"Old"ナルドの香油

火垂るの墓の物語


火垂るの墓の物語
2013年8月24日
 
 著者の野坂昭如氏自身は反戦小説のつもりではなかった様だが、戦争の惨たらしさを伝える作品として有名な”火垂るの墓”は私にとって特別な作品である。あの物語に出てくる舞台は神戸・西宮であり、まさしく私の生まれ育った故郷である。

 特に思い入れの強い場所は”満地谷と言われるところで、主人公の清太と節子がたった二人で生きていた防空壕のあった所である。私の思い出の中には、物語とは真逆の桜が満開で人々が楽しく春を満喫している姿がある。父は山歩きが好きだったので、私たちにその季節にふさわしい景色を見せるためあちらこちらに連れて行ってくれた。

 火垂るの墓を知るまでは私にとって明るく美しい思い出の場所であった。しかし、その様な私も物語を通して悲しい時代があったことを知り、また、自分の父のお葬式の時にもう一度”満地谷”という地名を聞くことになる。そこは、桜の名所というだけではなく人生の最期をむかえる火葬場がある場所でもある。

 この夏、私は母の許しを得て父の遺骨を分けてもらった。神戸のお墓が少し遠く、母が墓参り出来なくなると誰も世話ができなくなるからである。分けてもらったお骨を小さな骨壺に入れると、なんとも切ない乾いた音がした。火垂るの墓の物語の中でもドロップの缶の中で音を立てる節子の骨の音がするシーンがあるが、平和な時代にきちんと死を迎えられる国であり続けて欲しいと私は強く願っている。