09 マニュアル事例-小売・外食論
私は,1980年代から90年代の初頭にかけ,当時躍進を極めていたチェーンストア数社のマニュアルづくりを請け負いました。その際,各社に共通したマニュアルの作成目的は,「本部は考える人の集まり」,店舗は,「体を使う人の集まり」である。本部の指示・指令を問答無用で受け入れる体制づくりの一環,「絶対唯一の決めごと」としてマニュアルを作りたい,ということでした。これら企業は,いま,往時の破竹の勢いをなくし,業績低迷にあえいでいます。バブル経済の崩壊,人口減少の市場縮小,さらには競争激化という外部環境の厳しさもありますが,営業の第一線にたつ社員を単なる兵隊――考えない人――とみなした経営のつけが今日の苦境を招いたとの思いを深めています。これに加担した自らの不徳を質したいとの念も強いものがあります。
8−1 マニュアル至上主義からの転換
チェーンストア経営をとる小売業や外食産業では,チェーン・オペレーションとも呼ばれる本部主導の標準化された店舗運営のしくみを作り上げています。 それは,パート・アルバイトや新入社員など非正社員でも仕事をこなせる仕組みであり,ローコスト・オペレーションとも呼ばれる低コスト運営を目論むものです。
いま,チェーンストア業界ではこれまで「標準」「マニュアル」の意味を取り違えていたとして,マニュアル見直しの動きも見られます。それは,「“標準”本来の意味は,“決め事”作りと,関係者間の納得づくの周知徹底にある。現実は,『理屈抜きで,こうしろ』との高圧的な押しつけとなっている」という点です。 「マニュアルは,作業のやり方の統一基準を文書化したものであるが,決して従業員各自の創意工夫を全面否定するものではない。しかし,現実には,従業員の臨機応変な対応――アドリブ――を許さない画一主義に陥っている」というわけです。
これでは,従業員のやる気を引き出すことはできません。これでは,顧客満足向上を唱えても,「笛吹けど踊らず」という状況を招きます。
こうしたことから,小売業界では,これまでのマニュアル至上主義,あるいは唯一主義ともいえるマニュアルを絶対視した考え方からの転換が進んでいます。
8−2 しまむら−マニュアル活用経営
個人の知恵を加え,臨機応変に仕事に取り組むためのガイドといった役割でマニュアルを使いこなし,成果をあげている企業に2000年2月期決算でアパレル小売業として2000億円企業入りを果たしたしまむら(全国に約850店舗)があげられます。同社は85%という高いパート比率で高収益をあげている企業でもあります。ごく普通の主婦を戦力化し成果を納めている要因の一つに,マニュアル活用にあります。
しまむらでは,パート・アルバイト活用の仕組みづくり」に,作業マニュアルが必要不可欠なツールとして組み込まれています。その内容は,「このようにせよ。こうすれば間違いなく仕事の成果が上がる」といった一方的な押しつけではありません。現場の担当者の改善提案や創意工夫を取り入れ,改訂に取り組むという働く人の創意工夫を生かし引き出すという運用体制がとられている点に大きな特徴を持ちます。
しまむら流経営を紹介する書籍としては,『ファッションセンターしまむら逆転発想マニュアル―驚異の低価格・高利益のマジック商法 』,ユニクロvsしまむら―専門店2大巨頭圧勝の方程式 があります。
▼ベストプラクティス−優れた仕事のやり方に学ぶ 「できる人」の仕事ぶりを見ていくと,何かと参考となる点,教えられる事が多いものです。 仕事には教えてもらって習得する技能やマニュアル本的な知識による対応のほかに,何となく他人の仕事を素直にマネしたり,表現は悪いが「盗み見る」ように学ぶ部分があります。
新しい仕事の対応に困った時など,自然とほかの人ならどうするだろうと,仕事のやり方をマネしたり,同じ仕事をしていても上手にできる人がいたら,どうやっているのか気になって参考にするものです。
そんな時こそ,「できる人」の仕事のやり方を観察して学ぶと得るところは他です。観察の着眼点の1つに,時間の時間配分,使い方にあります。あの人はどうやって仕事しているのかなと気になったら,その人の仕事の手順とともに,時間配分を観察してみましょう。
8−3 イトーヨーカ堂の考え方
マニュアルの多くは,作成者の期待に反してあまり使われていません。「読みづらく,見づらい」「知りたいことがどこに書いてあるか見つけづらい」といった理由もありますが,多くの場合,「上位部門または専門部署が作った現場の実状にそわないもの」といった,お仕着せであることにあります。
マニュアルの役割の一つに,“組織内の標準的な取り決めの文書化“といった機能がある。そもそも「標準」とは,一方的な押しつけではく,組織内の合意,納得という意味を持ちます。この点への配慮が欠けると,使用者の共感を得られず,お蔵入りとなりかねなません。 イトーヨーカ堂は,本部作成ではなく,各店舗,各担当者がパートやアルバイト向けマニュアルを手作りし,それを使っての教育で成果を上げています。担当者各自が,マニュアルを作っても,全社的な統制,標準化は図られています。その仕組みは年間数億円の経費をかける店長会議にあります。
各店の管理職を毎月本部に徴集し,会長自らが経営方針や店舗運営の具体策を繰り返し説くとともに,実行結果をチェックし,詳細な指示を下すというわけです。この店長会議の議事録がイトーヨーカ堂の,全社員合意の絶対唯一のマニュアルとして機能しているのです。ユーザーズ・マニュアル(User’s
Manual)とは,パソコンやコンピューター周辺機器などのハードウエアと,アプリケーション・プログラムなどのソフトウエアの使用方法や操作手順に関する取り扱い説明書を指します。ユーザーズ・マニュアルは,ハードウエアやソフトウエアを利用者(ユーザー)に使いこなしてもらうための道案内,あるいはシステムや機械とそれを使う人間との橋渡し役を担います。
なお,ユーザズ・マニュアル作成の前提として,ユーザーの要望をとりまとめたシステム要件書,システムやソフトウエアの機能をまとめたシステム仕様書,プログラムの動作を記述したプログラム仕様書,プログラムテストとそのデータを詳述したテスト仕様書といったシステム開発関連のドキュメント類の整備も求められます。
8−4 マニュアル至上主義からの転換 (編集中)
>>>〜アルバイトの笑顔はマニュアルからは出てこない〜
日本マクドナルドでは、現在6000人の社員と13万人のアルバイトがいる。圧倒的にアルバイトが多い。それだけに、マクドナルドではアルバイトの教育に力を入れている。
同社のトレーニング・教育担当者の言によると「マニュアルなんかほとんど覚えてない。といったらおかしいですけれども、マニュアルには最低限のことしか書いていないのです。仕事中になにか問題が起きたときやなにか意思決定するときに、マニュアルを検索して参考になるものを探し出す。これがマニュアルの役割です。たしかに、入ってすぐの頃はマニュアルで仕事を覚えてもらいますが、後はできるだけ自分で考えてということ」と,語っている。
マクドナルド=マニュアル教育、と考えていては、同社の本質を理解することはできない。
出典:日本マクドナルドの「知られざる経営」その2 〜アルバイトの笑顔はマニュアルからは出てこない〜
*元気印企業の経営戦略に学ぶ −−富士通−−
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1 内容−テーマ
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◆アドバイス ・マニュアル診断(現在使用中のマニュアルの使いやすさ・妥当性など)
2 条件
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◎略歴−小林 隆一
1943年生まれ。産業能率大学講師,鹿児島国際大学教授を経て,現在経営コンサルタント。『マニュアル作成の実務』評言社刊,『マニュアルのつくり方・生かし方』PHP研究所,『「身の丈」を強みとする経営』日本経済新聞出版社刊,他著作多数。
日経文庫ビジュアルシリーズ−
『流通の基本』(日本経済新聞出版社刊)が4版が3刷となりました。 第1版を1994年7月に刊行し,世紀をまたぎ,今年で17年目のロングセラーとなりました。延べ発行部数も十数万部と,多くの方々にお読みいただき,感謝の気持ちで一杯です。特に大学で「流通」あるいは「マーケティング」のテキストとして採用されている事,著者としては望外の喜びです。
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