2005年2月はこの2公演

 


モダンスイマーズ「デンキ島 松田リカ編」

中野ザ・ポケット 2/8〜2/13
2/12(土)ソワレ観劇。座席 G-13

作・演出 蓬莱竜太

 舞台は石川県の小さな島。篠原スミエ(加藤亜矢子)、細見マコ(田口朋子)、松田リカ(中島佳子)は島の高校に通う、仲良し3人組。「卒業したら3人一緒に東京に行こう」というスミエの発案が暗黙の約束となっていた。スミエは何度も落ちた2級建築士試験にやっと合格し、建築家を目指していた。マコは美術展で入賞を果たし、美術の道に。しかし、リカは柔道が強いというだけで、特に東京に行く目的がある訳ではなかった・・・。
 リカの母親は男を作って家を出て行ってしまい、兄が米を作り家計をまかなっていた。しかし、天候不良で思ったほど収穫があがらず、家計はピンチであった。その兄は母親と同じ年齢の女と関係を持っていた。それを咎める父であったが、足の怪我で畑仕事ができず、酒に溺れ、その上こっそりとバクチにも手を染めていた。暮らし向きは悪くなるばかりである。そんな家計を支える為に、リカは毎日バイトに明け暮れていた。しかし、バイトで稼いだ金の一部を、東京行きの資金として、家族には内緒で貯め続けていた。口では行きたいと意志表示はしてないが、東京行きの夢を信じていた。
 そんなある日、本土からヤクザの一味が島にやって来た。兄貴の愛人である白石サツキ(高橋麻理)を本土の闘争から離れさせ、島で保護するという名目だったが、実は体の良い厄介払いであった。しかし、負けず嫌いな性格のサツキは、高校の男子生徒を仲間に引き入れたり、バクチの借金を取り立てたりと、きっちりと島での仕事を始める。そしてリカの父親の借金も取り立てに訪れた。こっそり貯めていた東京行きの資金を、勝手に兄が借金返済に使ってしまってからは、リカは自暴自棄になり、サツキの片腕となり働くようになる。学校も休みがちになり、ずるずると闇の世界に引きずり込まれていく・・・。

【ここからは、ネタバレがあるので、知りたくない人は読まんでください】

 東京への旅立ちの日。3人一緒に東京へ行くという約束を忘れないスミエは、なかなか現れないリカを迎えに走り出す。その時悲劇が起る・・・。

 モダンスイマーズ初観劇である。某ライターさんと飲む機会がありその時勧められた劇団が、ここであった。脚本・演出を蓬莱竜太、主宰は西條義将。蓬莱竜太は、8月に上演される舞台版『世界の中心で、愛をさけぶ』の脚本を担当するらしいので、なかなかの人気者なのかもしれない。私は恥ずかしながら知らなかったのだが・・・視野の狭さを露見。今回の作品は、3年前に上演された『デンキ島』の続編ではなく、同じ島が舞台の、まったく別の話らしい。どこまで別物なのか、登場人物が前作と関わり合いがあるのか、などなどは、今回初観劇なので判りません。ごめんなさい。

 で、前置きはこれくらいにして、芝居はどうだったかと言うと、とても面白かったのである。オープニングはスミエの死後1年経ったシーンから始まり、どうしてそうなったかが、過去に戻り描かれていく。そして、オープニングに話が追い着き、その後が描かれる。構造的にはありきたりだが、オープニングに話が追い着いたところから物語は加速する。初めの頃は、奇を衒ったものが何もなく、正攻法のドラマ過ぎて「なんか普通の芝居だ」と感じて観ていた。正直言って、この手の芝居は、自分的には満 足できない部類に属する。大人が演じる青春群像ってもの苦手。しかし、それを覆すかのように徐々に引き込まれて行く。特に後半のリカの葛藤には目頭が熱くなってしまった。久々に人の感情と言うか心の葛藤を説明せずに描いた作品に出会ったという感じである。一人で東京へ行く事を父親と兄に告げる場面で、父親とリカで柔道をするシーンがある。リカは堪え切れずに泣きながら柔道をする。言葉にはしないが、リカの家族に対する思いが伝わってくる。そして、誰も頼らずに強く生きてきたリカだったが、実は家族に寄り掛かりたかった弱さも素直に爆発させる・・・。そして様々なしがらみと決別し、前に進む事を決断する。このシーンの素晴らしさは心に残る。脚本も良いが、リカを演じた中島佳子の功績も大きいと思う。心を解放してからのかわいらしさが違うのである。そんな豊かな感情表現ができるとは、と役者に対しても感動してしまった。無機王所属と書いてあったので今度こちらも観に行こうと思う。

 あと、開演前の携帯電話の注意のアナウンスが、物語にリンクしているのも面白い。まぁ、観終わってわかるんだけど、意外と核心部分に触れているように思う。この物語の1年後、父親に送った手紙を読むって感じなのだが、そんな遊び心が良いと思う。音楽、照明もかっこいい。ホテルにあるゲームが「SPACE HARRIER」なのも、なんか好き。

 余談だが、2,500円でこれだけ素晴らしい作品が観れる事に感激してしまった。5,000円とかでつまらない芝居を作っている芝居関係者は大いに反省して欲しいもんである、って愚痴ったりして。まぁそれはともかく、お気に入りの劇団にモダンスイマーズが入ったのは言うまでもない。次回も楽しみである。

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シベリア少女鉄道「アパートの窓割ります」

THEATER/TOPS 2/11〜2/20
2/19(土)ソワレ観劇。座席 H-2(招待)

作・演出 土屋亮一

 舞台はとある喫茶店。そこに集う池田電工の社会人野球チームの面々。平田弘太(藤原幹雄)、佐野吉竹(前畑陽平)、岡田和也(わっくん:横溝茂雄)、渡真利(出来恵美)。チームは弱く、好きで野球をやっているような状態であった。しかし、わっくんは、その昔、甲子園で優勝した大投手であった。その年のドラフトで近鉄から1位指名を受けたが拒否し、社会人野球の道を選んだ。社会人になってからは実力を発揮せず(病気で発揮できず)力を抜いて野球をしていた。甲子園で優勝を争ったライバル中西一也(いっくん:吉田友則)もわっくんを追って社会人野球の道を選んだ。それには甲子園で優勝を争った時に、幼馴染みの木戸真弓(篠塚茜)の争奪も賭けていた事に関係する。勝った方がつきあうと決めていたが、優勝したわっくんは真弓をいっくんに譲ってしまう。負けたのに真弓とつきあっている事がどうも気になって仕方がないいっくん。しかし、常に優勝しているいっくんのチームに対して、常に予選敗退の池田電工は一度も対決した事がなかった。そんなある日、池田電工が社会人野球から撤退するというニュースが流れる。弱いという事が理由ならば勝ってやろうと、わっくんは全力を出し、勝ち進む。そして決勝戦。ついに、わっくんといっくんの対決が実現する・・・。

【と言うのが前振り部分。これ以降はネタバレあり】

 それから数日後が「まぎらわしい意味ありげな行動」で語られていく・・・。

 全体的には、H2とタッチがごちゃまぜになったような、恋と野球の物語。そしてテーマは「まぎらわしい意味ありげな行動」か。今回の芝居は周りの評判がすこぶる良くなかった。でも心配したほどの事はなく、充分に土屋ワールドを堪能できたと思う。評判の悪さは、“シベリア少女鉄道=壮大なオチ”というのが一人歩きしてしまった結果なのだろうか。現に自分も終演後、土屋氏に「もっとラストは畳み掛けるように“まぎらわしい意味ありげな行動”を見せて欲しかった」と言ったら、土屋氏の返答は、「この芝居でやりたかった事は、トロフィーの場面なんですよ」と気楽に言われてしまった。その言葉を聞いた途端、シベリア少女鉄道が目指しているものを垣間見た気がした。万人が面白いと思うものより、自分達が“くだらなくて面白い”と思える事に全力で取り組む、その姿勢がシベ少だった。それを思い出し、「芝居の終わり方も、まぎらししい意味ありげにすれば良かったのに」という言葉を飲み込んだ。

 マンガを読んでない人には、皆目意味がわからないと思うが、そのトロフィーってのが、タッチのラストの1コマらしい。私も原作は忘れてしまったのだが、どっちが勝ったかわからない状態でトロフィーのアップが描かれ完結したらしい。それをパロディにしたい一心で1本の芝居を作りあげた。そんな「ばかっぽさ(当然誉めてます)」に土屋亮一の心意気を感じ、「あ〜これこそがシベ少だった」と目から鱗が落ちた気分であった。忘れていたが、壮大なオチじゃなくて、こんな気の抜けた状態がシベ少の真骨頂だったはず。それを思い出させてくれた作品でもあった。

 余談だが、野球の対決ものという事で『栄冠は君に輝く』を思い出した。あの作品から私はシベリア少女鉄道の虜になってしまったんだなぁ〜としみじみ思ったりして。

 ※後日、別の筋から今回の芝居で鎧兜を探していたという話を耳にした。そう言えば、今回初めてアイデアが却下されたって言ってたのを思い出した。一体どんなアイデアだったんだぁ〜。


“シベリア少女鉄道”自分が観た公演ベスト
1.耳をすませば
2.二十四の瞳
3.ウォッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
4.笑ってもいい、と思う。2003。[ショートカット版]
5.デジャ・ヴュ
6.笑ってもいい、と思う。2003。[ノーカット完全版]
7.天までとどけ
8.遥か遠く 同じ空の下で 君に贈る声援
9.アパートの窓割ります
10.栄冠は君に輝く
11.VR

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