台風の記憶 |
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2014年7月8日 |
今日の新聞のコラムを見て、47年前の記憶が蘇ってきた。 その頃、私は9歳で、生まれた地、神戸に住んでいた。どうしてこの時のことを覚えているかというと、七夕のすぐ後だったからだ。 七夕飾りを父と一緒に芦屋川に流しに行き、その夜大雨が襲って来たのだ。 いつも、台風が来ると、祖母と母は被害を最小限にしようとバタバタし始める。それが父は嫌いで、バタバタするんじゃない!と怒り出す。 何かが水に浸かったり、流れていったりしたら後が大変だと女たちは知っているので、怒られても止めるわけにはいかない。しかし、父が座っている畳に手をかける訳にもいかず、手をこまねいていると、ついに、その時がやって来た。 水の力という物は凄い物である。床下に流れ込んで来た水によって箪笥や家財道具が浮かび始めた。こうなってしまえば、いくらバタバタするのが嫌いな父もじっとしているわけにはいかない。驚いて物をどけはじめた。 家の南側のガラス戸は、水の力なのか物でも当たったのか割れてしまい、車が通る度に水が波の様に我が家に入って来た。また、東側の狭い通りはまるで川の様に泥水が流れていた。 変わり果てた家の中、私たち家族はいったいどの様にその夜を過ごしたのか覚えがない。しかし、どんなかたちにしろ私は眠れたのであろう。それは子供の特権である。眠れぬ夜を大人たちが身じろぎもせずに守ってくれていたからこそである。 台風が来ると聞くと、47年前のことを思い出す。泥の臭いや雨風の音、そして、台風が去った後の石灰の白さとクレゾールの臭い。幼かった私の脳裏に焼き付いている。 |
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