村上電業株式会社【プラスチックの加工屋です】

品名:インサートパイプの材料の選定

***使用環境***
*** 推論 ***
*** 結論 ***

 本件のインサートパイプの素材としては金属製でも使用可能と考えられていまして、実際に対抗メーカーでステンレスを使用している例が確認されております。

 しかしながら1台に使用する数量が500個と金属(ステンレス)の加工品としては比較的数量が多いため量産性を考慮することが重要な要素となります。500個と言う数量はプラスチックの量(成形品を作成)としては多くはないがその他の生産方法と比較して優位性があると考えらます。

 こうしたことからプラスチックの使用が望ましいと考えられ以後プラスチックのみ考慮することにする。またPEI、PBTといった材料を使用しているメーカーもあることも確認されている。そこでステンレスもPEIもPBTそこそこ使えていると仮定して話を進めることと致します。

 またプラスチックは大きく分けて80種類ともいわれるほどたくさんの種類があり、一時期の日本においてこの80分の1であるところのPPの品種が9000種類を越えていたと日本経済新聞にあります。どうしてこのようにたくさんの品種があるのでしょう。

 理由の一つはプラスチックは有機高分子材料であり、分子量、ポリマーの種類、充填材、混合技術、などにより要望される品種が製作可能であることです。ですが、なんといってもお客様の硬くして欲しい、柔らかくして欲しい、耐薬品性をあげて欲しい、印刷を乗りやすくして欲しい、といったさまざまな要望に応えてきた結果であることは疑う余地がないと思います。

 このことはある程度数量をまとめていただければ特定用途向けの素材を製作することも可能ということ意味しており現にこうした品種もたくさん存在します。またこのことは同じ樹脂でも種々の特性は違うことを意味し、PPと書いてあってもPPという樹脂が存在すると考えずにPPという樹脂の集団が存在すると考える以外にないことになります。

 ABSはアクリニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合体ですが変形温度も60度から120度までと幅の広い品種が存在しております。まさしくABSという集団があると考えるしか方法はないと思われます。

 プラスチックにはPPなどに代表されるように一定以上の熱を加えると変形することができる熱可塑性樹脂とベークライトに代表されるように一定以上の熱を加えても溶融することのない熱硬化性樹脂がありますが、本件のインサートパイプに関しては後で述べる耐摩耗性などを考慮し熱硬化性の樹脂は除外して考えることにします。

 PEIはステンレスの表面を洗浄する際に使用される溶剤に割れを起こすことが確認されたのでここでは排除して考えることにします。

 PBTは成形収縮率が0.5%とLCPの0.05%に比べて大きく寸法の安定性に疑問がありさらに加水分解の可能性もありここでは排除して考えることにします。

 さらにプラスチックにはガラス繊維やフッ素樹脂などを混入させたりして特性を高める方法が良く知られています。ですが、プラスチックの比重がおおむね2以下であるのに対してガラス、炭素繊維、タルクといった強化剤は3以上であることが多く、均一に混在させることが難しく、また分子量などの調整など技術を要することから、原材料の製作会社が存在するのみでなく、混練のみ施して自社の製品として販売しているメーカも多数存在しておられます。

 本件のインサートパイプを加工するには丸棒から削り出すなど幾つかの方法が考えられるのですが、量産のしやすさ、材料の品種の豊富さから考慮して今回は加工方法として射出成形を採用することにしこれ以外は考慮の対象としないこととします。

*** 使用環境 ***

 大きくて厚いステンレス(おおよそ幅400mm長さ3000mm厚み100mm)の板におよそ500個あいている穴におのおのインサートパイプを圧入した後ステンレスと面を同じになるように研磨して後、洗浄液で洗浄してからフッ素樹脂を塗装して後、薬液に浸して使用します。

◎使用される洗浄液
フッ素樹脂の塗装業者の説明によると洗浄液の成分は下記の三つの成分です。(参考資料-2)。

洗浄液成分
ジクロロメタン 40%(塩化メチレンと同義語)
キシレン  30%
トルエン 30%

俗にシンナーと言われるものです。シンナーとは塗料などを薄めて使用するための薄め液、希釈剤のことをいいます。

 塗料を薄める、つまり溶かすことができるので、溶剤ともいわれています。また金属の表面に付いた鉱油などを溶かして落とすことができるためにフッ素樹脂の塗装の前処理としてこの溶剤を洗浄剤として使用したのだと推察できます。

◎使用される薬液
 水、弱酸、弱アルカリの三種の混合液約1リットルに厚み0.1㎜、幅10㎜長さ10㎜程度の紙が混在している。この紙の量はとても少ないと考えられほとんど水が流れているように見える。この紙の混合された薬液がインサートパイプの内径10㎜の部分を最速で5m/secで1週間ぐらい連続して通過する。(こうした使用状態はお客様の お話を拝聴し雰囲気がわかる為に記入したものであり、必ずしも現実とは一致しないことが想像されるが、概ねプラスチックから見た状況は現実と大差がないと仮定します。)
◎使用される温度
 温度の上昇は70度までと仮定します。汎用のプラスチックは使用温度が60度といわれておりこの説を採用しますと使用される温度から考慮しますと汎用プラスチック 以外であれば良いことになります。このことは耐熱性を優先する必要はないことを意味します。しかし薬液が70度になる環境はきわめて過酷で作用は強力であることが予想 され温度と薬品を加味した材料の選定が重要な要素となります。
◎耐薬品性
 使用される洗浄液、紙が混在している薬液に対して十分な耐性を持つことが要求されます。スチレン系の樹脂は耐薬品性は弱くエチレン系の樹脂は寸法の安定性に疑問があるのでここでは除外します。結晶性の樹脂は耐薬品性に優れ、非晶性の樹脂は耐薬品性に劣るので結晶性の樹脂の採用を考慮する。シリコン系の樹脂は熱硬化性が上市されているが、耐熱、耐薬品性、弾 性率などは高い安定性を持っているが、脆い側面を持つのでここでは除外します。フッ素樹脂系の樹脂は耐熱、耐薬品性に優位性を持つが柔らかく、寸法の安定性に疑問があるのでここでは除外します。こうして考えると結晶性樹脂が有望であることになります。(ただしスチレン系の結晶性樹脂も存在するのですが耐薬品性は結晶性の樹脂に及ばないのでここでは考慮しない こととします。)機械本体を取り替え作業もしくは洗浄にアルカリ性の薬品を使用しているとの話もありました。(どのように使用されるか想像が難しい)何物にも侵されない金が侵される王水(濃塩酸3濃硝酸1)という考え方もありますので具体的な薬液で確認作業を行う必要があることはいうまでもありません。
◎耐吸水性
 水や薬液を吸水に対して十分な耐性を持つことが要求されます。
エチレン系の樹脂である、ポリエチレン、ポリプロピレンは吸水率が小さいとされているが、寸法の安定性に疑問があるのでここでは除外します。
◎耐摩耗性
 紙が薬液と共にかなりの早さで通過するわけであるからこの紙がインサートパイプを摩耗させることは容易に想像できます。紙が通過するわけであるからこの状態はバフ掛けを行ったのと似た作用と考えることにしてバフを掛けて試してみることにする。現在PEIもそこそこ使用に耐えていると考えてPEIよりも耐摩耗性良いものを採用することにすることにします。
◎寸法の安定性
 大きなステンレスの板に開けられた穴に圧入して用いるわけですから、縮むなどして、抜けてきては使用に耐えないので耐性のあることが材料には望まれます。インサートパイプの外径を少し大きくして圧入しステンレスとの抵抗を大きくして抜けを防止するように設計してはあるのですが、クリープ現象などにより変形が極力少ないことが材料には望まれます。
◎気泡について
 研磨してのち使用するわけですから製品の頭の部分に気泡のないことが望まれます。射出成型品は気泡を巻き込み易いために材料の選定、製品の設計が重要な要素になります。
◎エンジニアリングプラスチックの概念
 機能性樹脂といった言い方もあります。エンジアリングプラスチックの対称の概念として汎用プラスチックといった言い方もあります。貴金属といわれる金属は例外なく高価です。必然的に使われ方もどうしてもこの金属でないと使用できないといった場所に使われることになります。エンジアリングプラスチックもこれに似て用途が限定されることになります。

*** 推論 ***

 耐薬品性には結晶性樹脂が望ましく、寸法の安定性には非晶性の樹脂が望ましい、耐吸水性に関しては結晶性の樹脂が望ましい、結晶性樹脂であり、耐熱性ではエンジニアリングプラスチックが望ましい、耐摩耗性では結晶性の樹脂が望ましい、など総合して考えますと、汎用のプラスチックではないエンジニアリングプラスチックの部類に入る結晶性であるPPSもしくはLCPの採用が適当だと思われます。そこでPPSとLCPについて考察してみます。(PPS、LCP共に豊富な品種を持つため考慮する必要がある)
LCP液晶ポリマー
 この液晶ポリマーには熱溶融型と溶液型がありますがここでは成形が可能な熱溶融型を意味します。結晶性の樹脂であり、常温に於いて溶解する有機溶剤は見つかってい ないとされています。有機薬品、無機薬品に対しても強い耐性が期待できます。本件のインサートパイプ使用の条件下では耐薬品性は十分期待できます。しかしながら縮合型のポリエステルであるため強度の水蒸気や極端な高温高濃度のアルカリ性薬品水酸化ナトリウムに耐性を持たないので注意を要します。成形時に分子の鎖が配向するため、弾性率が大きい、線膨張が樹脂の中ではきわめて小さい、こうしたことからインサートパイプに求められる寸法の安定性を満足できると期待できます。吸水率は0.1位と推定されるので現在使用中のPEIが0.25位と推定すると使用には耐えると推定できます。
PPSポリフェニリンサルファイド
 結晶性の樹脂であるPPSには架橋型と直鎖型とがあることが知られています。架橋型は脆く割れやすいのここでは考慮せず、除外します。よってここでいうPPSは直鎖型を指すことにする。現時点で200度以下でPPSを溶かす溶剤はないとされている。塩酸、硫酸、苛性ソーダにも耐性を持っており常温で侵す薬品はないとされる。しかし熱濃硝酸には耐性を持たないとされています。吸水率も0.02ぐらいとPEI0.25比べ小さく十分使用に耐えられると推定できます。
◎注意書きとして伝える
 PPSを採用すれば熱濃硝酸に耐性がなく、LCPを採用すれば高温高濃度のアルカリに耐性がないことをお客様に伝える必要があるかもしれません。ですが、お客様のお話を拝聴し想像しますにこういった強い酸やアルカリは本件のインサートパイプが使用される場所には存在していないようなので確認作業だけ行えば良いのかもしれません。

*** 結論 ***

  • アルカリ性の薬品で洗浄する可能性があることを考えますとPPSが優位
  • 酸性の薬品が存在を考えますとLCPが優位
  • 成形のしやすさから考慮するとLCPが優位
  • 耐摩耗性を考慮するとPPSが優位
  • 圧入して使用することを考慮するとPPSが優位
  • 耐溶剤性を考慮すればPPSが優位
  • 気泡を考慮するとLCPが優位
  • 吸水性を考慮しますとほぼ同等