渋谷区の税理士 中川尚税理士事務所
       
【東京都渋谷区の会計事務所】中川 尚税理士事務所 税理士 中川 尚 (東京税理士会 渋谷支部所属)              



                                                                                                                                                                                                   
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租 税 判 例 研 究 2






『一時所得の収入を得るための保険料』を巡る判断

 

○平成21年1月27日 福岡地方裁判所(第一審)

○裁判結果: 認容  ○上訴等: 控訴

 

【概要】

本件は、原告らの法人が契約者となり、原告らと同法人が保険料を各2分の1ずつ負担した養老保険契約の満期保険金を受領した原告らが、同法人負担分も含む保険料全額を、所得税における一時所得を控除し得る「収入を得るために支出した金額」(所34A)に当たるものとして、平成13〜15年分の所得税に係る確定申告をしたところ、各税務署長から、同法人が負担した2分の1の損金経理保険料は、これに当たらないとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたことから、被告に対し処分の取消しを求めた事案。

 

【前提】

@ 原告

原告a= 平成8年8月〜現在、株式会社u(現在の商号は株式会社v)の代表取締役。

原告c= 平成元年8月、uの取締役に就任。平成15年12月〜現在、同社の代表取締役。

原告e= 平成10年11月〜至現在、uの取締役。平成11年2月〜現在、株式会社wの取締役。

原告f= 平成8年8月、uの代表取締役に就任し、平成15年12月1日、これを辞任。

 

A 養老保険契約の締結

原告らは、平成8年から平成10年にかけて、

・契約者= u又はw(法人)

・被保険者= 原告ら又はその親族

・保険期間= 3年又は5年

・死亡保険金の受取人= u等(法人)

・満期保険金の受取人= 原告ら(個人)

とする養老保険に加入。その際、社員総会において、u等が受け取る死亡保険金は、退職金又は弔慰金の支払に充当するものとする「生命保険契約付保に関する規定」を議決した。

 

B 支払保険料の処理等

u等は、本件養老保険契約の支払保険料の経理処理について、2分の1を保険料として損金処理、残りの2分の1の保険料は、原告らに対する貸付金等の科目で経理処理し、実質的に原告らが負担。

C 満期保険金の受領等

本件養老保険契約の保険期間(3年又は5年)が満了した時、被保険者である原告らは生存していたため、原告らは、平成13年〜15年分の満期保険金及び割増保険金をそれぞれ受領。 原告らは、本件満期保険金等を受領した際に、Bのu等が貸付金として処理した金額を返済。

 

D 確定申告等

原告らは、受領した満期保険金を一時所得として確定申告するに当たり、u等が支払った保険料の全額を「その収入を得るために支出した金額」(所34A)として控除できるものとして、平成13年〜15年分の所得税の確定申告を行った。

 

E 更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分

西福岡・若松・福岡・八幡各税務署長は、平成17年3月4日、u等の支払保険料のうち、保険料総額の2分の1の損金処理した分については、原告らの一時所得の金額の計算上、「収入を得るために支出した金額」には当たらないとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行った。

 

F 異議決定

原告らは、平成17年4月26日、各税務署長に対し、本件更正処分等につき異議申立てを行った。これに対し、各税務署長は、支払保険料のうち法人損金処理保険料は原告らにとって「収入を得るために支出した金額」に当たらないとする、申立てを棄却する旨の異議決定を行った。

 

G 審査請求等

原告らは、平成17年8月4日、本件更正処分等を不服として、国税不服審判所長に対し審査請求を行ったが、平成18年6月30日、これらはいずれも棄却された。そこで、原告らは、同年12月27日、本件各訴えを提起した。

 

【争点】

法人損金処理保険料(保険料総額の2分の1)は、原告らの一時所得の金額の計算上控除できる「収入を得るために支出した金額」(所34A)に当たるか。

 

【各争点における両者の主張】

@ 所得税法34条2項

=一時所得の金額の計算上、「その収入を得るために支出した金額」を控除できる旨規定。

○原告側 → その文言上、収入を得た本人が負担したものしか控除できないという限定はされていない。

○被告側 → 生命保険契約等に基づく一時金に係る、一時所得が控除される保険料等の金額は、収入を得た本人が負担した保険料及び事業主が負担した保険料で使用人に対して給与課税された保険料等に限られ、本人が負担していない保険料は控除されない。

 

 

A 所得税法施行令183条2項2号

=「生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額」は一時所得の計算上控除できる旨規定。

○原告側 → その文言上、本人負担部分しか控除できないという限定はない。

○被告側 → そのただし書において、生命保険契約等に係る保険料又は掛金のうち、加入員自身が負担して所得控除の対象となっているもの及び事業主が負担して経費処理されたものについては、所得者の一時所得の計算上控除しないものとしている。この規定によれば、法は、所得者において実質的な負担がない保険料等は控除しないものとするべき。

 

B 所得税基本通達34―4(抽象的な規定の仕方)

○原告側 → 一時所得の計算上控除できる保険料等の額には、所通達34-4「満期返戻金等の支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の額も含まれる」と明記している。

○被告側 → 所得税基本通達36―32では、「使用者が使用人等のために負担した生命保険料等が少額であれば、その金額は使用人に対し給与課税しない」旨規定しているので、同通達34―4がこのように課税されない場合について注記していることからすると、同規定はそのような場合を例外とみていると解される。

 

C 相続税法基本通達3―17(2)(福利厚生としての享受にあたるか)

○原告側 → 死亡と生存は保険事故としては同質であり表裏の関係にあるから、従業員等の一時所得の金額の計算上、控除されるべき範囲は同じになるべきなので、u等の支払保険料全額が控除されるべきである。

また、福利厚生として享受したものとして控除を認めたという点は直ちに受け入れ難い上、被告の主張は、法律が定める課税要件(原則)を通達によって特例的に緩和することとなり、租税法律主義に違反になってしまう。

○被告側 → 相続税法基本通達3―17(2)は、従業員等が死亡保険金を受領してこれが一時所得となる場合、使用者からその保険料相当額の経済的利益を、いわば福利厚生として享受したものとみるべきである。

 

C 法人税基本通達9―3―4(類推解釈と租税法律主義)

=養老保険にかかる保険料の規定

○原告側 → 法基通9-3-4が制定された昭和55年には、国税当局は本件養老保険契約のような契約形態を想定し得たはずであるのに、所得税法34条2項、同法施行令183条2項、所得税基本通達34―4は長年改正されておらず、納税者は、本件養老保険契約のような場合、支払を受ける者以外の者(u等)が負担した保険料も控除できるものとして、経済活動や納税を行ってきた。これに反する本件更生処分等は、原告らの予測可能性・法的安定性を害し、違法である。

○被告側 → 本件養老保険契約は、通常の企業が締結する生命保険契約とは全く目的を異にし、原告らにとっては、自己資金を一切負担することなく、法人の資金のみで、短期間で数億円もの金員を取得できる仕組みとなっており、しかも、保険料を負担したu等にとっても当該保険料は損金に算入でき、税負担を免れるものとなっている。そうすると、本件養老保険契約は、原告らがほとんど税負担を負うことなく資金の移転を受けることを企図した不自然な契約形態であり、法人税基本通達9―3―4や相続税法基本通達3―17(2)が想定する通常の保険契約とはいえないから、これらの規定を根拠に、法人損金処理保険料をも控除できるとする原告らの主張は失当である。

 

D 所得税法76条1項、所得税基本通達76―4(所得税の生命保険料控除に関する規定)

○原告側 → 一時所得の計算上の控除と、所得税の生命保険料控除とでは、考え方が異なっているのであり、これらを同列に扱おうとする被告の解釈は誤りである。

○被告側 → 法人が負担した保険料等について、所得税基本通達76―4本文は、使用人等が総所得金額から控除することを認めていないが、ただし書は、使用人等の給与等として課税されたものは控除できると定めており、同規定の注書きは、給与等として課税されない生命保険料等は控除の対象とならないと定めている。

 

E 法人の負担した保険料の給与課税について

○原告側 → 仮に、被告が主張するように、法人の支払保険料のうち受取人の一時所得から控除できるのは受取人に課税されたものに限られるとしても、保険料支払段階の50%の課税をもって、支払保険料の総額について課税済みと捉えるべきなので、法人損金処理保険料についても控除を認めるべきである。

○被告側 → 雇用主が負担した保険料は実質的には従業員等に課税済みと同視できるのである。そうであるから、従業員等の一時所得の計算上控除できるのである。したがって、原告らの上記主張は当たらない。

 

F 贈与にあたるか?

○原告側 → 被告は、法人損金処理保険料に対応する満期保険金は、実質的には法人からの贈与による取得との観点から、一時所得の計算上控除できないと主張する。しかし、原告らは、満期時まで生存又は死亡のリスクを負担しているから、贈与による取得ではない。

○被告側 → 法人損金処理保険料部分に対応する満期保険金(2分の1)については、受取人(原告ら)がu等から贈与によって取得したものとみるべきである(相続税法5条1項)。そして、法人からの贈与であれば、本件の場合、原告らの一時所得の計算上、u等が負担した保険料(贈与者が負担した経費に相当する。)を控除できないのは当然である。

 

 

 

【 裁判所の判断】

@ 租税法律主義の原則

本件では、所得税法34条2項にいう「収入を得るために支出した金額」の解釈が問題となっているところ、憲法84条は、法律の根拠に基づかずに租税を課すことはできないという租税法律主義の原則を定めている。そして、この定めの趣旨は、国民生活の法的安定性と予測可能性を保障することにあることからすると、その解釈に当たっては、法令の文言が重視されるべきである。

なお、通達は、国民に対する関係で拘束力を有する法規範ではないから、行政解釈として裁判所の解釈の参考となり得るにとどまる。しかしながら、租税行政では通達が極めて重要な役割を果たしており、通達の文言や趣旨も十分に検討した上で、租税法令の解釈を行うべきである。

 

A 所得税法34条2項

所得者本人が負担した部分に限られるのか、所得者以外の者が負担した部分も含まれるのかは、必ずしも明らかでない。

そして、所得税法施行令183条2項2号本文は、生命保険契約等に基づく一時金が一時所得となる場合、保険料又は掛金の「総額」を控除できるものと定めており、この文言からすると、所得者本人負担分に限らず保険料等全額を控除できるとみるのが素直である。

 

B 所得税基本通達34―4も、明確に、控除し得る金額には「支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の額(これらの金額のうち、…の金額を除く。)も含まれる。」と規定しており、限定列挙以外の控除があるかどうか読み取ることは困難である。

 

C 所得税法施行令183条2項2号ただし書は、所得者において実質的な負担がない保険料等は控除しないことを例示的に定めたものであり、原告らにとって法人損金処理保険料は実質的負担がないものであるから、控除は認められないと主張する。

しかしながら、上記法の趣旨ないし原則を直ちに導き得るものとはいえず、納税者の観点からしても、そのような解釈をすることは困難といわざるを得ない。

 

D 被告は、所得者以外の者が負担した保険料等も控除できる所得税基本通達34―4の規定は、所得者以外の者が保険料等を負担した場合、原則として所得者(保険金受取人)に給与課税等されていることを前提としたものであると主張する。

しかし、何ら明文がないのに、所得者に給与課税等されていなければ控除できないと限定的に解釈することは困難である。むしろ、所得税法施行令183条2項2号、所得税基本通達34―4の文言からすると、誰が保険料等を支払ったか、所得者に給与課税等されたか否かにかかわらず、控除を認めることとしているとみる方が合理的である。

 

E 被告は、所得税法76条1項(生命保険料控除)及び所得税基本通達76―4を根拠に、法人が保険料等を負担して使用人に給与課税されていない場合は、使用人の一時所得の計算上その保険料等を控除できないことを指摘する。

しかし、上記各規定が定める生命保険料控除と、一時所得の計算上の控除は、別の場面の問題であるから、前者に関する解釈から後者に関する解釈を導くことは相当でない。

 

F 養老保険にかかる保険料の規定について

被告は、法人税基本通達9―3―4(1)〜(3)のうち、満期保険金が個人に対する一時所得となるのは(2)の場合のみであり、従業員等が一時所得の計算上控除できる保険料は法人が支払った保険料のうち従業員等に給与課税されたものに限られるとの法の趣旨ないし、原則を読み取ることは相当とはいえず、被告の上記指摘は採用できない。

 

G 法人税基本通達9―3―4(3)、相続税法基本通達3―17(2)によれば、従業員の一時所得の計算上、法人が負担した保険料全額を控除できることになるとする。しかし、相続税法基本通達3―17(2)が福利厚生という観点から定められたものであるとしても、そこから被告の主張する従業員等に課税済みと同視したものとする解釈を導くことはできない。

 

H 2分の1の損金経理保険料は贈与か?

被告は、法人損金処理保険料部分に対応する満期保険金(2分の1)については、原告らがu等から贈与なので、一時所得の計算上控除できないと主張する。 しかし、保険金の受領を直ちに贈与と見ることはできず、被告の主張は採用できない。

 

I 不自然な契約形態か?

確かに、本件で原告らが法人損金処理保険料を控除することを認めれば、原告らがほとんど税負担を負わずにu等から資金の移転を受けられるが、法令上許された契約を締結した結果であって、租税の基本原則に抵触していないし、租税の公平性を害してはいない。

 

【判決】

@ 所得税法34条2項、同法施行令183条2項2号の規定の文言を重視すると、所得者以外の者が負担した保険料等を、所得者に対する給与課税の有無にかかわらず控除できるものと解するのが自然であること

A 所得税基本通達34―4は、所得者以外の者が負担した保険金等も明確に控除できると規定し給与課税等の有無によって区別していないこと。

 

B そのような中、所得税法34条2項、同法施行令183条2項2号の規定を被告の主張のように限定解釈又は類推解釈することは、法的安定性、予測可能性確保の観点からして相当性を欠くといわざるを得ないこと

 

総合考慮すると、被告の主張する解釈を採用することはできず、養老保険契約に基づく満期保険金が一時所得となる場合、所得者以外の者が負担した保険料も控除できると解するのが相当である。

以上によれば、各税務署長が原告らに対してした本件更正処分等は、法令の解釈・適用を誤ったものであって違法であるから、これを取り消すべきである。



       

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