THEATER/TOPS 4/4〜4/30
4/14(土)観劇。座席 A-2
作・演出 鈴木聡舞台は主人公「斎藤幸子」の生家である月島のもんじゃ焼き屋「さいとう」の茶の間。杉並の方から転校してきた坂本卓也(福本伸一)が遊びに来ている。幸子(岩橋道子)の彼氏が遊びに来ているという事で戸惑う父親の洋介(おかやまはじめ)。妻は他界しており、洋介は男手一つで娘2人を育てていた。長女の悦子(弘中麻紀)は、芸術家の才能を発揮し造形アーティストの道をまっしぐらで、男どころではない。その逆で幸子はちょっとパープーで男心を誘う。そんな茶の間に顔を出す近所の人々。隣に住むもんじゃ屋「富ちゃん」の富島和夫(俵木藤汰)、健一郎(宇納佑)親子。幸子の親友でソープ勤めの矢口美奈子(三鴨絵里子)。そんな中、幸子の部屋では美奈子にもらった毒蛙が逃げたと大騒ぎ・・・。
その蛙が幸子の人生を変える。幸子は蛙に噛まれた事で入院し、ない頭で人生を考え、登校拒否になる。7月から産休の代理教師として赴任してきた澤渡桂一(木村靖司)は、事情を聞きに「さいとう」を訪れる。一見真面目な澤渡ではあるが、女グセが悪いという欠点を持っていた。案の定、幸子と澤渡はひかれ合い駆け落ちする羽目に・・・。
大阪に駆け落ちして7年が過ぎたある日、駆け落ちした2人が帰ってくるという情報が近所を賑わす。しかし、幸子が連れて来たのは澤渡桂一ではなく、実業家の山崎正光(義若泰祐)という男であった。羽振りのいい山崎は会社を起こすにあたって幸子を社長にしたいと話す。しかし、山崎の本業は詐欺師であった・・・。洋介の逝った妻の双子の姉妹・吉田勝江(大草理乙子)、澤渡と幸子の駆け落ちで教師を辞める事となった教頭・村木繁(熊川隆一)、幸子の初体験の相手となった同級生・田中由紀夫(岩本淳)らも加わり茶の間はてんやわんや。
美貌と根性には恵まれたものの悲しいまでにパープーで勘違いが甚だしい幸子。そんな幸子の笑うしかない波乱万丈の12年間を、幸子を取り巻く人々の姿と共に描いた人情喜劇。約10カ月ぶりのラッパ屋の公演である。記念すべき第30回公演でもある。狭い路地、縁側がある家屋、日本人の原風景とも言える下町の風景。ラッパ屋の十八番である“日本家屋シリーズ”である。で、今回は“茶の間”が舞台となる。茶の間という設定はラッパ屋としては初めてらしいが、この設定がいつものラッパ屋とはちょっと趣の違った空気を醸し出す。って言っても作風はいつものラッパ屋。しかし、大きく違いを感じたのは、この茶の間をとりまく“町”が主人公であったことである。あるシチュエーションの中で織り成す人間模様を描いているのは、今までと同じなのだが、今回はどこか違って見えた。幸子を主人公におき幸子の人生を一本通して描いてはいるが、私には近所の人達が泣き笑い日々を過ごす“町”こそが、主人公に思えた。下町という匂いというか空気というかそんなものが登場人物からにじみ出ていたからそう感じたかもしれないが、まさしく“下町物語”であり、幸子の物語は、その長い歴史の一幕を切り取っただけという感じだった。失敗してもやり直せるさ、ダメでもいいじゃないの、と笑って許してあげる周囲の空気、それこそがこの芝居の本質ではないだろうか。
いつも主役を演じている人を脇にまわし、岩橋道子を主演に抜擢したのも良かったと思う。空気も新鮮だったし。前作でもなかなか良い印象が残っているが、今回もかわいいパープー役を見事にこなしてした。一話完結物の連ドラみたいな、テレビのホームドラマっぽい空気がラッパ屋にはあったが、その空気を今回は岩橋道子が払っていたようにさえ感じた。かと言って他の役者が引っ込んでいるわけではなく、いい具合に出しゃばり、それが見事に調和していた。それを思うと緩急が見事に噛み合った配役だったのではないだろうか。だから斎藤幸子の物語は終るが、下町に生きる彼等はまだまだ力強く生きているという感じが残り、終演後も心が暖かくなる。とても気持ちの良い芝居であった。あっ、中身も非常におもしろくゲラゲラ笑えた。そして、ちょっとホロリ。描き方が軽いのがどうかと思うが、人生の喜怒哀楽を軽く、心に刺さらない程度に描くのがラッパ屋の魅力でもあるので大満足。暖かな気持ちで終始見れるのも魅力。でも、不倫してたり大変な事件は起こってるんだけどね。役者がうまくなっているのも非常に印象に残った公演であった。
“ラッパ屋”自分が観た公演ベスト
1.サクラパパオー 2.凄い金魚 3.斎藤幸子 4.マネー 5.中年ロミオ 6.ヒゲとボイン 7.エアポート'97 8.裸天国 9.鰻の出前 10.阿呆浪士
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチとある西部の町。その町にある酒場が舞台。その町へ一人のガンマン(女性なのでガンウーマン?)の“早撃ちエルザ(犬山犬子)”がやって来る。エルザは母の仇を討ちに、この町に住むアイアンビリーを訪ねてやって来た。酒場では前日にアンアンビリーが暴れて割った皿をかたずけている女達の姿があった。アイアンビリーを待つエルザ。しかし、いくら待ってもアイアンビリーはやって来ない。それから数日が経ったが、一向にアイアンビリーがやって来る気配がない。それどころかこの町には男の姿がなかった・・・しかし、女達は男がいない事には触れようとしなかった。
以前、この町は人が死なない平和な町であったらしい。しかし、ある時そんな平和な酒場で男達が次々と殺されて行った。男達がいなくなったのもそんな殺し合いの結果だったみたいだ・・・そんな経験があるのにもかかわらず、エルザという部外者の侵入により、女達の関係が微妙に不愉快な方向にずれて行く・・・そして、ついに銃声が轟き、女達をひとり、またひとりと蝕んでいく・・・。決してつまらない芝居ではなかった。でも、この手の作風は自分には合わないらしく、正直言って退屈であった。男が不可欠な西部劇を女性だけで演じるってのは面白い発想だし、セクシーで、ワイルドで、バイオレンスな雰囲気も好きだし、後半狂気が暴走し次々と人が死んで行ってしまうのも好きだ。存在しない人間を待っている辺りは『ゴドーを待ちながら』的でもあり、脳細胞を刺激される。しかし、残念な事に、この物語が何を言おうとしているのか全然わからなかった。着地点がない不安な物語は嫌いではないが、ちょっとその不条理さとは別ものであった。どちらかと言うと主テーマがないまま物語が拡散し、収集できないかった結果の不条理さみたいな感じが残ってしまった。もしかしたらこの「だから何?」的な意味を持たないナンセンス感が作者の意図かもしれないが、自分には伝わってこなかった。
作品の出来とは別に、女優陣の素晴らしさには拍手を贈りたい。娼婦エリセンダ(峯村リエ)、同じく娼婦のデボア(戸川純)、酒場のオーナー・クレメンタイン(松永玲子)、酒場のマスター・マリネ(長田奈麻)、酒場で働くエバ(今江冬子)、その娘メリィ(澤田由紀子)、アイアンビリーの妻・カミーラ(明星真由美)、少年チビ(新谷真弓)、ガス(村岡希美)。みなそれぞれの持ち味を出し最高であった。戸川純の歌も良い。しかし、それが作品に結びついていなかったのが本当に残念でならない。でも、この作品を名作と絶賛する人もいたので、駄目だったのは自分だけなのかも。まぁ感性は人それぞれって事で。
“NYLON100℃”自分が観た公演ベスト
1.カラフルメリイでオハヨ'97 2.ファイ 3.ナイス・エイジ 4.フローズン・ビーチ 5.吉田神経クリニックの場合 6.ザ・ガンビーズ・ショウ Bプロ 7.薔薇と大砲〜フリドニア日記#2〜 8.偶然の悪夢 9.フランケンシュタイン 10.絶望居士のためのコント 11.すべての犬は天国へ行く 12.イギリスメモリアルオーガニゼイション 13.テクノ・ベイビー 〜アルジャーノン第二の冒険〜 14.ロンドン→パリ→東京 15.下北沢ビートニクス 16.ザ・ガンビーズ・ショウ Aプロ
作・演出 翠羅臼ぶらりと火祭りにやってきた男が焚き火の横で寝ていると、“ヒノコ”と名乗る少女3人が男の傍らにやって来る。少女達は、その男に向かって「火を盗みにやってきた“トリオ”だ」と叫ぶ。現実か幻かわからないその光景を振り払おうとして立ち上がった男は、焚き火の横に座っている盲目の男とぶつかってしまう。盲目の男は、男の話を聞き、それは目に見えない世界を見てしまったのだと話す。男は盲目の男の目となり“目に見えない世界”へと足を踏み入れる。そこには見せ物小屋がそびえ立っていた。そして、この世界で出会った男(火男座の座長であり、すでに死んでいる。今日が命日)の導きにより火男座の生涯を見る事となる。座長が火男座を結成し、筏に乗ってこの町にやって来たところから、座長の人間ポンプで一躍人気者になる所を経て、座長の死後、落ち目になった火男座は単独で興行を打つこともできず、お化け屋敷の手伝いをして細々と暮らしている今の姿までが、走馬灯のように蘇る・・・。トリオと呼ばれた男を語り部として、火男座の誕生から衰退、そして新たな旅立ちまでを描いた作品。
案内によると希代の見世物芸人であった故安田里見さんの偉業を偲び、彼らの営みの軌跡から自分達の現在を照らし出そうと試みた作品らしい。その精神をアングラ芝居の王道である火と水を存分に使った芝居にのせた“小屋芝居”。怒鳴ってセリフが聞き取りにくいとか、役者の演技がヘタ(気持ちだけは充分入っているのだが・・・)とか出来の良し悪しはどうでもいいと思えてしまう、血踊る芝居であった。自分達で作り上げた小屋とか大道具(今回は手作り観覧車)も素晴らしい。物があふれている今の時代だからこそ、この無駄とも思える芝居馬鹿の舞台を大切にしたい、そんな素晴らしい舞台であった。
「わしらはな、ずっとずっと前に、筏で運河を渉って遠くからこの街までやってきたんや」
というチラシに書かれた言葉が、この劇団の姿とダブり心に何かが刺さった。『渋さ知らズ』の生演奏もいい。芝居の熱さとは反比例して小屋の寒さには堪えた。毛布を巻いて寒さをしのいだが効果はあまりなし。4月だと言うのに凍える寒さであった。終演後の焚き火が最高に嬉しく、なかなか劇場を離れられなかった。暖もあるが現実世界に戻るのを拒否していた気持ちも大きい。帰り道、後を振り返ると暗闇の中に浮かぶ芝居小屋がとても幻想的であった。今までいた芝居小屋が蜃気楼のようで、突然消えていないか何度も何度も振り返りながら帰路に着いた。こんな芝居もたまにはいい。
“ルナパーク・ミラージュ”自分が観た公演ベスト
1.火男 2.ロスト・サブウェイ
作・演出 故林広志1.ぷろろうぐ
イタリイにいるつもりで手紙を書いている柳泰山先生(竹井亮介)の独り言。
2.見覚えある顔の話
掃除をしている女中さち(三谷智子)と手伝いに来ているはつみ(藤野節子)。会話はいつしか、夢で今と同じシーンを見たという話になる。夢ではそこで泰山先生が現れるんだけど・・・って話をしていると、現実でも同じく泰山先生が現れる。夢と現実が混沌としていく・・・。そんな状況で大騒ぎな泰山とさち。一人冷静なはつみ。ゴミの山から仏像が現れるのは、故林版「井戸の茶碗」か?
3.洗濯物が乾くまでの話
女中のはつみと外国から来て日本に住み着いたウォン(坂本絢)の会話に割り込んでくる泰山先生。いつしか御伽噺の物知り度合いではりあい始め、御伽噺を創作し始めるまで発展していく。しかし、うまく作れず墓穴を掘っていく泰山先生の姿がなんとも哀しい。
4.お香の話
泰山先生が書いていた本が廃刊になるらしいと言う噂話をしている泰山先生と編集者カヤシマ(矢柴俊博)。カヤシマが持って来た香には愉快になってしまう効能があるらしく、落ち込む話が妙に愉快な話になって行く・・・。
5.谷あいの岩の話
恨みを言うと叶えてくれるという云われのある岩の前に佇む男(神田北陽)。彼は岩の精らしい。その前を通りかかった泰山先生の話。
6.契約の話
うたの(佐々木陽子)が10年ぶりに泰山先生の元へ相談事を打ち明けに訪れた。10年前と変わらないうたの。聞くところによると年を取らない契約を交したらしい・・・故林版「ファウスト」な作品。
7.宿の夕食の話
宿に停まりにやって来た編集者。その部屋には縄で縛られた男(原武昭彦)がいた・・・故林版「山婆」な作品。
8.えぴろうぐ
ちょっと気心が知れているが、ちょっとどころかかなりズレている三姉妹の会話。古き良き日本の懐かしき狂気に、笑いの奥底にある陰影を映し出す『漢字シティ』。しかし、狙いとはいえ、全体を包む静かな笑い(ゲラ笑いじゃなくニタリ笑い)には、物足りなさを感じてしまう。ゲラゲラ笑っている中にも、どこか薄ら寒くなる空間の構築がなされていればいいのだが、どちらももうひとつという感じがしてならない。面白い空間を作り出してはいるのだが、もっと極端な落差が欲しい。腹の底から笑ってしまった事を悔やむほどの恐怖。最後の一瞬だけ背筋が寒くなるみたいなものが欲しかった。それが、人により読み取れなくてもいい。「今のどこが怖かったの」って観劇後人に聞き、怖さを認識するのもいい。それくらいの一瞬の切り返しみたいなものが欲しかったと思う。
個々の作品では、特に【6.契約の話】の空気が好きだ。佐々木陽子の本来持っている雰囲気の効果が大きいが、それを生かした演出、どこか生きた人間の温度を感じさせない雰囲気は、作品をとても面白いものにしていた。【7.宿の夕食の話】は、途中で話が読めてしまうが、原武昭彦のキャラでうまく見せていた。あの狂気の笑顔はクセになりそう。【5.谷あいの岩の話】も神田北陽のキャラが作品の面白さを引き出していた。この役は本田誠人とダブルキャストだったが、本田バージョンは観る事ができなかったので比較はできず。どっちが面白かったんだろう?竹井・三谷のコンビネーションも、なかなかどちらも天然っぽく似たもの同士感(合っていないようでいて実は波長が同じみたいな感じ)がいいリズムを醸し出していた。しかし、そんな二人のリズムを大幅に狂わす存在も欲しかった。今回は藤野・矢柴が絡んでいるが、どちらかと言うと二人とも正常な人間で、その中で泰山&さちの駄目っぷりが発揮されている。そいうのも面白いが、もっと狂気を含んだ変な人間(悪人でもいい)を絡ます事によって、二人の行動がどうでるか見てみたいと思った。二人して戸惑うのもいい、片方が裏切るのもいい。
今回のキャスティングは、小劇団好きにはたまらなくいいキャスティングだと思う。粋と言うか艶があると言うかわびさびを感じる・・・とまで行くとなんだかわからないが、これ以上はないと言えるキャスティングだと思う。演技のうまい役者が揃っていたし、女性はみんな着物が似合うし。ただ、一般的にはインパクトが弱かったように感じる。まぁ悪く言ってしまえば地味。作品の中味も、古風な純日本風が持ち味の『漢字シティ』らしいと言ってしまえばそれまでだが、やはり地味感は拭えない。思いきって、そんな空気を破壊してしまう否日本人的キャラがスパイス的に登場しても良かったと感じた。顔の濃い役者とか、名前だけでも横文字とか。カタカナでもいいや。そんなおふざけも欲しかった。
“故林広志prd.”自分が観た公演ベスト