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特集 泉鏡花 ( 81-7.html )
・高桑法子 『眉かくしの霊

泉鏡花 ( 83-6.html )
・東郷克美 『眉かくしの霊』の顕現

特集 泉鏡花−怪奇と幻想 ( 89-11.html )
・長谷川泉 『眉かくしの霊

泉鏡花幻想文学誌 ( 91-8.html )
泉鏡花作品論事典 (秋山稔・越野格・須田千里・田中励儀・弦巻克二・松村友視)〔改行〕〔改行〕冠弥左衛門 義血侠血 夜行巡査 外科室 鐘声夜半録 貧民倶楽部 照葉狂言 龍潭譚 化鳥 鶯花径 三尺角 湯島詣 高野聖 註文帳 薬草取 風流線 春昼・春昼後刻 婦系図 草迷宮 白鷺 歌行燈 夜叉ヶ池 天守物語 由縁の女 眉かくしの霊 山海評判記〔改行〕

文庫本収録作品 ( bunko.html )
〔改行〕『高野聖・眉かくしの霊  岩波文庫 1936.1.10  1957.7.25 改 絶版 〔改行〕高野聖 眉かくしの霊 解説(吉田精一) 〔旧字旧かな版〕

『高野聖・眉かくしの霊  岩波文庫 1992 改版 高野聖 眉かくしの霊 解説(吉田精一)

『高野聖』  角川文庫 1971 義血侠血 夜行巡査 外科室 高野聖 眉かくしの霊 解説(村松定孝)

『高野聖』  集英社文庫 1992.12.20 外科室 星あかり 海の使者 高野聖 眉かくしの霊 鑑賞(奥田瑛二) 解説・年譜(山田有策)

雑記帖 ( cahier2001.html )
『泉鏡花・妖かし文学館』 1995年4月21日−5月18日 於池袋西武12階ロフト〔改行〕 【企画構成】(株)スーパー・スタッフ・カンパニー 【協力】河出書房新社〔改行〕 【スタッフ】 会場音楽:J・A・シーザー/丸山涼子〔改行〕  造形:能津美津子/横前東慈/千葉広二/千葉千富美/水根あずさ/吉田良一〔改行〕  絵:山田勇男  衣装:時広真吾/米井明子  写真:土田ヒロミ  宣伝美術:森崎偏陸〔改行〕  照明:丸山邦彦  会場デザイン:長川一夫  解説:桑原茂夫  企画構成:大澤由喜〔改行〕〔改行〕 【くり広げられる泉鏡花の作品世界】……鏡花の小説による八つの造形作品〔改行〕 (1)手まり唄の母恋迷宮譚――『草迷宮』〔改行〕 (2)魔界・天守閣に結ぶ恋――『天守物語』〔改行〕 (3)竜神と、いけにえの花嫁の海底御殿での純愛物語――『海神別荘』〔改行〕 (4)旅の宿に現れる哀しい女の亡霊――『眉かくしの霊〔改行〕 (5)山深き峠の道と一軒家、そこでくり広げられる怪と妖――『高野聖』〔改行〕 (6)美しく、哀しく、恐ろしい”沼伝説”――『夜叉ヶ池』〔改行〕 (7)おだやかな春の昼、海辺の里でのシュールな幻想譚――『春昼』『春昼後刻』〔改行〕 (8)逢う魔が時(たそがれ時)に少年が迷い込んだところは?――『龍潭譚』〔改行〕〔改行〕 この頃、企画に協力している河出書房から鏡花幻想譚(全五巻)が出版されている。その後この鏡花展は福岡市の三菱地所アルティアムで開催された(1995.6.15-7.16)。福岡県の南の方に棲息する私は当然これを見ていなければならない筈だが、行かなかった。その前年にあったはずの澁澤龍彦展も見てない。実はあまり観たいと思わなかったのだ。観て失望するのを恐れたということもあるが、要するに怠惰だったわけである。なお澁澤の前は寺山修司展があったらしい。これはまったく知らなかった。

『泉鏡花集成』 ( chikuma.html )
・ 6〔改行〕 眉かくしの霊 陽炎座 革鞄の怪 唄立山心中一曲 菎弱本 第二菎弱本 白金之絵図 茸の舞姫 歌行燈 南地心中 [解説]種村季弘「顔のない美女」

鏡花作品紹介 ( cont.html )
眉かくしの霊〔改行〕〔改行〕 大正13年 5月「苦楽」初出、大正13年12月『番町夜講』(改造社)所収〔改行〕〔改行〕 霜月半ば、「筆者」の友人境賛吉は木曽の奈良井に宿を取った。出された鶫料理を堪能しつつ、鶫を食べて口を血だらけにした芸者の話を思い出す。これは魔がさした猟師による誤射というこの小説の後段の暗示となる。翌晩、境が庭にいる料理番の伊作に奇怪な提灯がついて行くのを窓から目で追うと、それが宿の中へ、境の部屋へとやって来る。この背後の出来事を、うしろを振り返ることなく見てしまうという怪事。続いて姿見の前に女が現れ、「似合いますか」といって懐紙で眉を隠してみせる。夢かうつつか境はこの女によって姿を魚に変えられる。伊作は前の年に柳橋のお艶という芸者が同じ部屋に逗留したことを境に明かす。お艶は愛人が「大蒜屋敷」で姦通騒動に巻き込まれたのを救いに来たのであるが、「桔梗ヶ池」の奥様なる魔の者の美しさを模倣せんとして自分も眉剃りをしていたために、猟師に誤って射殺されたのであった。伊作が仔細を語り終えた時、ふたりの前に伊作の分身と提灯とお艶が、射殺直前の姿をそのままに出現する。座敷はさながら桔梗ヶ池と化して、汀に白い桔梗が咲くように雪のけはいが畳に乱れ敷くのであった。〔改行〕〔改行〕 泉鏡花の最高傑作。

鏡花作品紹介 ( content.html )
眉かくしの霊〔改行〕〔改行〕 大正13年 5月「苦楽」初出、大正13年12月『番町夜講』(改造社)所収〔改行〕〔改行〕 霜月半ば、「筆者」の友人の画師(えかき)境賛吉は木曽の奈良井に宿を取った。出された鶫料理を堪能しつつ、鶫(つぐみ)を食べて口を血だらけにした芸者のことから山中の怪へと話が及ぶ。これは魔がさした猟師による誤射というこの小説の後段の暗示となる。翌晩、境が庭にいる料理番の伊作に怪訝な提灯がついて行くのを窓から目で追うと、それが宿の中へ、湯殿の橋を通って、境の部屋へとやって来る。この背後の出来事を、うしろを振り返ることなく見てしまうという怪事。続いて姿見の前に女が現れ、「似合いますか」といって懐紙で眉の剃り跡を隠して見せる。夢かうつつか境はこの女によって姿を魚に変えられる。伊作は前の年に柳橋のお艶という芸者が同じ部屋に逗留したことを境に明かす。お艶は大蒜屋敷で姦通騒動に巻き込まれた旦那(愛人)を自身の美貌にかけて救いに来たのだが、「桔梗ヶ池」の奥様なる魔の者の凄いような美しさを知り、負けじと妾(めかけ)の身ながら歯を染め眉を剃って正妻の顔に化粧する。その顔は池の奥様の姉妹のように瓜二つであった。ために、大蒜屋敷への途次、魔がさした猟師に射殺される。伊作が仔細を語り終えた時、湯殿の橋の方から、伊作の分身と提灯とお艶が、射殺直前の道行きの姿をそのままに出現する。座敷はさながら桔梗ヶ池と化して、汀に白い桔梗が咲くように雪のけはいが畳に乱れ敷くのであった。桔梗ヶ池の物語に取り込まれた美女が、それとは対照的な大蒜屋敷の物語に登場=侵入することは、不意の射殺によって結果的に阻止された。阻止された道行きは鏡の幻想によって向きを変え、境と伊作のいる宿の座敷へと反転する。幻想文学ならではの豊饒なイメージの奇蹟が、自然主義めいた香りの大蒜屋敷の物語を美しく凌駕するのである。〔改行〕〔改行〕 泉鏡花の最高傑作。

円本文学全集収録作品 ( enpon.html )
〔改行〕『泉鏡花集』 現代日本文学全集 第十四篇 改造社 1928.8.25  〔改行〕外科室 琵琶伝 一之巻 二之巻 三之巻 四之巻 五之巻 六之巻 誓之巻 辰巳巷談 笈摺草紙 高野聖 女仙前記 親子そば三人客 薬草取 白羽箭 紅雪録 続紅雪録 春昼 春昼後刻 婦系図(前編) 婦系図(後編) 歌行燈 南地心中 売色鴨南蛮 眉かくしの霊 二三羽――十二三羽 栃の実 [自筆年譜]

泉鏡花を読む ( index.html )
・  眉かくしの霊』- 分身と「二つ巴」

・  テキスト「眉かくしの霊 外字対応版

・ 青空文庫  外科室、国貞えがく、義血侠血、夜行巡査、雛がたり 二三羽――十二三羽、龍潭譚、高野聖、醜婦を呵す 婦系図、眉かくしの霊、愛と婚姻、人魚の祠、草あやめ いろ扱ひ、蛇くひ、絵本の春、木の子説法、半島一奇抄 貝の穴に河童の居る事、縁結び、湯島の境内、薬草取 歌行燈、玉川の草、古狢、夜叉ヶ池、若菜のうち、化鳥 紫陽花、星あかり、妖僧記、凱旋祭、海城発電、草迷宮 女客、錦染滝白糸、紅玉、小春の狐、伯爵の釵、鷭狩 みさごの鮨、怨霊借用、売色鴨南蛮、縷紅新草、遺稿 三尺角、三尺角拾遺(木精) 等200編

『新編 泉鏡花集』(岩波書店) ( iwanamisen.html )
第8巻 信州 飛騨 〔改行〕高野聖 神鑿 袙奇譚 木曾の紅蝶 唄立山心中一曲 眉かくしの霊 麻を刈る

『鏡花幻想譚』 ( kawade.html )
〔改行〕 4 「絵本の春の巻」 〔改行〕絲遊 眉かくしの霊 絵本の春 貝の穴に河童が居る事 解説=鏡花とすずの日々(泉名月)

鏡花抄 ( kyoukashow.html )
眉かくしの霊〔改行〕〔改行〕 そのまま熟と覗いていると、薄黒く、ごそごそと雪を踏んで行く、伊作の袖の傍を、ふわりと巴の提灯が点いて行く。おお今、窓下では提灯を持ってはいなかったようだ。――それに、もうやがて、庭を横ぎって、濡縁か、戸口に入りそうだ、と思うまで距った。遠いまで小さく見える、としばらくして、ふとあとへ戻るような、やや大きくなって、あの土間廊下の外の、萱屋根のつま下をすれずれに、段々此方へ引返す、引返すのが、気のせいだか、いつの間にか、中へ入って、土間の暗がりを点れて来る。……橋がかり、一方が洗面所、突当たりが湯殿……ハテナとぎょっとするまで気がついたのは、その点れて来る提灯を、座敷へ振り返らずに、逆に窓から庭の方に乗り出しつつ見ている事であった。〔改行〕

『眉かくしの霊』- 分身と「二つ巴」 ( mayu.html )
眉かくしの霊』- 分身と「二つ巴」

眉かくしの霊 あらすじ

・・『眉かくしの霊』は鏡の小説です

・ さて、小説『眉かくしの霊』についていくつか考えたことを、少しだけ書いていこうと思います。論文ではありません。解説になってくれればよいのですが、ただの感想文です。それにしても、はたしてこの小説を怪談として読むべきなのでしょうか。恐いとか恐くないとか、怨まれるわけがあるとかないとか、の他にも、読み方感じ方は色々あるでしょう。怪談や因縁噺という枠組みはあっても、それに縛られることはないし、豊饒なイメージの世界をただ興味の赴くまま、手さぐりで巡り歩いてもよいのです。

・ 鏡花的な曖昧さもあって、どこか曰く言い難いものがあるこの作品を、試みに分身入れ子という主題(テーマ批評のテーマ)に注目して読んでみると、ふたつに共通するアイテムとして<合わせ鏡>という装置が浮かび上がってきます。誰しも二枚の鏡で遊んだ覚えがあるはずだから入れ子は分かるとして、合わせ鏡に分身の意味を見いだすのは珍しいかもしれません。ただ手元の『日本国語大辞典(精選版)』には「二枚の鏡に同じ物を映したように、きわめて似ていること。瓜二つ。」とあります。同じ合わせ鏡も縦方向からは奥行型の入れ子に、横方向からは並列型の分身に見える、という雑な図式化はひとまず脇において、そんな分身と入れ子の主題を化粧道具の「鏡」と、それに加えて照明道具の「提灯」でイメージさせているかに見える『眉かくしの霊』から、ひとつ気になるテクストを引用したいと思います。こんな奇異な箇所があるのです。

補足:二つ巴の紋のかたちには、この「分身小説」自身を縮約し象徴する中心紋 (Mise en abyme)を思わせるものがあります。二つ巴の中に同じ『眉かくしの霊』の物語世界がそのまま嵌め込まれているかのようなのです。たぶん、その物語の中でもまた怪訝な提灯が浮遊しているのでしょう。鏡花の「絵本の春」「女仙前記」などにもそんな中心紋が潜んでいます。Wikiの「紋中紋」を補足しておきますと、たとえば夢野久作の小説『ドグラマグラ』に、ある不思議なノート(原稿)がポツンと置かれている場面があるのです。ノートには小説『ドグラマグラ』と同じ内容が書かれている、という設定になっています。だからそのノートの中にもまた同様のノートが存在するし、以下そのことがどこまでも繰り返される、ということになります。思わず眩暈(めまい)がしそうな再帰構造になっているわけで、このノートのようなものを中心紋といいます。Wikiはデーレンバック『鏡の物語』(ありな書房)の訳語から「紋中紋」を採用していますが、ヌーヴォーロマン界隈の伝統的表記(笑)は「中心紋」です。リカルドゥーの訳書から「象嵌法」ともいいます(『小説のテクスト』 紀伊國屋書店)。

・ 鏡とは、ときに神秘的であったり不気味であったりするものです。『眉かくしの霊』は、ある意味で(リアリズムを遠く離れて、という意味で)「鏡」をキーワードとする小説であるといえるでしょう。桔梗ヶ池の奥様と呼ばれる魔の者は真っ青な池の汀(みぎわ)で鏡に向って化粧をします。いっぽう、この小説のヒロインともいえるお艶は、桔梗ヶ池の奥様を模倣して眉を剃り落とします。もちろん鏡に向って、です。眉を剃るのは既婚女性であることを示すしるしです。妾であるお艶が正妻の顔をみずから獲得しようというのです。彼女が鏡の中に覗き見るのは自分の顔ですが、同時に桔梗ヶ池の奥様の美しい顔でもあるでしょう。鏡という厚みを欠いた<境>を間に挟んで、ふたりの女が向かい合っているのです。まるで合わせ鏡ならぬ<逆合わせ鏡>のように、奥様の鏡像を我が身に貼りつかせながら鏡に向かっているこの時、お艶は桔梗ヶ池の奥様の分身的存在となります。逆合わせ鏡は[女-鏡-女]のイメージで、合わせ鏡が[鏡-女-鏡]なので逆の並びであるけれど、ともに[…鏡-女-鏡-女-鏡…]という入れ子の片割れなのだから、どちらも分身の表象ではあるのです。

・『眉かくしの霊』というと、きまって引用されるのがこの料理番伊作の分身(ドッペルゲンガー)の出現場面です。その場に「境=鏡」的存在の画師(えかき)境賛吉が居合わせていることが、伊作の自己像幻視に少なからず作用しているかにみえて、なかなかに刺激的です。つまり、くだんの提灯が「湯どのの橋」という同じ経路をたどって接近して来ていることから、冒頭で引用した怪異と同質の現象が、今ここで反復されているのではないか、振り返ることなく背後の提灯が見えているのではないかと。射殺直前の道行きの姿をそのままにお艶様と伊作の分身が、あの二つ巴の提灯とともに、あるいは提灯に付き従うようにして、前方からではなく、逆に背後からやって来ているのではないかと。突然の死によって結果的に阻止された大蒜屋敷への道行きは向きを変え、鏡の幻想によって宿の座敷へと反転したのです。その姿を幻の「鏡」の中に覗き見る仕草を、境と伊作は無自覚のうちに共有しているかに見えます。鏡の幻想が立ち現れる場にあって、境と伊作が取り込まれた「桔梗ヶ池の物語」の中に、お艶と伊作が取り込まれた「過去の桔梗ヶ池の物語」が入れ子となって戻って来たのです。したがって、一般に伊作のドッペルゲンガーとされているものは、伊作の「過去の自己像」幻視としたほうがより正確なのかもしれません。

・ とりあえずの結論。『眉かくしの霊』は鏡がテクストを侵蝕する鏡の小説である。

眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

泉鏡花自筆年譜 ( nenpu.html )
・ 大正十三年三月、「二三羽――一二三羽」女性に出づ。「七宝の柱」を新潮社上梓。五月、苦楽に、「眉かくしの霊」を寄す。〔改行〕

おしらせ ( news.html )
・この夏、西川文恵監督作品の映画『眉かくしの霊が製作されたようです。上映の日程は未定ですが、どういうかたちであれ、公開されるといいですね。つぎのページもご覧ください。〔改行〕

 2001.11.2 ●ずいぶんな放置プレイを続行中でありますが、おまたせしました、サイト内検索のリクエストによる鏡花作品ランキング、7月から10月までの集計の発表です。間が開いたので、今回は20位までカウントすることにしました。相変わらずお芝居系が強いですね。まあ、よくも悪くもこれがネットでの鏡花受容の現状ということなのでしょう。  1 海神別荘(63)  2 婦系図(41)  3 高野聖(40)  4 義血侠血(24)  5 天守物語(23)  6 夜叉ヶ池(22)  7 歌行燈(18)  8 龍潭譚(16)  8 外科室(16) 10 星あかり(11) 11 眉かくしの霊(10) 11 夜行巡査(10) 13 春昼( 9) 13 草迷宮( 9) 13 日本橋( 9) 16 照葉狂言( 8) 17 化鳥( 7) 17 山海評判記( 7) 19 三尺角( 5) 20 処方秘箋( 4) 20 註文帳( 4) 20 風流線( 4)

・ ついでに2001年前期分として2月から6月までの集計も載せておきます。  1 婦系図 (52)   2 高野聖 (47)   3 海神別荘 (39)   4 天守物語 (32)   5 化鳥 (27)   6 外科室 (25)   7 龍潭譚 (22)   8 歌行燈 (19)   9 義血侠血 (19)  10 夜叉ヶ池 (17)  10 春昼 (17)  10 草迷宮 (17)  13 日本橋 (15)  14 夜行巡査 (12)  15 星あかり (11)  16 眉かくしの霊 (8) 16 註文帳 (8) 18 山海評判記 (7) 19 桜心中 (6) 19 蛇くひ 両頭蛇 (6)

過去のおしらせ ( old1.html )
・ 『眉かくしの霊』にバグがありました。SED のスクリプトに間違いがあり、斉の旧字が齊でなく齋に変換されていました。修正は2箇所です。

・ 後者についてはすでに『眉かくしの霊』のテキスト化が終わり、今は『高野聖』に取掛かっているところです。なかなか捗りませんです、ハイ。文字どおり蟻の歩みではありますが、今後も月に1作品程度のペースで掲載していく計画を立てています。

過去のおしらせ ( old3.html )
・ 先週はとうとう作品紹介を休んでしまいました。今週は「日本橋」と「眉かくしの霊」を続けてアップしました。今後は「龍潭譚」や「草迷宮」「天守物語」などを予定しています。できるだけ私の勝手な解釈が紛れ込まないよう気をつけているつもりですが、またそのために芸のない作品梗概となっていたりするわけですが、ご不満な点や間違いなどありましたら、遠慮なくお伝えくださいますようお願いします。

過去のおしらせ ( old6.html )
九ツ谺というページにプレーンテキストを縦書き表示で読めるようにするジャヴァ・アプレット「茂吉君」が公開されました。現在のところ、私がインプットした鏡花の「高野聖」「眉かくしの霊」「春昼」「春昼後刻」のテキストが縦読みできるようになっています。横書きとはまた雰囲気が違って不思議な感じです。ぜひいちどご覧ください。あと、鏡花の色というページも面白い試みです。

過去のおしらせ ( old8.html )
・ 小埜裕二氏の近代小説千夜一夜というページにすばらしい鏡花作品紹介をみつけました。現在のところ絵本の春 売色鴨南蛮 国貞ゑがく 夜行巡査 外科室 星あかり 女客 眉かくしの霊 蓑谷 高野聖の10編があがっています。「草迷宮」や「春昼」なども今後とりあげられるようです。もちろん鏡花だけでなく明治以後の作家の小説が1000作品紹介されることになっていて、だからこそ千夜一夜と銘打たれる所以なのですが、すでに442作品の紹介が登録されています。大学の先生が実際にネットで作品を語るようになったのでしょうか。よい状況ですね。

・ 検索対象として現在、歌行燈、五大力、親子そば三人客、逢ふ夜、海神別荘、高野聖、眉かくしの霊、春昼、春昼後刻、星あかりの十編が登録されています。「歌行燈」など4編は従吾所好の、「海神別荘」は華・成田屋のご好意によりテキストを提供していただきました。今回の企画にご賛同いただき、心から感謝いたします。青空文庫も鏡花テキストの使用に快く同意してくださったので、おいおい検索対象は広がっていくと思います。

『鏡花小説・戯曲選』 ( sensyu.html )
〔改行〕 6 怪異篇二 草迷宮 沼夫人 朱日記 陽炎座 第二菎弱本 眉かくしの霊 [解説]寺田透

『鏡花全集』(春陽堂) ( shunyou.html )
巻十三 〔改行〕妖魔の辻占 鷭狩 磯あそび 朝湯 女波 雨ばけ 傘 駒の話 くさびら 楓と白鳩 十三娘 みさごの鮨 龍膽と撫子 小春の狐 胡桃 火のいたづら 仮宅話 きん稲 眉かくしの霊 夫人利生記 光籃 露萩 甲乙(きのえきのと) 道陸神の戯 鎧 怨霊借用 本妻和讃 

紋切型鏡花事典 ( stereotype.html )
〔改行〕分身  自己像幻視。「星あかり」「眉かくしの霊」「春昼」などに見られる。

泉鏡花作品年表 ( workhist.html )
〔改行〕1924年 大正13年 〔改行〕駒の話 傘 小春の狐 胡桃 火のいたづら 仮宅話 二三羽――十二、三羽 きん稲 眉かくしの霊 夫人利生記 栃の実 光籃 露萩

anti/ant's INDEX ( x.html )
眉かくしの霊』- 分身と「二つ巴」

『鏡花全集』(岩波書店) ( zensyu.html )
巻二十二 妖魔の辻占 楓と白鳩 十三娘 みさごの鮨 鷭狩 磯あそび 朝湯 女波 雨ばけ 傘 駒の話 小春の狐 胡桃 火のいたづら 仮宅話 きん稲 眉かくしの霊 夫人利生記 光籃 露萩 甲乙(きのえきのと) 道陸神の戯 鎧 怨霊借用 本妻和讃

・[月報22] 『歌行燈』と玉の段=山本健吉 運命の女との訣別=脇明子 鏡花の思い出 きん稲=久保田万太郎 鏡花小説校異考(二十二)眉かくしの霊=村松定孝 〔同時代の批評・紹介〕新年の創作=生田長江

『眉かくしの霊』- 分身と「二つ巴」 ( mayu 2023.11.13.html )
眉かくしの霊』- 分身と「二つ巴」

眉かくしの霊 あらすじ

・・『眉かくしの霊』は鏡の小説です

・ さて、小説『眉かくしの霊』についていくつか考えたことを、少しだけ書いていこうと思います。論文ではありません。解説になってくれればよいのですが、ただの感想文です。それにしても、はたしてこの小説を怪談として読むべきなのでしょうか。恐いとか恐くないとか、怨まれるわけがあるとかないとか、の他にも、読み方感じ方は色々あるでしょう。怪談や因縁噺という枠組みはあっても、それに縛られることはないし、豊饒なイメージの世界をただ興味の赴くまま、手さぐりで巡り歩いてもよいのです。

・ 鏡花的な曖昧さもあって、どこか曰く言い難いものがあるこの作品を、試みに分身入れ子という主題(テーマ批評のテーマ)に注目して読んでみると、ふたつに共通するアイテムとして<合わせ鏡>という装置が浮かび上がってきます。誰しも二枚の鏡で遊んだ覚えがあるはずだから入れ子は分かるとして、合わせ鏡に分身の意味を見いだすのは珍しいかもしれません。ただ手元の『日本国語大辞典(精選版)』には「二枚の鏡に同じ物を映したように、きわめて似ていること。瓜二つ。」とあります。同じ合わせ鏡も縦方向からは奥行型の入れ子に、横方向からは並列型の分身に見える、という雑な図式化はひとまず脇において、そんな分身と入れ子の主題を化粧道具の「鏡」と、それに加えて照明道具の「提灯」でイメージさせているかに見える『眉かくしの霊』から、ひとつ気になるテクストを引用したいと思います。こんな奇異な箇所があるのです。

補足:二つ巴の紋のかたちには、この「分身小説」自身を縮約し象徴する中心紋 (Mise en abyme)を思わせるものがあります。二つ巴の中に同じ『眉かくしの霊』の物語世界がそのまま嵌め込まれているかのようなのです。たぶん、その物語の中でもまた怪訝な提灯が浮遊しているのでしょう。鏡花の「絵本の春」「女仙前記」などにもそんな中心紋が潜んでいます。Wikiの「紋中紋」を補足しておきますと、たとえば夢野久作の小説『ドグラマグラ』に、ある不思議なノート(原稿)がポツンと置かれている場面があるのです。ノートには小説『ドグラマグラ』と同じ内容が書かれている、という設定になっています。だからそのノートの中にもまた同様のノートが存在するし、以下そのことがどこまでも繰り返される、ということになります。思わず眩暈(めまい)がしそうな再帰構造になっているわけで、このノートのようなものを中心紋といいます。Wikiはデーレンバック『鏡の物語』(ありな書房)の訳語から「紋中紋」を採用していますが、ヌーヴォーロマン界隈の伝統的表記(笑)は「中心紋」です。リカルドゥーの訳書から「象嵌法」ともいいます(『小説のテクスト』 紀伊國屋書店)。

・ 鏡とは、ときに神秘的であったり不気味であったりするものです。『眉かくしの霊』は、ある意味で(リアリズムを遠く離れて、という意味で)「鏡」をキーワードとする小説であるといえるでしょう。桔梗ヶ池の奥様と呼ばれる魔の者は真っ青な池の汀(みぎわ)で鏡に向って化粧をします。いっぽう、この小説のヒロインともいえるお艶は、桔梗ヶ池の奥様を模倣して眉を剃り落とします。もちろん鏡に向って、です。眉を剃るのは既婚女性であることを示すしるしです。妾であるお艶が正妻の顔をみずから獲得しようというのです。彼女が鏡の中に覗き見るのは自分の顔ですが、同時に桔梗ヶ池の奥様の美しい顔でもあるでしょう。鏡という厚みを欠いた<境>を間に挟んで、ふたりの女が向かい合っているのです。まるで合わせ鏡ならぬ<逆合わせ鏡>のように、奥様の鏡像を我が身に貼りつかせながら鏡に向かっているこの時、お艶は桔梗ヶ池の奥様の分身的存在となります。逆合わせ鏡は[女-鏡-女]のイメージで、合わせ鏡が[鏡-女-鏡]なので逆の並びであるけれど、ともに[…鏡-女-鏡-女-鏡…]という入れ子の片割れなのだから、どっちも分身の表象ではあるのです。

・『眉かくしの霊』というと、きまって引用されるのがこの料理番伊作の分身(ドッペルゲンガー)の出現場面です。その場に「境=鏡」的存在の画師(えかき)境賛吉が居合わせていることが、伊作の自己像幻視に少なからず作用しているかにみえて、なかなかに刺激的です。つまり、くだんの提灯が「湯どのの橋」という同じ経路をたどって接近して来ていることから、冒頭で引用した怪異と同質の現象が、今ここで反復されているのではないか、振り返ることなく背後の提灯が見えているのではないかと。射殺直前の道行きの姿をそのままにお艶様と伊作の分身が、あの二つ巴の提灯とともに、あるいは提灯に付き従うようにして、前方からではなく、逆に背後からやって来ているのではないかと。突然の死によって結果的に阻止された大蒜屋敷への道行きは向きを変え、鏡の幻想によって宿の座敷へと反転しました。その姿を幻の「鏡」の中に覗き見る仕草を、境と伊作は無自覚のうちに共有しているかに見えます。鏡の幻想が立ち現れる場にあって、境と伊作が取り込まれた「桔梗ヶ池の物語」の中に、お艶と伊作が取り込まれた「過去の桔梗ヶ池の物語」が入れ子となって戻って来たのです。したがって、一般に伊作のドッペルゲンガーとされているものは、伊作の「過去の自己像」幻視としたほうがより正確なのかもしれません。

・ とりあえずの結論。眉かくしの霊』は鏡がテクストを侵蝕する鏡の小説である

眉かくしの霊』 泉鏡花を読む


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