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マニュアル(Manual)講座   −−新版作成中−−

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11 マニュアル文章の書き方

「読みにくく,見づらいいマニュアル」は、結局なにも伝えられない

 マニュアルに対して読者者(使用者)が持つ不満に,「どこに書いてあるかわからない」という“わかりにくさ”と,「書いてあることの意味がわからない」という,“読みにくさ”にあります。

 こうした不満の解消には,@知りたいことが書かれてある,A書いてあることの意味がすぐに理解できる,B知りたいことがどこに書いてあるかすぐにわかる,の「わかりやすさ・見やすさ」に向けての工夫が求められます。

 なお,マニュアル文章の「わかりやすさ・見やすさ」のポイントは,@主語と述語の明確化,A曖昧さの排除(イエス・ノーの明確化),B時間軸がはっきりさせる,の3点です。 


  ◆わかりにくいマニュアル文章−−わかりにくさの原因

   ・一つの文(センテンス)に2つの事柄が書かれている
   ・「そこ」[あそこ」といったわかりにくい指示語が使われている
   ・回りくどい文章表現
   ・「○○参照」といった参照文が多い

         

5−1 わかりやすく,読みやすいマニュアル文章

 わかりやすいマニュアル文章の大前提は,読者の知識,技能に合わせた書き方にあります。そのポイントは,次の3点です。なお,利用者(読者)層を特定できない場合は,利用者は初心者レベルであると仮定し,かみ砕いた文章表現とします。

・企画・設計段階で読者像を想定する
    ↓
・読者の知識・技術レベルを想定し,専門用語の使い方は読者の知識・技術レベルで理解できる水準・内容とする
    ↓
・一般的でない専門用語,社内用語は,最初に使う箇所で,詳しく説明する


 

@ Simple is bes −−1センテンスは35〜55文字程度

 「,,」を読点(くとうてん・とうてん),「。」を句点(くてん)といいます。この句読点は,文章を読みやすくする,書いてある事の意味をとりやすくする,という役目を持ちます。
 
 「文の書き出しから,文末の「。(句点 くてん)」までの1つのセンテンスの長さに,特に基準,制限はありません。また,伝える内容により,一文の長さは変わってきます。
 しかし,1文(センテンス)が長文になると,読者は読み進むにつれて,文章のはじめの部分を忘れてしまったりして,意味が読みとり難くなります。対して,文章を短くすることによって,読み手の集中を促します。 とはいっても,短い文章がいくつも続くと,ぶっきらぼうな感じを読み手に与えます。

 なお,一般的には,1センテンス35〜55文字程度の文が読みやすいといわれています。  Simple is bestです。文章の書き出しから,文末の「。」までの一つのセンテンスのなかにあれも,これもとつめこむのではなく,1つの事柄だけを書くようにします。

接続詞の種類と用法

 接続詞の使い方に注意を- 「そのうえ」,「さらに」,「しかし」など,接続詞で文章をつなぐと,めりはりのない文章になりかねません。

  • 原因と結果をつなぐ−−−「だから」「したがって」

  • 反対の内容をつなぐ−−−「けれども」「しかし」

  • 同じ内容を並べる−−−「また」「あるいは」

  • 前の内容につけ加える−−「しかも」「さらに」

  • 新たな内容を示す−−−「もしくは」「あるいは」

(,,)読点(とうてん)の使い方−は,1つの文の中で,文の組み立てや語句の切れ目を明瞭にするため打つ符号です。主語には原則として読点(,,)をうちます。こうすることによって主語と述語の関係が明確となり,読み手の意味の取り違えや,読み誤りを防ぎます。

A 漢字とかなの割合は3対7を目安とする

 漢字とかなの比率は,読みやすさを左右する大きな要素です。漢字の多用は堅苦しい文章となりがちです。文章中の漢字の割合は3〜4割を目安とします。

  • 「漢字1つに,かな2つの割合」を,目安にする

  • 代名詞(いつ,だれ,どこ)は,平仮名表現とする。例外として(彼女,彼,何,私)については,漢字を使う

  • 接続詞(ただし,ならびに,または),助詞(〜くらい,〜まで),助動詞(〜できる,ください)などは,平仮名表現とする

  • 名詞以外のものを修飾する副詞(ついに,ますます,ふたたび)は,平仮名表現とする。例外として,(大いに,少なくとも,主に)ついては,漢字を使う。

平仮名と漢字のつかい分けの例

 代名詞,連体詞,接続詞,感動詞,助詞,助動詞,補助動詞,補助形容詞,形式名詞は,ひらがな書きを主体とします。

いう →

指定・伝聞を示す(連語)

ここでいう規格とは

言う →

発言を示す(動詞) 

使用目的を言う

〜こと →

抽象的なもの・現象(抽象的な現象を表す名詞がは形式名詞です。形式名詞は平仮名で書きます)

エラーが発生することがある

〜事

具体的な現象

このようなが起きた場合には

とき → 

抽象的な現象(抽象的な現象を表す名詞がは形式名詞です。形式名詞は平仮名で書きます)と

・上位機種に移行するときには
・出席できないときは・・・・

場合

限定的条件,仮定的条件を引用
して条件を示す

このような事が起きた場合には

時   →

時期・時刻を明確化−ハッキリ示す

・運用を開始したから
・若い

もの →

抽象的なもの(抽象的な現象を表す名詞がは形式名詞です。形式名詞は平仮名で書きます)

・・・・省略されたものとする
・・・・したものとみなす

→者

人,または法人を対象 

18歳未満の

→物 人,法人以外の有体物 持参する
→から 時,所についての起点 大阪から京都まで
・3月1日から実施
→より 比較限定を表すときだけ用いる
(起点を示す場合は,からを持ちいつ)
・彼は私より年上である





5−2 利用者(読者)の知識・技能水準に合わせた文章表現

 利用者の知識,能力レベルに合わせてマニュアル文章を書くようにします。 なお,利用者の知識,能力レベルが不明の場合は,読み手は関連知識を持たない初心者レベルであると仮定し,最低水準を想定して,できるだけわかりやすい言葉・用語を用います。

  • 専門用語の使い方は,読み手の知識・技術水準に合わせる

  • 一般化していない専門用語の使用を避ける

  • 専門用語や社内用語などは,最初に使う箇所で説明をつける

  • 専門用語,社内用語には読み仮名をつける

  • 抽象的な表現を避ける−事例,数字などで事例を示す

5−3 マニュアルの種類,使用目的によって文体を使い分ける

 マニュアルへの信頼感や親近感を決める要素の1つに,文体があります。「である調」は,事実を正確,簡潔に歯切れ良く表現するのに適した文体です。ただし,読者に高圧的,威圧的で押しつけがましいといった不快な印象を与えかねません。

 対して,「です,ます調」は,冗長で間延びした印象がある反面,読み手が親近感を持つ表現であることから,読み手の動機づけ,共感を得るのに適しています。
 こうした文体の特性から,解説,説明部分は,語りかけるような「です・ます調」とします。そして,操作手順,指示事項は「である調」で簡潔に言い切るといった工夫が,読者の共感,理解を促します。

 ただし,ひとつの文章の中に「です・ます」文体と「である」文体を混ぜることは避け,文体は統一します。

「である」調のメリット・デメリット
  メリット:簡潔表現,文章の意味が的確に伝わる
    適用−操作手順,作業手順,禁止事項などの記述に適する
  デメリット:高圧的・威圧的との感を与えかねない

「です・ます」調のメリット・デメリット
  メリット:親しみ,共感を呼ぶ表現
    適用−解説文,説明文
  デメリット:冗長な文章となりやすい,文意が明確に伝わりにくい

*丁重な言葉使いは,英語にもあります。
  Open the window, please.
         ↓
    would you mind opening the window?

5−4 分かりやすい文章−−文章の組み立て方

 物事をおおづかみにつかんで,まとめた文章にすることは大変難しいことです。特に,仕事の手順のように連続して起きる動作・事象をキチンと文章に仕上げるには,工夫が必要です。

@1つのセンテンスに一つのことだけを書く

 Simple is bestです。文章の書き出しから,文末の「。」までの一つのセンテンスのなかにあれも,これもとつめこむのではなく,1つの事柄だけを書きます。

A重点先行型で書く−結論,全体像を先に書く

 マニュアル文章では,「全体像」から切り出すという,「重点先行型」の書き方が読みやすさ,わかりやすさからの面から適しています。
 説明文を書いてから,最後に結論を示すという文章構成は,まわりくどさから,マニュアル文章には適しません。冒頭で結論や重要な事柄を書き,引き続きその論拠を記述するというトップダウン方式の文体の方が,読み手にとっては結論やポイントを容易に理解することができます。同時に,必要な箇所だけを拾い読みすることも可能となります。 最も強調したいこと,あるいは結論や重要な事柄は何かを見極め,それを文章の重点として冒頭に早めに打ちだします。

全体像から入り部分的な記述に移る
 文章組み立て方には,各論を述べ,それを基にして総論を導き出すボトムアップ方式,最初に総論を述べ,これを論証する形で各論の説明に入るトップダウン方式があります。

トップダウン方式で書く
 わかりやすく伝えるためという点からは,「全体像」から切り出すトップダウン方式が適しています。

B主語と述語の位置が近いほど,わかりやすい文章となる

 仕事の手順,操作方法などに,順序に関しては,主語と述語の対応をとり,事実関係を明らかにします。主語と述語の位置が近いほど,わかりやすい文章となります。

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C「なぜ,そうするのか」−理由を明記する

 操作方法や処理手順については,手順や方法を記述するだけではなく, 

  • なぜ,そうするのか

  • なぜ,そうすべきか

 といった,理由,根拠を併記することにより,読み手の納得,理解が深まります。

5−5 文章表現上の工夫

  「・・・等」といった言葉は,含みを持たせた意味で使われます。この他にも「・・・と思われる」といった断定を避けた言い回しは,当事者にとって極めて便利な言い回しであることから,ビジネス文書では多用されています。
  とかく物事は予定通り,筋書き通りには運ばないものです。そこで,「・・・です。」と断定口調ではなく,「・・・と思います」と,語尾をあいまいにぼかすした方が,後々,何か起きたときいい訳けがしやすい。こんな理由から,「・・・思います」が重宝されています。
 また, 「〜したいと思います。」とは,“そうしたいとは思っているけれども,できるかどうかは定かではありません。あるいは,「100%の約束,または断定はできない」,さらに,「この事に関して,そう思うけれど責任までは取れない」といった責任回避のニアンスを含む,あいまい表現でもあります。

 断定して言いきることにためらいがある時,自分の意見に確信が持てない場合,つい「思う」をつかいがちです。その結果,文末のほとんどが「思う」になってしまいます。

 しかし,こうした言葉は,曖昧かつ正確さを欠くところから,マニュアルではその使用を避けるべきです。

@抽象的な言葉を避ける

 問題,検討,確認,改善,処理,対策,指導,向上,管理,徹底,点検,調整,編集といった,広範な意味を持つ言葉の使用は避け,具体的表現をこころがけます。

A現在形で書く

 操作マニュアル,業務手順書など,作業中(業務遂行中)に使用するマニュアルについては,現在形の文章表現とします。これにより,読者(ユーザー)は時間軸がはっきりし,同時感覚を持ってマニュアルを読むことができ,理解度が高まります。

 「実行キー」を押すと,EDITION−1の先頭画面が指示されます。

B能動態で書く

 「…複写され,…管理される」といった受動態ではなく,「…複写する,…管理する」と能動態を使うと,主体がはっきりし,意味がとりやすくなります。時間軸をはっきりさせる意味からもマニュアルでは,受身形の文章はなるべく書かないようにします。


 ユーザーが,SAVEコマンドを指定すると,デスクトップに表示中のテキストは,ファイルに保存されます。
     ↓
 ユーザーが,SAVEコマンドを指定すると,デスクトップに表示中のテキストは,ファイルに保存できます。

C文章表現の統一

 表現の質を高めるとの観点から数字,かな遣い,記号,外来語などの使い方と表現方法のルールを定めます。
              
1 数字の書き方を統一する 
 マニュアルの場合,一般的には固有名詞や熟語などを除いて,算用(アラビア)数字<1.2,3……>を使います。
  例)単2乾電池3本,4番目のボタン

数または数値に意味のある場合は,算用数字を使う  
 例)・・・・,第一の問題点は・・・"という場合は,第二,第三と続く可能性があることから,『第1』と算用数字を使うのが妥当です。
 例)毎月十五日に実施します。 → 毎月15日に実施します。
2 漢数字を使用
 次のような場合は,漢数字を用います。
  概数を示す:数十回,数百人,数キロ など。
  紙幣,貨幣:一円玉,一万円札 。
  熟語:一連の,一流の,一部,四捨五入,四輪駆動,二重価格
  固有名詞:二重橋,四日市,五線譜など,地名,人名,固有名詞の場合。
  ヒト・フタ・ミなどと読む場合:「一昔前」「三つ子」など。


5−6 句読点,記号・符号

 電子メールや携帯メールの普及で,「記号・符号・しるし」といった記号類は,新たな意味・用法を生みだし,「漢字/平仮名/カタカナ/アルファベット」に続く“5番目の文字”として市民権を獲得しつつあります。インターネットを媒体とした書籍や携帯小説などの普及は,こうした動きを加速させています。

 記号類を使い,文字の記述では伝えきれない感情やニュアンスを表現するばかりでなく,芸名や書名などの固有名詞に「記号・符号・しるし」を使用して個性をアピールする例も見られます。こうした使い方は,今後一段と盛んになると予想されます。

 しかしながら,その使い方は,これまでの記号類の標準的な使い方から逸脱しているものも少なくありません。記号類には本来備わった意味・用法があります。それを理解知って使いたいものです。
   


記号類−−句読点,記号・符号−−の使い方
 そこで,『記号類−−句読点,記号・符号−−の使い方』を,掲載しています。





      






 
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略歴−小林 隆一

 1943年生まれ。産業能率大学講師,鹿児島国際大学教授を経て,現在経営コンサルタント。『マニュアル作成の実務』評言社刊,『マニュアルのつくり方・生かし方』PHP研究所,『「身の丈」を強みとする経営』日本経済新聞出版社刊,他著作多数。

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