世界初・革命政党専従の法的地位「判例」
1978年末、仮処分「決定」と本訴訟
(日本共産党との裁判第8部・完結)
(宮地作成)
〔目次〕
1、仮処分申請と本訴訟 2段階の民事訴訟
2、仮処分「決定」 3重の扉と本題
第1の扉 民事訴訟法 『当事者適性の存否』 宮地勝ち・共産党負け
第2の扉 憲法 『司法審査権の存否』 宮地勝ち・共産党負け
第3の扉 民法 雇用契約か、有償委任契約か 宮地負け・共産党負け
第4、本題 専従解任正当事由の存否 第3の扉で「却下」のため、「なし」
3、本訴訟 『解雇無効確認等請求事件』
5、学習塾開業
(関連ファイル) 日本共産党との裁判 健一MENUに戻る
第1部『私の21日間の監禁査問体験』 「5月問題」
第2部『「拡大月間」システムとその歪み』 「泥まみれの拡大」
第3部『宮本書記長の党内犯罪、中間機関民主化運動鎮圧・粛清』
第4部『「第三の男」への報復』 警告処分・専従解任・点在党員組織隔離
第5部1『宮本・上田の党内犯罪、「党大会上訴」無審査・無採決・30秒却下』
第6部『宮本・不破反憲法犯罪・裁判請求権行使を理由とする除名』
第7部『学者党員・長谷川正安教授の犯罪加担、反憲法「意見書」』
第7部関連長谷川教授「意見書」
『長谷川「意見書」批判』 水田洋、「大統領」、中野徹三、高橋彦博
1、仮処分申請と本訴訟 2段階の民事訴訟
数年間かかる通常の(本)訴訟 これは、専従解任の当否「確認を請求する」争いで、《判決》が出るまでに、数年間かかることを覚悟しなければなりません。その場合、私の側の生計が持ちこたえられません。また、共産党側が、怒り狂って怒鳴ったように、「共産党員が、共産党内部で発生した市民的権利侵害事件で、共産党中央委員会を民事裁判で訴える」ケースは、『国際共産主義運動始まって以来の前代未聞のこと』でした。それを、原告側の私が弁護士なしでやろうとするわけですから、裁判そのものが成立するかどうかも、分かりません。
短期間で結論が出る仮処分申請 《民事保全》の一つですが、私の訴えは、『共産党愛知県委員会勤務員としての仮の地位を定める仮処分』です。それは、専従解任に《正当事由》がなく、それを仮に無効であるとの《決定》を請求するものです。《判決》と《決定》は、いずれも《判例》となります。まず、仮処分申請をし、短期間で終われば、(本)訴訟でたたかうことにしました。仮処分では、共産党専従・県勤務員への「適用法律」を《民法の雇用契約》と主張しました。
2、仮処分「決定」 3重の扉と本題
〔小目次〕
第1の扉 民事訴訟法 『当事者適性の存否』 宮地勝ち・共産党負け
第2の扉 憲法 『司法審査権の存否』 宮地勝ち・共産党負け
第3の扉 民法 雇用契約か、有償委任契約か 宮地負け・共産党負け
第4、本題 専従解任正当事由の存否 第3の扉で「却下」のため、「なし」
《決定》 1978年11月20日、名古屋地方裁判所民事第一部は、『地位保全等仮処分申請事件の決定』を出しました。それは、85ページにわたる長大な《判例》となりました。これは、1977年12月20日の第1回審尋から、9回・9時間の審尋を経て、11カ月目のことでした。この結論部分だけを、以下『茶色太字』で、載せます。その内容を、第7部で書いた「3重の扉」と「本題」の順で、検討します。審尋は、松本武裁判長一人だけでしたが、《決定》は、裁判長ら3人の連名です。85ページといっても、その95%は、原告・被告双方が提出した、膨大な《準備書面》主張を併記・検討した記述内容で、結論部分は、下記に書く最後の数ページだけです。
第1の扉 民事訴訟法 『当事者適性の存否』 宮地勝ち・共産党負け
1)、共産党の主張
(1)、《答弁書》での主張 申請人は昭和五二年十一月三〇日党規約によって除名されすでに党員資格を喪失している。よって申請人主張の被保全権利は不存在であるから、申請人の本件仮処分申請を却下することを求める
(2)、仮処分審尋での主張 冒頭から、以下を何度も、4人ともが、大声で怒鳴りました。『宮地には、裁判を請求する当事者としての適性がそもそもない。なぜなら、専従解任不当を訴えているが、被告は20日前の1977年11月30日に、原告宮地を除名している。専従解任が正当なのか不当なのかは、宮地が党員として存在していることが前提だ。除名で党員でなくなっている以上、その前提も消えており、当事者としての適格性に欠けている。したがって、宮地には『当事者適性』に欠け、この訴訟には『訴えの利益』がないので、直ちに門前払い却下すべきである』。
2)、宮地の主張
宮本・不破氏による裁判開始直前の宮地除名策謀にたいして、私は、『除名無効仮処分申請』を、除名後直ちに提出し、争っていました。その除名行為は、それによって、原告・宮地の『当事者適性』『訴えの利益』を、故意に否定しようとする「不法行為」で、無効であると主張していました。
3)、仮処分「決定」内容
除名は、それらの『存否』には、なんら関係を及ぼさないとして、被告・共産党主張を、まったく無視しました。宮本・不破氏は、宮地裁判での『当事者適性』『被保全権利』を剥奪する目的の、反憲法的な除名策謀で、完全に失敗しました。こうして、「第1の扉」閉鎖作戦は、共産党側の完敗でした。
ただし、「決定」は、被告側主張を“無視”し、『当事者適性』を当然のこととして認めた上で、『除名事件は、司法審査の対象にならない』としました。
第2の扉 憲法 『司法審査権の存否』 宮地勝ち・共産党負け
これは、憲法上の裁判請求権の入口論として最大の争点でした。共産党側は、裁判の全経過を通じて、ほとんどこの争点のみを主張しました。答弁書、準備書面、長谷川「意見書」でこの憲法論議を繰り広げました。ただ、共産党《答弁書》と、長谷川「意見書」とでは、その主張内容に違いがありました。
私も、憲法の解釈、学説、判例を研究し、市民的権利の侵害として当然裁判になりうること、即ち司法審査の対象になることを準備書面で何回も主張しました。
1)、共産党の主張
(1)、《答弁書》や審尋での主張 政党は、他の結社と異なり、憲法上特別の法的地位を保障されている。その結社の自律権、結社の自由権は特別であり、その内部で発生した専従解任という党内任務変更めぐる争いが民事提訴されても、それに対する司法審査権は一切存在しない。((注)これは、驚くべき憲法解釈ですが、共産党側主張は、スターリン憲法のままといえます)。
(2)、長谷川正安名古屋大学法学部教授「意見書」 憲法上における政党の法的地位は私的結社にすぎない((注)これは、さすがに、正当な憲法解釈ですが、@の共産党側主張と異なっています)。しかし、専従解任の当・不当は純粋な内部的組織問題であって、合法・違法の問題とならない。本件はその検討を行う必要を認めない。((注)これは、有償という市民的権利の側面を意図的に無視した上で、門前払い却下すべきであるとする詭弁です。)
2)、宮地の主張
政党は、憲法上の私的結社である。その結社内(党内)で、思想差別・報復人事の専従解任をされた。その報復行為は、党内任務変更という側面だけでなく、明白な市民的権利侵害に当る。内部で解決を求めて、1年8ケ月間たたかったにもかかわらず、解決されなかった以上、それに対して憲法上の裁判請求権が明確に存在する。有償(給与支払事実)という市民的権利の保全対象があれば、それに対する司法審査権が存在する。結社の自由権は、その面でのみ制限されるのは、憲法解釈の常識である。
3)、仮処分「決定」内容
『県勤務員は、給与名目下の金員が支給され、有償である点において、市民的権利につらなる側面のあることは否定できないところであるから、その限りにおいて政党の自律権は制約をうけるものというべく、本件解任処分の当否は司法審査の対象となるのが相当である。これに反する被申請人らの主張は採用できない。』
「決定」では、85ページ中、『司法審査権の存否』問題について、これだけの記述があるだけです。それは、被告・共産党側主張と長谷川「意見書」内容が、まったく常識はずれの、恣意的な憲法解釈であることを示しています。こうして、共産党側と長谷川正安氏は、最大の力点をおいた〔第2の扉〕争点で全面敗北しました。
第3の扉 民法 雇用契約か、有償委任契約か 宮地負け・共産党負け
そもそも、革命政党・共産党の専従者はレーニン以来の超法規的存在として、即ちブルジョア国家権力の転覆をめざす職業革命家として、ブルジョア国家のいかなる法律の拘束も受けないものでした。歴史上その法的地位をめぐる裁判、判例もなく、法的に宙に浮いた存在となっていました。
さらに、今回裁判をしてみて気がついたことは、日本共産党には4000人もの専従者がいるのに、党規約上で党機関専従者は何の規定もなく、党内文書でも専従の地位について規定された文書は何一つないということです。あるのは給与支払規定の口頭指示だけです。党中央常任幹部会は、“専従者について何の規定もない”ことを悪用し、勝手気ままに、やりたいように批判的意見を持っ専従者を解任してきたのでした。
1)、宮地の主張
共産党県勤務員・宮地・40歳には、1977年3月時点で、基本給一律70000円、年齢給29500円、党専従歴給13000円(1年1000円の割合)で、合計112500円の給与支払事実がある。そこから、健康保険料3822円、厚生年金料4459円、所得税2820円、県市民税1650円が差し引かれている。手取りは、99749円であり、ほかに夏・冬期に一時金として各112500円が、一般党員のカンパ金によってまかなわれていた。したがって、その支払・源泉徴収・差引実態は民法上の雇用契約として認められるべきである。
2)、共産党の主張
9回・9時間の仮処分審尋の途中では、〔第2の扉〕の司法審査対象外を主張するのみでした。《答弁書》では、『被申請人、申請人間には労働基準法が妥当する労使関係は存在しない』と主張していました。この〔第3の扉〕に対する《否認ならば、他の法的地位》主張を提出するようとの名古屋地裁民事裁判長が、再三、質問・要請したにもかかわらず、何の主張もしませんでした。最後の方で、裁判長に再度催促されても、従来どおり『雇用契約適用はできない』と主張しただけでした。
3)、仮処分「決定」内容
『県勤務員は、その勤務の実態に即して考えると、労基法の適用を受ける雇用契約関係にあるとすることは困難であって、むしろ、委任契約ないしこれに類似する法律関係と認めるのが相当である。』『本件解任処分は法的には有償委任契約の解除権の行使である。』
4)、宮地(本訴訟)の主張
『労基法適用の雇用契約である。仮にそれが認められない場合でも有償委任突約である』と二段階主張をしました。
5)、共産党の屈辱的敗北と、“黒(敗北)を自(勝利)といいくるめる”デマゴギー宣伝
〔第3の扉〕の雇用契約適用可否問題で、裁判長が、私の主張を認めず、私は敗北しました。一方、被告・共産党も雇用契約適用外の主張は認められましたが、民法の有償委任契約者(会社役員、弁護士、宅地建物取引業、医師などとの契約)と認定されたことではさらに大きな敗北でした。革命政党にとって、“革命政党専従とは、レーニン型社会主義革命、日本では二段階革命を起す政治業務を、お金を払って(有償で)委任し、民法上の契約をする者”という法律的認定ほど、屈辱的な大敗北はなかった筈でした。それは、国際共産主義運動が始まって以来の、レーニン型超法規的革命政党の、市民社会法秩序への屈従的整合を宣告された、惨敗の《判例》でした。
それがなんと、1978年12月18日付の「赤旗評論特集版」では、大見出しで『政党の自律権を尊重した名古屋地裁決定』とし、小見出しでも『自律権の尊重』として、その内容も共産党側が全面的に勝利し、反党分子・宮地が決定的に敗北したように書いたのです。しかし、〔第2の扉〕専従解任問題にたいする司法審査権存否では、市民的権利が存在しているとして、『政党の自律権の制約』を認定されて共産党側は全面敗北したのです。そして〔第3の扉〕は、雇用契約不適用主張は認められましたが、有償委任契約(民法・契約第643条〜第656条)適用という「決定」により根本的に敗北したのです。即ち、〔3重の扉〕全部に敗北したのでした。したがって、この「評論版」は、“黒(敗北)を自(勝利)といいくるめる”共産党流のデマゴギー論文の典型といえます。私の裁判の概要も全く知らずに、4回の赤旗記事やこの「評論版」だけ読んだ人は、党中央の宣伝内容を完全に信じたと思われます。これは、赤旗・「赤旗評論特集版」が、『反党分子』、『党批判者』への批判記事・評論において、いかに鉄面皮で、真っ赤なウソをつくかという見本です。
第4、本題 専従解任正当事由の存否 第3の扉で「却下」のため、「なし」
現在の日本の司法制度の下では、この『意見・思想の違いによる組織的排除としての専従解任』という「思想差別」論テーマを日本国憲法第14条1項(差別禁止条項)違反として、憲法の直接適用を主張することは判例、学説からみても、裁判になりません。それ以前に、他のなんらかの成文法の適用を主張・立証しなければならないというカベがあります。
私が日本共産党愛知県委員会県勤務員・県選対部員という地位にもとづいて提訴する場合、そのなんらかの法律は『民法上の契約である』という概念にならざるをえません。その上で、(1)雇用契約(労基法適用)か、(2)有償委任契約(民法・契約第643条〜第656条)かという成文法適用問題があり、さらにまた上記テーマにもとづく契約解除無効理論を主張・立証するという民事訴訟法上の法的段階をふまなければならないのです。
1)、宮地の主張
〔第3の扉〕での雇用契約適用主張にもとづき、本件解任は差別人事であり、党中央批判への報復人事として不正・不当であるから、民法の雇用契約、労基法に違反して無効である。
2)、共産党の主張
〔第2の扉〕で、司法審査権が存在しないと最重点で主張しました。〔第3の扉〕は、最後の方でも、雇用契約不適用を主張しただけでした。それに対しては、他の民法・契約条項適用の仮定主張も一切しませんでした。
3)、仮処分「決定」内容
申請人・宮地の適用契約条項主張が誤っており、その他の適用法の主張を何らしていないので、この〔第4・本題〕の内容に立ち入って審理できないとして仮処分申請を却下しました。下記『労基法第十九条違反』とは、仮処分申請段階では、まず、『雇用契約における頸肩腕症候群の病気中の解任』問題に限定して主張したことを指しています。
『そこで、本件解任処分の効力について判断するに、本件解任処分は、法的には委任契約の解除権の行使にほかならないところ、本件のような有償委任契約の解除については委任者が任意にこれを行使することはできず、相当の事由を要すると解せられる。ところで、本件解任処分につき、労基法の適用がないことは先に述べたとおりであるところ、申請人は、労基法第十九条違反のみを無効原因として主張しているのであるから、右主張は採用できない。』
3、本訴訟 『解雇無効確認等請求事件』
本訴訟の二段階主張
1978年11月30日、本訴訟を出しました。《請求の趣旨》は、『原告が、被告の県勤務員の地位を有することを確認する』です。《請求の原因》は、『原告は、雇用契約者である。仮に、本件当事者間の関係が、雇用契約と認められない場合でも、そこには有償委任契約が存在する』です。これは、学者党員・長谷川教授「意見書」の《仮定主張》テクニック(もし最初の主張が認められない場合でも)を拝借し、専従《契約》解除事由が不当であることを、二段階で訴えたものです。通常は、ただ、「訴訟」と言いますが、「仮処分申請」との関係で、ここでは「(本)訴訟」とします。
同時に、名古屋地裁司法記者クラブに連絡し、6社の参加で「記者会見」をしました。その記事は、夕刊で、朝日新聞、中日新聞、名古屋タイムスに、「コラム」で載りました。仮処分時点では、裁判闘争を聞きつけて、数社から取材申込がありましたが、「仮処分決定」がどうなるか分からないので、すべて断っていました。
「イマジン(imagine)」
本訴訟については、いろいろな想像(imagine)ができました。この二段階主張をしておけば、第3の扉止まりでなく、「3重の扉」をすんなりと通過して、いよいよ本論の「専従解任の正当事由存否」審理に入ることができます。なぜなら、本訴訟の裁判長は、仮処分裁判長と同じでしたから、原告が適用契約条項について《二段階の仮定主張》をしている以上、いきなり本題審理に入る《訴訟指揮》をせざるをえないからです。そして、原告・宮地が、『党中央批判にたいする、不当な報復解任』と主張しているからには、今度は、被告・日本共産党側に、『原告は、(1)不平・不満のふきだまりになっている、(2)その規律違反が長い、という解任理由2つの正当性を立証する責任』が生じます。そこで、原告側としては、その反論として、『私の「意見書」全文提出を求め、4人の県常任委員の証人喚問を要求』することができます。もちろん、被告側は、私の要求を全面的に拒否します。その拒否が、裁判長の《心証》にどう影響するのでしょうか。その《判決》が出て、それは、世界初の『レーニン型革命政党・職業革命家の法的地位、ならびに解任正当事由存否』にかんする《判例》となります。
雇用契約と有償委任契約
本訴訟においても、あくまで、《雇用契約》適用を主張しました。若干の説明をします。「民法・債権」第2章は、「契約」になっています。そこにある「契約」は、13に分類されています。「贈与、売買、賃貸借、雇用、請負、委任」などの契約です。雇用契約は、民法623条から631条までです。その内容は、労働基準法などの労働三法で具体化されています。委任契約は、民法643条から656条までで、その中に、有償委任契約が含まれます。その適用対象は、従来、宅地建物取引業、医師、弁護士、仲立・問屋業、送金・支払委託業、会社の取締役などでした。それらは、宅地建物取引業法、商法、手形・小切手法などの法律となって分化・具体化されています。
共産党県勤務員の「契約」額
資本主義国日本において、「有償」(お金を支払う・受け取る行為)である以上、それは「民法・契約」のいずれかに該当します。私の民事訴訟では、共産党専従は、どの「民法・契約者」になるのかの法律問題になったのです。宮地健一・40歳の「有償」実態は次の額です。支払は、遅配がつきものでしたが、市販の「給与明細伝票」によるものでした。「収入欄」は、(1)一律基本給、(2)年齢給、(3)党専従歴給です。「源泉徴収欄」は、(4)所得税2820円、(5)県市民税1650円、(6)健康保険料3822円、(7)厚生年金保険料4459円、です。手取額は、毎月99749円でした。(8)党費納入額は、所得税込で出すので、1%で、1025円です。
県勤務員業務遂行スタイル
内勤サラリーマンとは異なりますが、新聞記者やマスコミ関係と類似しています。ただ、《民法・契約》であるからには、そこに職務権限と職種により、4000人は、3つに分類できます。(1)、専従の採用・解任・部署変更の決定権限を持つ者は、3つの執行機関役員だけです。地区常任委員2000数百人、都道府県常任委員500人、常任幹部会委員20人という、約2800人です。(2)、その権限を持たない地区・都道府県・中央勤務員は、千数百人です。(3)、「赤旗」記者は、海外特派員15人を含めて、370人います。「赤旗」印刷所員・支局員は、毎日の「赤旗」印刷・配達・集金・上納業務をしていて、1000人前後います。私の言う「専従4000人」とは、その合計から、地区常任委員兼務の市町村会議員を、差し引いた数です。
(1)、3つの執行機関役員2800人は、《有償委任契約者》といえるかもしれません。彼らは、選挙され、具体的人事権を持ち、行使しているからです。私が、地区常任委員のときは、その権限を持ち、行使していました。
(2)、共産党勤務員千数百人は、党内選挙(実態としては「上意下達式任命」)で選ばれた党機関役員ではありません。勤務員の採用・解任・部署変更に関する決定権限を持っていません。3つの執行機関役員2800人により、採用・解任される《契約》実態にあります。この生活費支払体系と業務遂行スタイルは、従来の《判例》や民法解釈にある《有償委任契約者》対象と、大きく異なっています。私は、「仮処分決定」にあるような「適用法解釈」に、納得できませんでした。宅地建物取引業、医師、弁護士、仲立・問屋業、送金・支払委託業、会社の取締役などの他業種と違うのは、共産党員であることですが、それを理由として、それらと同じ《有償委任契約者》になるかどうかです。
(3)、「赤旗」記者と「赤旗」印刷所員・支局員は、商業新聞社記者・印刷配達社員と、その業務遂行スタイルは、まったくおなじです。となると、《雇用契約者》になるはずです。
第1回口頭弁論
1979年1月9日、『解雇無効等確認請求事件』の第1回口頭弁論が、名古屋地裁第24号法廷で開かれました。広い法廷に、原告側は私(宮地)一人で、被告側は県組織部長(反党分子対策責任者)一人と弁護士3人の計4人でした。数十人入れる傍聴席には一人もいません。友人知人の何人かが、『傍聴に行く』と言ってくれましたが、私は、『気持ちはありがたいけど、来たら、即座に査問されるから、来ない方がいい』と丁重に断りました。その法廷にいると、狭い裁判長室での仮処分審尋でなく、いよいよ本格的な民事裁判を始めた、という気概が湧いてきました。裁判進行の「イマジン(imagine)」は、なかなか刺激的でした。
生計上の理由による本訴訟取り下げ
一方、この1年間で、生計は加速度的に逼迫してきていました。妻一人の収入だけで、家族4人の生計を立てており、借金は80万円以上に膨らんできました。これは、私の専従収入毎月10万円強の、8カ月分になります。本訴訟の数年間で、生計が完全に破綻することは目に見えていました。この「生計の限界」については、文末にも書きました。まったく残念でしたが、本訴訟取り下げを決断し、1979年3月8日、「訴訟取り下げ準備書面」を名古屋地裁に提出しました。3月16日、「赤旗」は、『反党分子宮地、裁判取り下げ』記事を、勝ち誇ったように掲載しました。
1、成果
〔成果1〕 民事裁判成立の道を確立
革命政党・日本共産党常任幹部会が、専従党員への市民的権利侵害事件を起したとき、それとの闘争形態の一つとして、民事裁判の道が成立しうることが明らかになったことです。有償(給与支払)という市民的権利の側面がある以上、専従解任をめぐる訴えにおいては、政党の自律権・結社の自由権は制約を受けます。それを司法審査の対象外とする共産党、学者党員・長谷川教授の主張は、完全にしりぞけられました。意見のちがいによる組織的排除としての専従解任の報復を受けた専従党員は、今まで数百人を越えます。しかし、今後、それを裁判に訴えても、この“世界史上初めての判例”により、門前払いの却下=「司法審査の対象外」という入口での却下をされることはありません。
〔成果2〕 党機関専従者の規約上地位を逆説的明確化
逆説的になりますが、革命政党専従者4000人は、規約上、党内文書上で何の規定もなく、何の地位もないことが明白となりました。規約上では、様々な党の任務の1つでしかないことが判明しました。それは、同時に、専従者として有償でありながら、(1)その解任において何の権利保障規定もないこと。(2)上級機関が、解任を口頭で通告すれば、それで一切終わりであること。(3)党内におけるその不当性への闘争手段は何もないこと。(4)意見書提出「党員権」があるが、党中央の指令・承認があれば、それもにぎりつぶされて終わりとなること・・などです。宮本・不破氏は、4000人専従を、きわめて前近代的で、使い捨ての無権利状態に置いていることが判明しました。彼らは、これまでに、どれだけの専従者を“報復解任・使い捨て”してきたのでしょうか。
〔成果3〕 革命政党専従の憲法、成文法上地位を“世界初”確定
革命政党専従の法的地位
資本主義国におけるコミンテルン型共産党は、すべてが体制変革の革命政党です(でした)。非合法・暴力革命路線時期には、地下活動専従者・「地下生活者」は、いかなる法律にも拘束されない、超法規的人間でした。しかし、合法政党になった時点から、その革命政党専従といえども、その国の憲法・成文法の拘束を受け、その法的地位を持つのは、当然です。ただ、その具体的地位とは、何かについて、私(宮地)が『国際共産主義運動史上、前代未聞の民事訴訟を起す』まで、世界で明らかになっていませんでした。
4つの法的地位
1、まず、革命政党内部で発生した「市民的権利侵害事件」にたいする民事訴訟において、「民事訴訟法」上の《訴えの利益》《当事者適性》が存在することが、確定しました。
2、その「日本革命を起すことを職業とする“職業革命家”」の生活費(活動費)を、「憲法」上の《市民的権利》と認定しました。
3、その性質を持つ「事件」について、民事裁判が起きたとき、それにたいする「憲法」の《司法審査権》が存在し、その面でのみ《革命政党の自律権》が制約されるのは、「合法政党」である以上、法曹界の常識と再確認しました。
4、『職革』(職業革命家)の成文法上の地位確定は、世界でも《判例》がないだけに、最大の法律的難問でした。「日本革命を起す職業を、資本主義社会において、《有償》で、即ち《毎月・定額支払、源泉徴収》されている事実、それで生計を立てている実態」から見れば、それを、《民法・債権の13種類の契約条項》に当てはめるしかありません。原告・宮地は、仮処分申請の当初から、《民法・雇用契約》適用を主張していました。被告・日本共産党は、《民法・どの契約に該当するかどうか》の認否を、裁判長が、何度催促してもしません。審尋最後でも、《答弁書》通りに、『雇用契約ではない』とだけ否認しました。名古屋地裁民事一部裁判長は、「日本革命を起すことを《有償》で職業とする“職業革命家”」の民法上地位は、《民法・有償委任契約者という法的地位》を持つと「世界初の決定《判例》」を出しました。
有償委任契約者
中央・県・地区の4000人の党専従者は、民法・契約条項の有償委任契約者という法的地位が明らかになりました。仮処分「決定」では、その勤務実態の分析にもとづいて、民法上の雇用契約は否定しましたが、有償委任契約者の地位を明確に認定しました。革命政党専従者全員が、法的に宙に浮いた超法規的な存在でなく、(1)日本国法律、民法上の一つの契約条項・法的地位を持つ者としたこと。(2)4000人は、その革命政党執行機関が、弁護士・宅地建物取引業者に、お金を払って委任契約するように、《日本革命を起す政党業務を、対等・平等の関係において、有償で委任する契約者》という法的地位を認定しました。(3)それだけでなく、その《有償委任契約の解除権行使には、相当の事由を必要とすること》・・・などを明らかにしました。宮本・不破氏ら革命政党最高指導者にとって、職業革命家4000人は、宅地建物取引業者と同列の法的地位という認定ほど屈辱的な大敗北となる《判例》はなかったでしょう。
〔成果4〕 革命政党・共産党の市民社会との不整合体質を暴露
この宮地裁判を起したことにより、結果として、日本共産党という『人民的議会主義』路線、『自由と民主主義の宣言』を掲げる革命政党が、いかに市民社会との不整合体質、反憲法体質を、依然として隠蔽・堅持しているのかを、浮き彫りにすることができました。
1)、憲法第21条『結社の自由権』『結社の自律権』解釈をめぐって、被告・共産党は、『政党は、他の結社と異なり、憲法上特別の法的地位を保障されている。その結社の自律権、結社の自由権は特別であり、その内部で発生した専従解任という党内任務変更めぐる争いが民事提訴されても、それに対する司法審査権は一切存在しない』と、裁判において、公然と《答弁》、審尋主張をしました。これは、驚くべき憲法解釈ですが、共産党側主張は、スターリン憲法理論のままといえます。日本共産党とは、そういう憲法理論を隠し持った革命政党であることが、明白になりました。審尋主張では、長谷川「意見書」内容よりも、もっと露骨に、本心をさらけ出したのです。
2)、『結社の自律権』運用にあたって、『結社指導部による構成員への処分権』のみを唱え、一方、『構成員の憲法・市民的権利』を事実上認めず、『構成員の義務』遂行のみを要求するという“反憲法体質政党”であることを、自ら露呈しました。具体的には、「党内で発生した市民的権利侵害事件」での、該当党員による裁判請求権行使を、規律違反とみなし、それを事実上唯一の理由として、結社からの除名をするという“反市民社会的結社”の本質をあらわにしました。(1)、これは、憲法第32条が施行されて以来の“前代未聞”の反憲法犯罪でした。民事裁判史上、このような犯罪は一度も発生していません。(2)、かつ、それによって、民事訴訟法上の「当事者適性」を、不法に剥奪しようとする二重の犯罪を犯しました。それは、言いかえれば、憲法の基本的人権擁護理念とは異質の、レーニン・スターリン型人権軽視・批判者粛清体質政党の本質を露呈したというべきでしょうか。
3)、宮地裁判は、『党中央批判にたいする報復の専従解任で、有償である以上、結社内部で発生した市民的権利侵害事件』と訴えた民事訴訟でした。、仮処分「決定」は、『県勤務員は、有償である点において、市民的権利につらなる側面のあることは否定できないところであるから、その限りにおいて政党の自律権は制約をうけるものというべく、本件解任処分の当否は司法審査の対象となるのが相当である』としました。その市民社会常識、法曹界通念に背いて、日本共産党および長谷川正安憲法学教授は、「門前払い却下」を主張しました。それによって、彼らは、“反憲法理論をもつ結社であり、かつ、「学問的良心の上に党をおく」という反憲法・学者党員”であることを、剥き出しにしました。
これらは、私(宮地)の力で暴露したというより、彼らが、裁判過程を通じて、自らの反憲法的本性を現したというべきでしょう。宮本・不破・上田氏らは、党員権を蹂躙した“党内犯罪者”たちです。彼らが、この宮地裁判における、市民的権利を抑圧しようとした“市民社会内反憲法犯罪”の誤りを、公式に認め、自己批判しないかぎり、その体質は、引き続き、隠蔽・堅持されているのです。私の裁判は、仮処分申請段階〔第3の扉〕で却下されました。しかし、それまでの経過と結果は、宮本・不破・上田氏らが掲げる『自由と民主主義の宣言』の欺瞞的仮面を引き剥がし、隠蔽された実態としての、日本共産党の“市民社会との不整合体質”をさらけ出す役割を果たしました。
2、限界
〔限界1〕 法律知識
限界は、この裁判で、〔第4、本題〕専従解任の効力の「決定」内容にまで行けなかったことです。その理由は、私の勉強不足によるもので、雇用契約適用を主張しつつ、《仮定主張(それが認められないときは)》として民法の有償委任契約適用という二段階主張をしなかったからです。有償委任契約などということは全く考えもつきませんでした。仮処分決定がでるまで、民事訴訟法・憲法・民法等を猛烈に勉強しましたが、雇用契約適用は当然という単純な思考がありました。
そこから、9回・9時間の仮処分審尋段階では、県常任委員会と県勤務員との関係実態についての主張が、きわめて弱いものになりました。反民主主義的・上意下達式組織運営実態とそこでの具体的上下関係を、こちらから積極的に解明しませんでした。ただし、この努力不充分さの反省に立って、「本訴訟」では、それを徹底して、分析・主張する予定でした。よって、そこでは、この〔限界〕を克服できる筈だったのです。
また、それを弁護士、法律家の誰にも相談しませんでした。そのため、「有償委任契約」という契約条項適用の民法解釈がありうることや、「仮定主張」テクニックがあることを、教えてもらうこともできませんでした。弁護士に頼むお金がないことが基本ですが、一方、党内闘争を“垂直的に、かつ、たった一人の反乱”としてやったように、裁判も一人でやるという決意、実験精神が強かったといえます。なぜ“一人”にこだわったかというと、党内闘争を“水平的・横断的”にやれば、すぐ(旧)規約第2条8項違反か、分派活動で除名になるからです。『第6部』で書きましたが、驚くことに、専従解任事実のみを簡単に顔見知りの党員に電車内の立話で、話したことが、これまた伝わって、その行為が『不特定の人々に話した行為』とでっちあげられ、私の除名第2理由に正式に入っていたのです。これは、笑い話にもならないのですが、こういう規約の拡大解釈・でっちあげ適用を、宮本・不破氏は、今なお、やっていたので、“とことん一人でやる”という面もありました。
〔限界2〕 生計
この本訴訟は、不本意ながら、私側の生計上の理由から、第2回口頭弁論が始まる前に、《訴訟・取下げ》をしました。党中央が、『宮地・専従解任』を承認した時点で、その問題も含めた「党大会上訴」中にもかかわらず、県常任委員会は、生活費支払を打ち切りました。その後、1年4カ月間、妻の収入だけで家族4人、なんとか生計はやりくりしてきましたが、その間友人たちからの生活費不足分借金は80万円以上に増えていました。この額は、裁判開始当時40歳の専従毎月手取り10万円強の8カ月分になります。何人かから、貴重な支援カンパを頂いていましたが、それは生計の基本額を満たすものではありません。本訴訟は判決まで、仮処分申請の数倍の数年間という長期間かかります。毎月手取り10万円強レベルは、私の同年配友人たちと比べれば、1/3以下ですが、長期裁判中そのペースで借金が増えれば、生計が完全に破綻します。その理由から、やむなく私の側から訴訟を取下げ、妻HP『政治の季節』の『10年後』にあるように、小中学生向けの学習塾を始めました。今でもときどき、あのまま訴訟を続けていたら、どういう《判決》になったかと思うときもあります。しかし、その前に子ども2人を抱えた生計は破綻していたでしょうから、残念ですがやむをえません。
訴訟取り下げを連絡した友人で、裁判闘争と学習塾の両方できなかったかという意見もありましたが、2つとも初体験の作業で、そんな器用な「二足のわらじ」は履けませんでした。実際に、個人塾を、私一人でやった、最初の数年間の体験から振り返ってみても、それ自体、大変な再勉強、独自教材作りと営業努力のいる仕事で、裁判闘争との両立は、「二兎を追うものは、一兎も得ず」の結果になっていたでしょう。
5、学習塾開業
その後の仕事捜しは大変でした。特技、技術は何一つ持っていません。それどころか、逆に、「共産党専従というアカ」、42歳という年齢、50CCオートバイ免許のみ、「頸肩腕症候群」の病気後遺症持ちという「マイナス経歴」では、どうしようもありません。当時の『アルバイト・ニュース』など就職雑誌を数冊買ってきて、毎日にらんでいましたが、雇ってくれそうな職場はありません。
結局、専従を解任されたU氏と同じく、小中学生向けの「学習塾」を開く以外の“生計の道”は、見つけられませんでした。塾開業の経過と、子どもたちとの交流については、妻HP『政治の季節』、『子どもたちと』や、『インターネットことはじめ』にある、岩波書店『定年後』掲載文「おばさん先生の生き甲斐探し」に書いてあります。他の選択肢はなく、残された唯一の生計手段でしたが、私は、元来、子供好きで、塾授業や小中学生との交流にはすぐに慣れて、個人塾廃業までの21年間は、結構楽しく取り組むことができました。
6、添付資料・日本共産党『答弁書』と宮地コメント
〔小目次〕
1、被申請人名記述
2、第2の扉 憲法理論・主張 『決定』では、宮地勝ち・共産党負け
3、第3の扉 民法理論・主張 『決定』では、宮地負け・共産党負け
4、第1の扉 民事訴訟法理論・主張 『決定』では、宮地勝ち・共産党負け
『答弁書』の位置づけ 日本共産党中央委員会そのものが、刑事裁判でない民事裁判の場に、被告(被申請人)として“引きずり出された”のは、しかも、共産党専従によって提訴されたのは、日本共産党史上初めてのことでした。日本共産党『答弁書』は、国際共産主義運動史上初の裁判に勝つかどうか、門前払い却下をさせるかどうかに追い詰められた共産党が、その憲法・民法・民事訴訟法の理論・主張の本音を剥き出しにした内容になっています。その内容は、共産党が従来は隠蔽しつつ、堅持している法理論の公式見解として、長谷川「意見書」と並ぶ、“物的証拠”となるものです。ただ、これは、12ページと長いので、抜粋にします。
宮地コメント併記 双方が、膨大な、何回もの《準備書面》《疎明資料甲・乙》を提出しました。また、85ページの『仮処分決定』だけでなく、9回・9時間審尋の、数十ページにわたる《審尋速記録》もあります。それらは長すぎて、添付資料としては載せられませんので、『答弁書』(抜粋)にたいする私(宮地)の反論《準備書面》内容を、以下、ごく簡単なコメントとしてのみ並列して書きます。『答弁書』は、憲法・民法・民事訴訟法の理論・主張順になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――――
1、被申請人名記述
昭和五二年(ヨ)第一六五七号 答弁書
申請人 宮地健一
被申請人 日本共産党愛知県委員会
右事件につき、被申請人は左記のとおり答弁する。 昭和五二年一二月一〇日
被申請人代理人 弁護士 (3人連記と捺印)
名古屋地方裁判所民事第一部御中
(宮地コメント) 私の『申請書』記載の被申請人は、「愛知県委員会」とともに「日本共産党中央委員会」でした。仮処分『決定』でも、その2者になっています。それをこの『答弁書』は、前者1人だけにしています。この党中央公式見解が、何か問題になったとき、『中央委員会は、その内容になんら関与していない』という言い逃れの抜け道確保でしょうか。冒頭から、なんという姑息な「中央委員会」隠しの手法でしょう。
2、第2の扉 憲法理論・主張 『決定』では、宮地勝ち・共産党負け
二、(抜粋) 申請人はこの専従解任及びこれに伴う所属党組織の変更措置につき、その効力を争い裁判所に対し公権的判断を求めて本件仮処分申請に及んでいるものであるが、もともと専従解任のごとき政党内の任務変更は政党の完全な自律権に属する事項であって司法審査の対象とはならないというべきである
(宮地コメント) これは、私の専従解任の(1)任務変更側面のみを主張し、(2)「有償」による市民的権利側面を、市民社会常識、法曹界通念に反して、故意に無視しています。
三、(一) (全文) いうまでもなく国民主権によって立つ議会制民主主義は憲法の基本原則である。そして、政党はこの議会制民主主義の重要不可欠な担い手であり、憲法二一条の保障を受ける政治結社である。政党がその綱領路線に基づいて活動を展開するためには、党の統一的運営、内部規律の秩序について完全な自律性、自主性が保障されなければならない。もともと政党は国家権力から自由であるという憲法的保障の上に存立するものであるうえ議会制民主主義の最大の守り手とされている以上、党内の組織、運営に関する党内問題はすべて政党自身の自律的決定に委ね、公権力の介入を許さず司法審査の対象としないとすることは、まさに憲法上の要請である。
(宮地コメント) 私にたいする党中央批判への報復としての有償・専従解任は、党内問題にとどまらず、市民的権利侵害存否の法的問題となることを、『決定』は、常識として再確認ました。
このように議会制民主主義に重要な役割を担う政党は政治理念、政治信条を共通にし、これを体現する綱領、規約を承認するものの自発的参加による結集体である。この点において、政党は労働組合、その他一般結社と決定的に区別される。政党は他の結社とちがって政治理念の共通性、価値観、世界観の共通性をその生命としている。つまり政党は結社のなかでもとりわけ思想信条の共通性を生命としているものであり、言いかえれは憲法第一九条そのものを体現している。従って、これえの国家的介入法的規制はただちに思想、信条の自由への侵犯となるものであって断じてゆるされるものではない。それはただちに政党の存在そのものの否定につながるからである。また政党は綱領に指し示された政治路線、これを具体化した政策、方針を実践する活動が議会制民主主義の展開過程となるべきものであり、そして、そのためには党内政治的組織的任務と配置を含む統一的運営と自覚的規律の党自身による自主的貫徹が保障されなくてはならないのは当然である。因みに党員は一定の利害関係を求めて政党に加入し活動するものではなく、綱領、規約の同意を要件に、自覚的に参加し活動するものであり、ある党員の任務につき党のなした決定にはそもそも当該党員の「権利」侵害なるものはありえないのである。
(宮地コメント) これは、憲法・私的結社における「政党の特別地位要求・主張」であり、スターリン憲法理論と類似しています。『政党は、現憲法において、たんなる一私的結社にすぎず、なんら特別の憲法的地位を持たない』という憲法解釈に反するスターリン憲法的主張をしています。
三、(二) (抜粋) 日本共産党はいうまでもなく議会制民主主義を担う政党であり、規約上、明確に民主主義的中央集権制(民主集中制)を組織原則としている。この民主集中制は近代民主主義の基本的原埋である結社の自由に基づき、党の統一的運営と党員の団結を保障するために定めた自律的な原則である。(中略) これらの政党とちがって、日本共産党の民主集中制の組織原則は、最高度に発達した組織原則であり、それはおよそ政党の本質に根ざす要請を科学的に理論化したものにほかならない。
(宮地コメント) この1978年時点では、全世界のレーニン型前衛党が、自党の組織原則を、このように『最高度に発達した組織原則、科学的に理論化』したものと自我自賛規定をしていました。2001年では、そのうち、10カ国で一党独裁国前衛党が、この反民主主義的・上意下達式組織原則とともに崩壊し、資本主義ヨーロッパでは、ポルトガル共産党をのぞくすべての共産党が、『民主主義的中央集権制という組織原則は誤りだった』として放棄しています。
そして党内に異論をもった時点で申請人はこの規約に定められたあらゆる権利を行使したこと、その行使を何人によっても阻害されなかったことは申請人の主張自体にてらして明白である。その異論を党の最高機関である党大会にまで上訴できたことは申請人本人の認めるところろである。それが却下された以上、彼はそれに従うなり、離党するなり、申請人がとるるべき道は自由に開けているのであって、党内にあったにもかかわらず、これを党外、とりわけ国家権力に判断を求めるのは、結社の自由とそれにおける政党の特別の地位への乱暴なじゅうりんである。かくて、政党の自律権の行使には司法審査が及ばないものであることは明らかである。
(宮地コメント) この『政党の特別の地位』主張を公然としています。これは、恐るべき“改憲解釈”の反憲法理論です。また、「党大会上訴」無審査・無採決・30秒却下という党員権侵害・じゅうりん実態をどう考えているのでしょうか。
三、(三) (抜粋) 申請人の県勤務員解任、これにともなう県勤務員支部から点在党員への所属党組織の変更措置は被申請人の自律権に属する党内組織問題であり、司法審査の対象とならないものであることは明白である。
3、第3の扉 民法理論・主張 『決定』では、宮地負け・共産党負け
四、(抜粋) 被申請人、申請人間には労働基準法が妥当する労使関係は存在しない。(中略) 日本共産党の専従者はすべてその生命、生活の全てを結社の目的実現にむかって捧げていくことを当然の任務としている。この専従者に対する「給与」は、党組織の構成員の党費や拠金などによって、専従者の任務遂行を物質的に保障するための活動費である。したがって被申請人、申請人間に労働基準法の適用のないことは明らかである。以上にわたる明白な理由にもとづき申請人の申請はまったく根拠のないものである。
(宮地コメント) この『労働基準法適用否認』を主張した場合、裁判長が何度も質問しましたが、『それでは、専従はどの法的地位を持つのか』に何一つ答弁しませんでした。となると、党中央は、4000人専従を、レーニンの「職業革命家」理論と同じく、“ブルジョア国家の法律に拘束されない、超法規的人間”と位置づけていることになります。「有償」4000人にたいして、不当な報復解任をしても、そこに憲法・市民的権利を認めない“反憲法・反市民社会結社”の本性をむき出しています。もっとも、『有償委任契約者の法的地位』という屈辱的主張などは、口が裂けても言えなかったでしょうが。
4、第1の扉 民事訴訟法理論・主張 『決定』では、宮地勝ち・共産党負け
四、(抜粋) 申請人は昭和五二年十一月三〇日党規約によって除名されすでに党員資格を喪失している。よって申請人主張の被保全権利は不存在であるから、申請人の本件仮処分申請を却下することを求める次第である。以上
(宮地コメント) この『裁判請求権行使を理由とした除名』による仮処分申請却下を、よぐぞ主張できるものだと感心します。この理由による除名行為と、それによる民事訴訟法での被保全権利剥奪目的行為は、まさに前代未聞の反憲法犯罪でした。日本共産党中央委員会は、このような反憲法・反市民感覚の持主であることを自ら暴露しました。
第8部で完結 以上 健一MENUに戻る
(関連ファイル) 日本共産党との裁判
第1部『私の21日間の監禁査問体験』 「5月問題」
第2部『「拡大月間」システムとその歪み』 「泥まみれの拡大」
第3部『宮本書記長の党内犯罪、中間機関民主化運動鎮圧・粛清』
第4部『「第三の男」への報復』 警告処分・専従解任・点在党員組織隔離
第5部1『宮本・上田の党内犯罪、「党大会上訴」無審査・無採決・30秒却下』
第6部『宮本・不破反憲法犯罪・裁判請求権行使を理由とする除名』
第7部『学者党員・長谷川正安教授の犯罪加担、反憲法「意見書」』
第7部関連長谷川教授「意見書」
『長谷川「意見書」批判』 水田洋、「大統領」、中野徹三、高橋彦博