【東京都渋谷区の会計事務所】中川 尚税理士事務所 税理士 中川 尚 (東京税理士会 渋谷支部所属) |
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租 税 判 例 研 究 15相続開始後に売買契約を解除した場合の相続税の課税財産が問われた事例 広島地方裁判所 平成23年9月28日判決 1. 事実の概要 ○平成17年12月7日、被相続人Aは、自己が所有する土地および建物の一部を計1億7087万円で譲渡する旨の契約をB社と締結した。同日Aは手付金として1700万円をB社より受領した。 ○平成18年3月10日にAが死亡し、原告ら(相続人)が相続することとなったが、同年4月6日に原告らは本件売買契約の解除をB社に通知し、同月11日に手付金の倍の3400万円をB社に払い、本件売買契約を解除した。 ○平成19年1月5日、原告らは、本件各土地建物を含む、土地・建物等を相続により取得した財産として、相続税の申告を行った。 ○これに対し、所轄税務署長は、平成20年6月30日付で、本件売買契約に係る課税財産は本件各土地建物ではなく、本件売買契約における売買残預金請求権であるとして、各々の原告に対する更正処分および過少申告加算税の賦課決定を行った。 原告らは所轄税務署長に対する異議申立て、国税不服審判所長に対する審査請求を経て、平成22年1月21日に本件訴訟を提起した。 ○平成23年9月28日、広島地方裁判所は、原告らの請求を認容し、本件各処分を取り消した。 2.争点 ○本件売買契約に係る相続財産は、本件土地建物なのか、本件代金債権なのか。 相続開始後になされた売買契約の解除が、(相続財産の種類など)相続税の課税に影響をおよぼすのかどうかが最大の争点です。 3 判旨の要約 → 請求認容。 (1)本件契約解除の課税への影響について 相続税の課税財産は、『相続により取得した財産』である(相続税法2条)。 同法には、『相続により取得した財産』に関して、みなし相続財産(同法3条)、非課税財産(同法12条)等の規定がある他は、『相続』や『相続により取得した財産』に関する規定はないので、『相続により取得した財産』の解釈にあたっては、相続に関する民法の規定に整合するように解釈すべきである。 そうすると、ある財産が、相続開始後の解除の遡及効(民法545条)によって、民法上の相続財産に帰属しないとされた場合には、相続税法上の『相続により取得した財産』にも帰属しないことになるが、「納税申告後の解除については、『その申告、更正または決定に係る課税標準等または税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、または取り消された』(同法施行令6条1項)といった場合に限り、更正の請求をすることができ(同法23条2項)、課税関係に影響を及ぼすことになる。 この主旨は納税申告前の解除についても妥当するものであるから、納税申告前の解除についても妥当するものであり、納税申告前(または法定申告期限前)の解除についても、更正の請求の規定に準じて、当該契約が@解除権の行使によって解除された場合、または、A当該契約の成立後に生じたやむを得ない事情によって解除された場合に限り、課税関係に影響を及ぼすと解釈すべきである。 (2)B社の「履行の着手」について 本件売買契約に関して「履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべきであり」、本件の場合はB社に「履行の着手」があったと認められない。 (3)相続財産は本件各土地建物か本件代金債権かについて 本件売買契約の解除は、「手付け契約に基づく解除権の行使による解除であり」、「解除権の行使によって解除された」場合にあたるから、本件売買契約の「解除の遡及効は、本件における課税関係に影響を及ぼすことになり」、「本件売買契約は、その成立時点(平成17年12月7日)に遡って消滅し、本件相続開始日は存在せず、本件売買代金債権も存在しなかったことになる」。したがって、「本件売買契約に係る相続税の課税財産は、本件各土地建物であったというべきである」。 (4)相続税22条の法意について 相続により取得した財産の価値は、当該財産の取得時における時価、すなわち、被相続人の死亡時(相続開始時)における時価による(相続税法22条)が、課税実務の現状に鑑みれば「基本通達が法令ではなく、法令解釈の基準にすぎないとしても、基本通達の基準によらないことが正当として是認され得るような特段の事情がない限り、相続により取得した財産は、基本通達の評価とが相続税の課税の公平を期する所以である。 本件の場合は、被相続人Aも原告らも「本件各土地建物の売買残預金を受領しないまま」本件売買契約を最終的に解除しており、「本件各土地建物の客観的な交換価値は現実化していない」。 また、基本通達の評価基準による評価額と実際の売買代金との間に著しい格差があるともいえず、本件各土地建物の価額を基本通達の基準に基づき評価することが相続税法22条の法意に照らし不合理であるとまではいえない。 4. 関連法案 ○民法545条(契約の解除に関する規定) 民法545条第1項「解除の効果」として「当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を現状に復させる義務を負う」と定めています。 一般的には最近の判例では、義務の意味について、「解除は契約の効力を遡及的に消滅させるという直接的効果を生じる」と理解する直接効果説を採るのが通説です。本件でも同様の判決。 ○相続税法22条 「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得時における時価により評価する」と定めています。 ここにいう「取得時」とは相続開始時を意味し、時価とは財産の客観的交換価値を意味します。しかし、「取得時」における「時価」を客観的に評価することは困難なので、現実には、財産評価基本通達に従って評価を行うこととなります。 一般的に、相続財産の価額(評価)が争われる理由は、当該財産の当該売買契約における売買価額(取引価額)と国税庁が課税の基準としている評価通達における当該財産の評価額に相当な開差がある場合が多く、本件でも指摘されています。 本件においては、相続開始時に、一旦は本件各土地建物の客観的な交換価値(時価)が明らかになったかどうかがポイントでしたが実際には、引渡しや所有権移転登記がなされないまま契約が解除されており、解除の遡及効によって、売買契約が当初から存在しなかったのと同じことになります。その結果、売買契約によって本件各土地建物の客観的交換価値が現実化されていないことになります。 |
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