えてみる人には良い素材を提供してくれているように思う。
慣習、伝統、文化、家族の営み、隣近所のつき合い。コミュニティの合意、そして歴史としての経験知などを総称して道徳が作られてきた。その道徳が粉砕された。人間は尊厳のあるものとして憲法にも第一番にきているが、実は成長して尊厳のあるものにならないといけない。結果が先にきたものだから人権、人権と幼児、子供まで人権と育てる、躾けすら出来ていない。社会の構成単位の最小の形態が家族。それぞれに役割分担がある。日々の活動は毎回の繰り返し(本当は日々変わっている)の中でそれぞれの役者、子供は子供の、父親は父親の役割を果たしながら、近隣、共同体とのつき合い方、人と人のコミュニケーションのやり方などを練習している場が家族。そこから出てきたのが道徳だと。
一夫一婦制はなぜ一般的に認められているか?実は死と関わりがあって、相方の死、自分の死を見つめたときに偶然知り合った男と女が一緒になって共有する時間、空間を一番長く連れ添ってきた。双方がやっぱり自分の事として相手の死に対することが出来る。これが一夫多妻、多夫一妻であればその思いは気迫になっていまうと。著者の言っている。
そんなに難しい本でもないのですが、読むのに少々時間が掛かった。多分重さのせいかな。ノートパソコンより思い。つかれて長い間読んでいられない。
書名:霧の罠
著者:高木彬光
発行所:光文社
発行年月日:2000/8/20
ページ:440頁
定価:648円+ 税
東南アジアのモリネシア領事館に勤務する中国人の通訳が自宅マンションで絞殺された。110番で現場に駆けつけた山口警部の前にはもうひとりの被害者が、30才位でクロロホルムをかがされて眠らされている。果たしてこの男が犯人か?翌朝意識の回復したその男に面接すると、自分も誰かに襲われたのだと証言した。神戸地検の近松検事が探偵役を務める本格推理です。
石橋を叩いても渡らないと言われるほど慎重派の近松検事と山口警部のコンビが面白い。昭和40年代警察の不祥事、えん罪などの事件が世間を騒がせていた世相もあって、この近松検事のスタンスは絶対えん罪は出さない。高木彬光の推理小説はいろいろな会話、箇所に仕掛けがいっぱいあって、物語の最初から埋め込まれている。それが終盤になって光って来ると言う輝き。すかっとするところもある。
書名:保津峡殺人事件
著者:津村秀介
発行所:ケイブン社
発行年月日:2001/7/15
ページ:283頁
定価:552円+ 税
川下りで知られる京都・保津峡で男が崖下に突き落とされ殺された。突き落とした人物は保津峡駅から電車で去っていく。被害者は横浜の会社員・久野真治。妻の礼子は茨城の友人の見舞いに行った良人が京都で殺されたの?良人の行動に不審を抱きながら京都に向かう。犯人は謎のまま。良人の隠された過去を知らされることとなる。電車、飛行機の時刻表を駆使した時刻表トリック推理小説。ちょっと謎解きに重点を置いている感じで、作者の緊張感が見えてくる作品。もう少し抜けたところも出て来ると面白いのですが、行き詰まる感じの物語です。でも2000年に亡くなられているのですね。
書名:燃えさかる薪
著者:曽野綾子
発行所:中央公論社
発行年月日:1998/8/18
ページ:326頁
定価:629円+ 税
久しぶりに曽野綾子の本を読んでみた。シンガポールに暮らす亜希子は複数の女性と浮気を繰り返す良人に飽き飽きして離婚して、日本に帰る。日本に住む高校の同級生の画家との新生活に臨む。そんなある日、元の良人が爆発事故のせいで大やけどを負ったという連絡が入る。自業自得と全く気にもとめなかった亜希子が段々変わって行く。曽野綾子流の聖書の一節を紐解きながらその後の物語を語る。読んだあとで何か心に残る小説です。
書名:小栗上野介の秘宝
著者:典厩五郎
発行所:富士見書房
発行年月日:1995/12/10
ページ:316頁
定価:583円+税
明治六年、明治新政府は新一円札の偽札事件で大きく揺れた。元江戸北町奉行所の与力であった秋庭圭次郎は31才、維新を迎えて新時代になった時、ほとんどの与力・同心たちはそのまま市制裁判所に横滑りして、東京の治安をあずかった。
でも秋庭圭次郎はそれをこころよしとはせず、新時代に背を向けて市井の底で生きてやろうと、賭博に身を持ち崩していた。そんなある日、自分の下で同心を勤めていた片山新之介と再会する。
片山は陸軍省を舞台とする大がかりな汚職事件を追っていたのだが、新一円札の偽札も絡んでいることを突き止める。秋庭圭次郎に昔とった杵柄で相談に乗ってくれと頼んでくる。それをすげなく断ってしまう。その片山がその数日後に死体となって発見される。その事件にクビをつっこまざるを得なくなった秋庭圭次郎が与力時代の手下を使って、明治新政府を揺るがす大きな事件を解決に導くという壮大なドラマ。
高橋泥舟、山岡鉄舟、江藤新平、井上馨、西郷隆盛なども登場してくる。井上馨が小栗上野介が隠したとされる埋蔵金500万両を求めて秋田藩の鉱山へ大臣の職を辞めて出発する。典厩五郎の時代考証など見るべきものがある。ロマン溢れる作品です。江戸時代がいっぱい残っていたり、横浜などの西洋の匂いがいっぱい。
シナリオライター出身の作家は多いがこの典厩五郎もシナリオライター出身。1939年東京生まれ。池上金男は池宮彰一郎、池田一朗は陸慶一郎、安井幹雄は南原幹雄。
書名:名言の正体
大人のやり直し偉人伝
著者:山口智司
発行所:学習研究社
発行年月日:2009/8/4
ページ:260頁
定価:740円+税
名言というのは歴史上の人物が残した印象的な言葉として時代を超えて、人々の沈んだ気持ちを励ましたり、また奮い立たせてくれたりします。また言葉だけが語り継がれて行く。
そんな名言の中には「誤解された名言」「カットされた名言」「誇張・捏造された名言」「「そこまで言うな!」と言いたい名言」に分けて名言の本当の正体を明らかにしてくれる。名言として残っている言葉には行った人物すら違うもの、また真意は全く逆だったりして、読んでいるとなかなか面白い。でも歴史ですら正体は実は良く分かっていない。理解したつもりが誤解の混じったものが多い。
名言も誤解していても現代の子孫のためには「美しい誤解」を続けても特に支障はないようにも思う。でも正体は知りたいねと思う人向けの本です。正体を知ってガッカリするのではなく、俗説の方を信用した方が幸せな場合もあることがわかると思います。