毒劇物の取り扱い


< はじめに >
 毒劇物は一般にはあまり馴染みのないものですが、私達の周りの様々な分野で用いられ、とても利用価値が高く、工業薬品・農薬・小・中・高・大学や研究機関で使用される試薬などとして数万種類が流通していると言われています。そして、私達の暮らしの身近な場所で、その化学的特長をいかして有用に活用されています。しかし、毒劇物は吸引や接触により中毒になるなどの危険性を併せ持っているため当然、取り扱いには細心の注意が必要になります。 が、あまりに身近で使用されているためか毒劇物が「毒物及び劇物取締法(毒劇法)」によってその保管・管理等が厳格に規制されていることがおろそかにされている面があるようです。
ここ数年、亜砒酸やアジ化ナトリウム、青酸化合物などによる犯罪が続発して大きな社会問題となったことはご承知の通りでしょうし、学校の薬品棚から保管が不適切だったために盗難にあったり、最近では運搬中のトリクロロシランが事故で漏れ出し近隣の住民に不安を与えるなど犯罪・事故が絶えません。
 今回、学校等での薬品管理を考える上で、毒物劇物の正しい取り扱いについてもう一度再確認すると同時に、代表的な物質についての知識と事故等における応急処置について考えてみます。


<1> 毒劇物とは
<2> 毒劇物の主な用途
<3> 毒劇物の取り扱いと保管管理について
<4> 毒劇物中毒の際の応急処置方法
<5> 主な毒劇物
<6> 毒物及び劇物取締法
<7> 気になる事例



<1> 毒劇物とは
 化学物質の内どれが毒劇物に当たるかは、毒劇法で定められています。 平成11年3月現在、特定毒物19品目、毒物92品目、劇物347品目が指定されています。
 毒性の度合いは、毒性の強いものが毒物、やや弱いものが劇物です。 また、特定毒物は極めて毒性の強いものを指します。
<2> 毒劇物の主な用途
<薬品製造工場> <薬局などの販売店> <農 家(農薬)>
<メッキ工場> <接着剤・塗料・繊維等の工場> <学 校>
<研究施設> <建設業> <害虫・害獣駆除業>

※他にも半導体等の製造工場やさまざまな施設・事業所などで使用されています。

<3> 毒劇物の取り扱い及び保管管理について

A: 毒物劇物取締法とは
  
B: 保管管理で特に注意すべき事柄
1. 毒劇物の製造・輸入・販売を行うためには取扱責任者を設置する。(毒劇法 第7条)
2. 敷地境界線から離れたところに保管する。(毒劇法 第11条 昭和52年薬務局長通知)
3. 保管場所は目の行き届くところにする。
<陳列する棚にも毒劇物の表示をし、明確に区別する>
★毒劇物は容器に表示をしなければならない。
 毒劇物の容器であることが誰にでも分かるように、毒劇法では容器に、毒物は赤地に白文字で「医薬用外毒物」、劇物は白地に赤文字で「医薬用外劇物」と明記するよう義務づけています。
★毒劇物の容器として、飲食物の容器を使ってはならない。(毒劇法第11条)
毒物の製造、販売者は毒劇物に使用する容器については、毒性のある物だとはっきり伝わるようにしなければならない。一時的にも飲食物容器に移し替えれば、事故等の加害者になるおそれもあるので、購入した方や、使用する方も、飲食物の容器を毒劇物用には使わないように!
4. 保管庫に貯蔵するときは施錠をするとともに、鍵の管理を徹底する。(毒劇法施行規則第4条)
5. 紛失防止のため「管理簿」を作成し、定期的に在庫量を確認する。
6. 漏洩・流出防止のため施設をコンクリート製にするなど毒劇物の性質に合わせる。
7.
 
 
盗難・紛失・漏洩・侵出した場合の措置について
@通報体制の整備
A被害を拡大しないような措置を講じる。
8. 毒劇物の購入について
@毒劇物の購入するときは、必要事項を記入し、捺印した譲受文書を作成、営業者に提出する。

必要事項
@毒物又は劇物の名称及び数量    
A販売又は授与の年月日
B譲受人の氏名、職業と住所(法人は会社名と所在地)

A毒劇物の他者への譲渡・販売は禁止されています。  
B無用の毒劇物を購入しない
C: 廃棄する場合の注意点
原則として毒劇物でない物にしてから廃棄する

中和加水分解等で
毒劇物ではない物
にする。

毒劇物を廃棄する場合は、上のイラストにあるような他の法令の
規定する基準にも同時に適合していなければならない。
勝手に廃棄しない
自治体では収集及び回収はしていませんのでゴミとして出してはいけません。
自分で処理をして廃棄するのが原則ですが、自己処理が出来ないときは、有償で都道府県知事の認可を受けた廃棄物処理業者に委託する。
<4> 毒劇物中毒の際の応急処置方法
1.
 
 
 
 

 
 何らかの症状が現れているときは、早急に医療機関を受診することが必要です。
受診の際には、毒劇物の種類、量、経路を伝えることが重要で、原因物質や摂取量を、周囲に残された
瓶や空き箱など周囲の状況から特定できるように努めます。
医師や救急隊が到着するまでの間に応急処置を施すこともできるかもしれませんので連絡した医師や消
防機関、又は(財)日本中毒情報センター等に相談する。
一般的な応急処置は、以下の通りです。
飲み込んだとき
 1)水や牛乳を飲ませる。
   牛乳には胃壁を保護し、毒劇物の働きを弱める作用があります。    
    <注意>防虫剤、石油製品等では、牛乳を飲ませてはいけません。   
          かえって害になることがあります。
 2)のどの奥を刺激して吐かせる。
    <注意>吐いた物が気管に入らないようにする。
          意識がないときや痙攣を起こしているときは、吐かせてはいけません。
          強酸や強アルカリを含む製品(洗浄剤、漂白剤など)、石油製品等については、
          吐かせてはいけません。かえって害になるおそれがあります。
ガスを吸入したとき
 きれいな空気の場所へ移動させ、安静にさせる。
目に入ったとき
 流水で15分以上洗い続ける。
   顔を横に向けてからゆっくり流すか、水道の場合は弱い流れの水で洗う。
   (勢いの強い水で洗うと、かえって目に障害を起こしたりします。)
皮膚に付いたとき
 毒物の付いた着衣はすぐに脱がせ、石鹸を使って皮膚を十分に水で洗う。
意識がないとき
 吐いた物がのどに詰まらないように、左側を下にした横向きの姿勢(昏睡体位)をとらせる。
 下あごを前に出し、気道を確保する。
呼吸が止まっているとき
 人工呼吸法を熟知しているならば、直ちに実施する。但し、中毒者の口の周りや身体の中
 には毒物が含まれているため、二次中毒に注意するとともに、中毒者の呼気を吸い込まな
 いようにする。
2.
 
 
 症状が急を要していないと思われても、毒劇物の種類や摂取量、摂取経路によっては、時間がたって
から発症することもあるので注意が必要です。何を摂取したのかが分かれば、上の応急処置を行ったり
、医療機関へいく等の対応方法も決まってきます。
3.  毒劇物の毒作用や治療方法に関する情報が必要な場合は、中毒110番に問い合わせする。
(財)日本中毒情報センターへの連絡方法
大阪中毒110番
    電話 0990−50−2449 (24時間、年中無休)

つくば中毒110番
    電話 0990−52−9899 (9:00〜17:00で12/31〜1/3を除く)

 ※ダイヤルQ2制:通話料の他に情報料(3分300円)がかかります。
<5> 主な毒劇物について
 <その名称・通称名・化学式・性状・措置等について>
<ア> 亜塩素酸ナトリウム アセトンシアノヒドリン
アクリルアミド 亜セレン酸ナトリウム
アクリルアミド水溶液 亜セレン酸バリウム
アクリルアルデヒド アニリン
アクリル酸 2−アミノエタノール
アクリルニトリル アリルアルコール
亜硝酸ナトリウム アンチノック剤
亜硝酸メチル アンモニア水
アジ化ナトリウム
<イ> 一酸化鉛 一水素二弗化アンモニウム
EDDP EPN
<エ> 液化アンモニア 塩化第一銅
液化塩化水素 塩化第二金
液化塩素 塩化第二水銀
N−エチルアニリン 塩化第二錫(無水物)
エチルチオメトン 塩化第二錫・五水和物
N−エチルメタトルイジン 塩化第二銅
エチルメチルケトン 塩化第二銅アンモニウム
エチレンオキシド 塩化チオニル
エチレンクロルヒドリン 塩化トリフェニル錫
NAC 塩化バリウム
エピクロヒドリン 塩化ホスホリル
MIPC 塩化メチル
MTMC 塩基性ケイ酸鉛
MPP 塩基性炭酸銅
塩化亜鉛 塩酸
塩化エチル 塩酸アニリン
塩化カドミウム 鉛酸カルシウム
塩化金酸 塩素酸カリウム
塩化第一水銀 塩素酸ナトリウム
塩化第一錫  
<オ> 黄リン オキシシアン化第二水銀
<カ> 過酸化水素水 過酸化ナトリウム
過酸化尿素 カリウム
カリウムナトリウム合金 カルタップ
カルボン酸(高級脂肪酸)のバリウム塩        
<キ> 蟻酸(ぎ酸) キシレン
キノリン  
<ク> クレゾール クロロアセチルクロライド
クロム酸亜鉛カリウム 2−クロロアニリン
クロム酸カルシウム クロロ酢酸ナトリウム
クロム酸水溶液 クロロスルホン酸
クロム酸ストロンチウム 2−クロロニトロベンゼン
クロム酸ナトリウム クロロピクリン
クロム酸鉛 クロロプレン
クロム酸バリウム クロロホルム
<ケ> ケイ酸鉛 硅弗化銅
硅弗化亜鉛 硅弗化ナトリウム
硅弗化アンモニウム 硅弗化鉛
硅弗化カリウム 硅弗化バリウム
硅弗化水素酸 硅弗化マグネシウム
硅弗化錫 硅弗化マンガン
<コ> 五塩化アンチモン 五塩化砒素
五塩化燐 五酸化二砒素
五酸化バナジウム 五弗化アンチモン
五弗化砒素 五硫化二リン
<サ> 酢酸亜鉛 酸化第二水銀
酢酸エチル 酸化バリウム
酢酸第二水銀 酸化ビス(トリブチル錫)
酢酸第二銅 酢酸トリフェニル錫
酸化ビス(トリブチル錫)のエマルジョン10% 酸化アンチモン(V)
酢酸鉛 三酸化二砒素
酢酸フェニル水銀 三弗化アンチモン
三塩化アンチモン 三弗化砒素
三塩化砒素 三弗化硼素
三塩化硼素 三弗化燐
三塩化燐 三硫化二砒素
三塩基性硫酸鉛  
酸化カドミウム  
<シ> シアナミド鉛 臭化カドミウム
2,4ージアミノトルエン 臭化銀
シアン化亜鉛 臭化水素酸
シアン化カリウム 臭化第二水銀
シアン化銀 臭化メチル
シアン化コバルトカリウム 重クロム酸アンモニウム
シアン化水素 重クロム酸カリウム
シアン化第一金カリウム 重クロム酸ナトリウム水溶液
シアン化第一銅 シュウ酸
シアン化銅酸カリウム シュウ酸ナトリウム
シアン化銅酸ナトリウム 臭素
シアン化ナトリウム 酒石酸アンチモニルカリウム
シアン化ニッケルカリウム 硝酸
四塩化炭素 硝酸亜鉛
四塩基性クロム酸亜鉛 硝酸カドミウム
シクロヘキシルアミン 硝酸銀
ジクロル酢酸 硝酸第一水銀
ジクワット 硝酸第二水銀
2,4ージニトロトルエン 硝酸第二銅
四弗化硫黄 硝酸鉛
ジボラン 硝酸バリウム
ジメチルアミン 四硫化四砒素
臭化エチル  
<ス> 水銀 水酸化バリウム
水酸化カドミウム 水素化アンチモン
水酸化カリウム水溶液 水素化砒素
水酸化トリフェニル錫 ステアリン酸カドミウム
水酸化ナトリウム水溶液 ステアリン酸鉛
水酸化鉛  
<セ> セレン セレン化水素
セレン化鉄  
<タ> ダイアジノン 炭酸カドミウム
炭酸バリウム  
<チ> チオシアン酸亜鉛 チオシアン酸第一銅
チオシアン酸第二水銀 チタン酸バリウム
チメロサール  
<テ> DEP DCIP
DDVP  
<ト> トリクロル酢酸 トリクロロシラン
トリフルオロメタンスルホン酸 トルイジン
トルエン  
<ナ> ナトリウム βーナフトール
<ニ> 二塩基性亜硫酸鉛 二臭化コハク酸ビス(トリブチル錫)
二塩基性亜燐酸鉛 ニッケルカルボニル
二塩基性ステアリン酸鉛 ニトロベンゼン
二塩基性フタル酸鉛 二硫化炭素
二酸化セレン  
<ハ> 発煙硫酸 パラコート
<ヒ> PAP 砒素
BPMC ヒドラジン
ピクリン酸 ピロリン酸亜鉛
ピクリン酸アンモニウム ピロリン酸第一錫
砒酸 ピロリン酸第二銅
砒酸水素二ナトリウム  
<フ> フェノール 弗化第一錫
フェンバレレート 弗化第二銅
Nーブチルピロリジン 弗化トリフェニル錫
弗化亜鉛 弗化トリブチル錫
弗化水素 弗化鉛
弗化水素酸 弗化バリウム
<ヘ> ヘキサフルオロアンチモン酸カリウム ヘキサフルオロアンチモン酸ナトリウム   
ヘキサフルオロ砒酸リチウム ヘキサメチレンジイソシアナート
<ホ> 硼酸鉛 硼弗化ナトリウム
硼弗化アンチモン 硼弗化マグネシウム
硼弗化アンモニウム 硼弗化リチウム
硼弗化カリウム ホスゲン
硼弗化水素酸 ホルムアルデヒド水溶液
硼弗化テトラエチルアンモニウム  
<ム> 無機シアン化合物含有液 無機シアン化合物たる毒物を含有する液状物  
無水クロム酸水溶液 無水クロム酸
<メ> メタクリル酸 メタノール
メタホウ酸バリウム Nーメチルアニリン
メチルアミン メチルメルカプタン
メトミル  
<ヨ> ヨウ化銀 ヨウ化水素酸
ヨウ化第一銅 ヨウ化第二水銀
ヨウ化メチル  
<ラ> ラウリン酸カドミウム  
<リ> 硫化カドミウム 硫酸ヒドロキシルアミン
硫化バリウム 硫酸モリブデン酸クロム酸鉛
硫酸 硫セレン化カドミウム
硫酸亜鉛 燐化亜鉛
硫酸カドミウム 燐化アルミニウム及び分解促進剤を含有する製剤 
硫酸銀 燐化水素
硫酸ジメチル リン酸亜鉛
硫酸第一錫  
硫酸第二銅  
<ロ> 六弗化セレン  
<6> 毒物及び劇物取締法
<7> 気になる事例